・アメリカは賃金が高い
グローバリゼーションが進んで工場が海外に進出したのは、アメリカは賃金が高いからです。
中国はアメリカの3分の1程度、東南アジアでは約10分の1となります。
このような状況では、太刀打ちできません。
たとえば、iPhoneは現在でも高価な商品ですが、すべてをアメリカで製造した場合、人件費を合わせると場合によっては50万円以上になる可能性があります。
消費者が安く製品を手に入れられているのは、海外に工場があるからです。
このことから、民間企業の行動としてはアメリカに工場を戻すのは経済的に見ると合理的とはいえません。
・産業集積がない
アメリカには産業集積がないため、製造業が回帰するのは難しそうです。
中国が「世界の工場」と呼ばれる理由は、賃金の安さだけでなく深圳などの地域に様々な製造業の工場が集積しているからです。
工場が集まっていると、部品の取引が行いやすくなります。
特にハイテク分野では、この傾向が顕著です。
自動車についても同様で、日本の愛知県に自動車工場が集積しているように地域を集中させることは非常に重要です。
アメリカには現在、そのような産業基盤があまりありません。
そのため、すぐに製造業を戻すといっても簡単には実現しないでしょう。
・労働者の質の問題
労働者の質の問題も重要です。
白人労働者が再び工場で働いて豊かになることを期待しているかもしれませんが、実際にはハードルがあります。
バイデン政権下で「CHIPS法」により、アメリカに半導体工場を誘致するために何兆円もの補助金が出されました。
サムスン、TSMC、インテルなどが工場を建設しましたが、実際にはあまりうまくいっていないようです。
なぜなら、半導体工場を効率的に運営するには優秀な労働者が必要だからです。
半導体工場では、クリーンルームという塵ひとつない環境で緻密な作業を行っています。
また、トラブルにも迅速に対応できる勤勉な人材がいなければ成り立ちません。
台湾や日本ではそのような人材が揃っていますが、アメリカで今からそうした人材を育てるのは容易ではありません。
このことからも、アメリカに製造業を戻してうまく稼働させることは難しい面があります。
<関税政策のデメリット>
関税をかけると、輸入品に上乗せされた費用は最終的に消費者に転嫁されます。
消費者が購入する際の価格が上昇するため、生活が苦しくなる可能性が大きいです。
また現在のアメリカではインフレが進行していますが、関税によってさらに拍車をかける恐れがあります。
生活が苦しくなれば、人々の不満も高まるでしょう。
その上インフレは、政党の支持率を大きく下げる要因となります。
このように関税政策を進めると、インフレをさらに加速させ消費者の負担が大きくなるほか、支持率も下げてしまうデメリットがあります。
エネルギー政策
社会が大きく動き出すきっかけとなりえるのが、エネルギー政策です。
アメリカでは2010年代にシェールガス革命があり、固い岩盤層にある天然ガスや石油を新技術で掘削できるようになりました。
その結果アメリカは世界一の産油国となりましたが、これまで積極的に活用されてきませんでした。
ここでは石油や天然ガスなどの枯渇性エネルギーを十分に活用できなかった原因を2つ解説します。
<1. グリーン政策>
枯渇性エネルギーを十分活用できなかった理由の1つとして、グリーン政策が挙げられます。
グリーン政策とは、太陽光発電など再生可能エネルギーを利用して環境保全を行うバイデン政権が推進してきた政策です。
しかしながら、トランプ大統領は反対の立場を取っています。
トランプ大統領は「石油を積極的に掘削して豊かになる」という、ある意味で「古き良きアメリカ」のイメージを体現するような政策を推し進めています。
環境問題を一旦脇に置けば、この石油掘削推進はアメリカにとってメリットになる可能性が高いです。
石油を大量に掘れば、海外に輸出できるため収益を得られます。
また国内石油価格が下がれば、インフレ抑制にも繋がるでしょう。
バイデン政権下でも石油掘削は行われていましたが、環境規制によってコストがかかっていました。
トランプ政権がこれらの規制を緩和すれば、より安く掘削できるようになりアメリカのエネルギー関連企業にとって追い風となります。
経済活性化とインフレ抑制の可能性を考えると、環境への懸念はあるものの経済面ではプラスに働く政策でしょう。
<2. 枯渇性エネルギーの需要がいまほどなかった>
石油や天然ガスなどの枯渇性エネルギーがそこまで活用されていなかった理由として、以前はいまほど需要がなかったことが挙げられます。
なぜなら、先ほども解説しましたがグリーン政策の影響で、枯渇性エネルギー需要が少なくなっていたからです。
ですが、現在はAI市場拡大の影響で電力不足が問題となっています。
AIを稼働させるためにはデータセンターが必要で、それには大量の電力が不可欠です。
グリーンエネルギーで稼働させることが理想的ですが、供給が安定しないことから再び火力発電が注目されています。
特に、比較的安いコストで掘削でき二酸化炭素の排出量も少ない天然ガスの需要が高まっています。
枯渇性エネルギーの需要が高まると、関連企業の活性化や雇用を生み出すなど短期的には経済にとってプラスになることが考えられるでしょう。