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アップル「脱中国」は達成間近。消えた中国の世界的輸出増、サプライヤーの9割がインド・ベトナム移転へ=勝又壽良

中国の担うサプライチェーンは危機を迎えている。アップルのサプライヤーのほぼ9割が、大挙してインドやベトナムへ移転する打診を受けているという。これが現実化すれば、中国経済には大きな打撃となろう。産業空洞化の始まりである。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

中国の担うサプライチェーンは危機を迎えた

中国は、3年に及ぶゼロコロナ政策とその間に進んだ米中対立によって、経済は思わざる展開になっている。ゼロコロナの中で、政策見通しがつかないという「予測不能性」。ウクライナ侵攻が、連想させる地政学的リスクも重なって、中国の担うサプライチェーンは危機を迎えたのだ。

アップルのサプライヤーのほぼ9割が、大挙してインドやベトナムへ移転する打診を受けているという。これが現実化すれば、中国経済には大きな打撃となろう。産業空洞化の始まりである。詳細は、後で取り上げる。

国営中央テレビ(CCTV)によれば、習近平国家主席は江蘇省の全人代代表団に対し3月5日、次のように発言している。「中国にとって、食料確保と製造業の強化が重要である。人口14億人の大国として、この問題を解決しなければならない。国際市場に頼り、われわれを救うことはできない」

この発言は、習氏がかねてから主張する「双循環モデル」(国内市場を重視し、貿易は補足手段)への実行を示唆したものである。いわば、「籠城経済」を志向し始めている点に注目すべきだ。中国が、ここまで追い詰められていることを言外に示したと言えるだろう。

疲労困憊の地方経済

中国が、突然の「ゼロコロナ」打ち切り策に出た背景について今、明らかになってきたことが多い。

地方政府の財源難が、顕著になっていた結果だ。住民10万人を超える北京のある区画の指導者は、ロイターの取材に対して、「昨年後半に入るころ、PCR検査会社や住民の外出を規制する警備会社に支払う資金が底を突いていた。地方政府レベルでは、単純にもうゼロコロナ政策を執行できなくなっていた」と述べている。

要するに、北京ですら財政的に困窮していたわけで、他の地方政府になれば、言わずもがなの事態に突入していたであろう。地方政府の有力財源である土地売却収入は、不動産バブル崩壊で減り続けている。こうした事態では、もはやゼロコロナを打ち切らざるを得なかったのだ。ゼロコロナを打ち切った後に、各地で公務員の給料遅配に対する抗議デモが起こっている。ここまで、財政危機が進んでいたと言える。

中でも衝撃的だったのは、税務署職員による給料未払いを訴えたデモである。税務署と言えば、最も資金の豊富な部署と見られている。そこが、「現金不足の事態」に陥ったことに、一般市民までが財政危機の深刻さを認識させられたほどである。

こうした環境下だけに、ゼロコロナ打ち切り後の経済が、直ぐに活発化するとは予想し難い。1~2月のPMI(購買担当者景気予測指数)は、好不況分岐点の50を大きく上回っているが、比較するベースが余りにも低かったので、表面的に高い水準になったと見るべきだろう。つまり、「見せかけ」の好況感に過ぎないのだ。

中国が、23年のGDP成長率目標を発表したが、「5%前後」と22年の「5.5%前後」を下回る控え目な数字となった。事前予測では、「5%台」という強気目標が報じられていた。それが、5%前後に後退した理由は、1~2月の実績が芳しくなかった結果である。

内需からみれば、産業構造の牽引役は住宅と自動車である。この2業種が、力強い回復力を見せなければ、中国経済に明るさは戻らないのだ。住宅は、不動産バブル崩壊の渦中にある。住宅を購入しても、新居に住めない人たちが180万人もいる状況だ。この状況が改善されない限り、安心して購入契約を結べるはずがない。それほど、不動産開発企業への信頼感が失われているのである。

自動車(EVなど新エネルギー車)は、昨年一杯で取得税(10%)半減策が、すでに終了している。だが、1~2月の新車販売不振であったので、再度の取得税半減が議論されていると報じられた。優遇策がなければ、今年の販売台数は伸び率ゼロが予測されているほどだ。自動車優遇の裏には、半導体産業テコ入れも絡んでいる。中国半導体は、米国からの厳しい輸出規制によって苦しむトップ企業に対し、政府支援が行われている。こうして、EV(電気自動車)の生産増が、半導体支援になるという期待感が滲み出ている。

Next: 消えた世界的輸出増。アップルの「脱中国」はもう止まらない

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