「トランプ大統領の政策が気になって投資ができない」という声をよく耳にします。また「長期投資家としてトランプ大統領の政策はどこまで意識すべきなの?」と疑問に思っている方が多いようです。結論から言うと、経済政策のことは気にせずに普段通りに投資を行っていくべきだと考えています。なぜなら、トランプ大統領の経済政策は経済というよりもどちらかというとトランプ大統領の支持層に対して訴えかけるものであるからです。そこで今回は、つばめ投資顧問がトランプ大統領の経済政策の本質について深掘りしていきたいと思います。また、トランプ大統領の経済政策を受けて、長期投資家はどうすればいいのかを解説します。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
トランプ大統領の経済政策の本質
トランプ大統領の経済政策で目立つものとして、関税政策とエネルギー政策が挙げられます。
特に関税政策に関しては、経済全体というよりも支持層に向けたアピールが強く意識されたものとなっています。
なぜなら、トランプ大統領がいま重要視していることは、とにかく支持層の期待に寄り添うことだからです。
トランプ大統領の支持層は主に、アメリカで置き去りにされたと思っている白人労働者や地方の個人事業主です。
アメリカでは、長らくエリート層が政治を主導してきました。
エリート層は環境問題やLGBTの権利、グローバリゼーションを推進していて、実際にアメリカには移民が増えてきています。
また人種差別問題の対策として、大学の定員に有色人種枠があるなど白人の方にとって恩恵が受けられないような政策が行われてきました。
そうした中で、白人労働者層や地方の個人事業主は「自分たちの利益が無視されている」と感じてきました。
この状況下で、トランプ大統領が登場します。
トランプ大統領の「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」というスローガンは、白人労働者層や地方の個人事業主の不満を代弁するものとなり、支持を集めました。
トランプ大統領は、報道やニュースでは否定的に描かれることも多いです。
しかしながら、時間が経つほどインターネットの情報などもあり白人労働者はトランプ大統領が味方だという思いを強くしているようです。
これが2期目に繋がっていると考えられることからも、トランプ大統領は経済政策を通じて支持層に向けたアピールを積極的に行っています。
関税政策
ここでは、トランプ大統領の支持者にとって関税政策が何を意味するのかを解説します。
また、関税政策を行うことで起こる影響についても見ていきましょう。
<関税政策がなにを意味するのか>
関税政策は、支持者たちにとって失われた雇用機会が再び米国に戻ってくるという希望の象徴です。
アメリカの白人労働者の仕事がなくなったり、経済的に豊かではなくなったりしている原因の1つとして、グローバリゼーションによる工場の海外移転が挙げられます。
そのためトランプ大統領の関税政策では、「海外の輸入や移民を抑制し、国内産業を復活させる」というストーリーを掲げています。
高い関税をかけることで工場が国内に戻り、白人労働者の雇用が増え豊かになるという構想です。
この政策が実現して、豊かだったころのアメリカに戻ることを支持者は期待していてトランプ大統領もそれに応えようとアピールしています。
他にも、トランプ大統領は関税を交渉材料として使っている面もありそうです。
たとえば、実際に関税をかけなかったとしても相手国から譲歩を引き出そうとしていることが挙げられます。
それでもし米国内への工場誘致などが達成されれば、白人労働者の支持を再び獲得することにつながり、強い大統領だという姿を見せられます。
このことから、本当に輸入を止めたいというよりも一種のパフォーマンスである面が強いといえるでしょう。
そのため、投資家としては関税政策を気にしすぎなくてもいいというのが1つの見方です。
<このパフォーマンスでアメリカの製造業が回帰するのか>
この関税政策で実際に製造業が回帰するのかというところですが、つばめ投資顧問としては恐らく帰ってくることはないと考えています。
アメリカに製造業が帰ってこない理由として、以下のことが挙げられます。
- アメリカは賃金が高い
- 産業集積がない
- 労働者の質の問題
それぞれみていきましょう。