2021年、IBMの年間売上をAmazonのクラウドサービスであるAWSが追い抜きました。IBMの創業は1911年と100年以上の歴史がありますが、一方でAWSは2006年のサービスローンチからまだ約15年しか経過していません。AWSは15年という期間でIBMの売上を追い抜くまでシェアを拡大してきましたが、なぜIBMは追い越される結果となったのでしょうか?その理由を、IBMの歴史や決算説明資料などから考察していき、今後の成長戦略についても推察していきます。(『決算が読めるようになるノート』シバタナオキ)
この記事はカネコシンジさん(企画・リサーチ担当)とmasmさん(ライティング担当)との共同制作です。
※本記事は有料メルマガ『決算が読めるようになるノート』2022年03月29日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
AppGrooves / SearchMan共同創業者。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。元・楽天株式会社執行役員(当時最年少)、元・東京大学工学系研究科助教、元・スタンフォード大学客員研究員。
Q. IBMの年間売上を、AWSが逆転したのはなぜ?
2021年、IBMの年間売上をAmazonのクラウドサービスであるAWSが追い抜きました。
IBM:$57B(約5.7兆円)、YoY+3.94%
AmazonのAWS事業:$62B(約6.2兆円)、YoY+37.10%
IBMの創業は1911年と100年以上の歴史がありますが、一方でAWSは2006年のサービスローンチからまだ約15年しか経過していません。
AWSは15年という期間でIBMの売上を追い抜くまでシェアを拡大してきましたが、なぜIBMは追い越される結果となったのでしょうか?
その理由を、IBMの歴史や決算説明資料などから考察していき、今後の成長戦略についても推察していきます。
IBM社について
まず、IBM社の会社概要について紹介していきます。
IBMは、C-T-R(Computing-Tabulating-Recording)社という合弁会社として1911年に創業した110年以上の歴史を持つ企業であり、創業当初は秤やタイム・レコーダー、計算機などを製造していました。
1924年に現在のIBMに社名が改名され、バーコードによる商品管理の仕組みの開発、人類初の月面着陸を試みたアポロ計画のシステム開発、コンピューター・メモリーのDRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリの略)を開発するなど、デジタル社会の実現に大きな影響を及ぼしてきた企業です。
近年では、Watsonという人工知能を開発しており、米国のクイズ番組のチャンピオンと対戦して70%の確率で勝利するまで人工知能の能力が高まってきています。このような高性能の人工知能を、実用化できるようなサービス開発にも取り組んでいます。
IBMの売上推移
次に、IBMの業績を確認していきましょう。
上のグラフはIBMの通期売上とYoY成長率の推移です。FY17(2017年度)の通期売上は$79B(約7.9兆円)で、そこから毎年微減が続き、直近のFY21は$57B(約5.7兆円)、YoY▲22.1%と一段と売上が減少しています。
FY21の大幅な売上減少の理由は後述しますが、売上高をさらに分解し事業別に見ていきましょう。
IBMの直近の事業別売上
IBMの事業領域は大きく「Software」「Consulting」「Infrastructure」の3つに分かれており、これらでFY21Q4(2021年第4四半期)売上の98%を占めています。それぞれの事業内容と売上高を見ていきましょう。
▼Software
Software事業は、ハイブリットプラットフォーム・ソリューション、自動化、データ・AIなどのソフトウェアサービスを提供しています。中でも最も成長しているのは、IBMの子会社として2019年7月に買収したRed Hatで、Linuxをはじめとしたオープンソースソフトウェアを利用したサービスを行っています。
Software事業のFY21Q4の売上は$7.3B(約7,300億円)、YoY+10%、最も成長したRed HatはYoY+21%、自動化サービスはYoY+15%と、Software事業全体の成長に貢献しました。
▼Consulting
Consulting事業は、ビジネス系のコンサルティング、テクノロジーコンサルティング、アプリケーション運用など幅広いコンサルティングサービスを展開しています。
Consulting事業のFY21Q4の売上は$4.7B(約4,700億円)、YoY+16%と、Software事業を上回る成長率となっています。
Consulting事業もRed hatが好調で、新たに150の顧客開拓に成功しています。それに加え、ハイブリッドクラウドコンサルティングがYoY+34%と大きく成長しています。
▼Infrastructure
Infrastructure事業は、ハイブリットクラウドサーバのIBM Zや、分散インフラストラクチャ、インフラストラクチャサポートなどのサービスを提供しています。
かつてのIBMのメイン事業ですが、FY21Q4の売上は$4.4B(約4,400億円)、YoY+2%と成長はかなり鈍化しています。
このように事業ごとの業績を確認すると、成長しているサービスはほとんどがソフトウェア関連や技術サービス、クラウド関連であることがわかります。
メインフレームなど、ハードウェアを売っていた時代から大きく変化し、クラウド上でシステムを構築し、サービスやコンサルティングとして稼ぐ時代になったことは一般論としても明らかです。
IBMも当然その変化に適応すべく、ソフトウェアやクラウド関連ビジネスに力を入れてきたわけですが、結果としては各事業の成長率が芳しくなく、全体売上も下降気味になっています。