2026年2月24日、中国商務省が日本企業20社を輸出規制リストに追加すると発表し、三菱重工業<7011>の傘下にあたる三菱重工航空エンジンなどがその対象に含まれました。この報道を受けて三菱重工業の株価は朝高後に下落し、その後も上値が重くなっています。防衛関連の国策銘柄として大相場を演じてきただけに、今回の悪材料をどう受け止めるべきか悩んでいる投資家の方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、直近の第3四半期決算の中身、株価急落の背景にある複数の要因、バリュエーション(割安・割高の判断指標)の現状を分析。テクニカル面での下値目処と押し目買いを狙う際の注意点まで、順を追って整理していきます。
プロフィール:石塚 由奈(いしづか ゆうな)
日本投資機構株式会社 経済メディア「インベストリーダーズ」編集、証券アナリスト(CMA)、テクニカルアナリスト(CMTA®)。国内株式、海外株式、外国為替の領域で経験豊富なアナリスト・ファンドマネージャーのもと、金融市場の基礎・特徴、マクロ経済の捉え方、個別株式の分析、チャート分析、流動性分析などを学びながら、日本投資機構株式会社では唯一の女性アナリストとして登録。自身が専任するLINE公式など各コンテンツに累計7,000名以上が参加。X(@yuna_investment)のフォロワー数も3万人を超える人気アナリスト。
2月には26年3月期の業績予想を上方修正
三菱重工業は、2026年2月4日に26年3月期第3四半期(25年4〜12月)の累計決算を発表しました。売上収益・利益ともに前年同期を大幅に上回り、通期業績予想の上方修正も同時に行っています。
<2026年3月期第3四半期(累計)の売上・利益の実績>
25年4〜12月の9ヶ月累計では、売上収益が3兆3,269億7,600万円(前年同期比+9.2%)と増収を達成。事業利益は3,012億7,100万円(同+25.5%)と高い伸び率を記録し、税引前四半期利益も同29.5%増の3,292億6,100万円となっています。
通期業績予想も上方修正し、売上収益4兆8,000億円(前期比+10.1%)、事業利益4,100億円(同+15.5%)、親会社帰属当期利益2,600億円(同+5.9%)を見込んでいます。
※対前期増減率は、非継続事業の分類に伴う遡及修正後の数値を用いて算出。
<防衛・エネルギー・航空の3分野がけん引>
三菱重工業の業績が高い伸び率を維持している背景には、防衛・宇宙、エネルギー、航空・防衛の3事業セグメントにおける受注拡大と採算改善があります。
それぞれのセグメントで何が起きているのか、具体的に見ていきましょう。
防衛・宇宙セグメントでは、日本政府が防衛力抜本的強化の方針に基づき、防衛予算が2027年度にGDP比2%へ段階的に引き上げられる中で、護衛艦・潜水艦・ミサイルシステムの受注が大幅に増加しています。
エネルギーセグメントでは、ガスタービン・コンバインドサイクル発電設備の受注が旺盛で、特に脱炭素の観点から天然ガス発電設備を新設・更新する海外プロジェクトの引き合いの強さが続いています。また、ドル建て・ユーロ建て取引が多いため、円安もプラスに働いています。
航空セグメントでは、民間航空機エンジン部品の生産回復と、MRO(整備・修理・オーバーホール)サービス需要の拡大が追い風になっています。
<三菱重工業の中長期の成長ドライバー>
中長期では、防衛費増額に伴う艦艇・ミサイル・戦闘機関連の国内受注拡大が最大の成長エンジンとなります。
次期戦闘機(F-X)の開発・生産は三菱重工業が主契約企業として進めており、2035年の就役に向けた量産フェーズに入れば数兆円規模の売上が期待されます。
エネルギー分野では、水素・アンモニア燃焼ガスタービンの実用化に向けた取り組みが進んでおり、脱炭素化が求められるアジア・中東の電力会社向けに新たな市場を開拓できる可能性があります。
また、三菱ロジスネクストの株式売却を含むポートフォリオの選択と集中により、資本効率の改善も期待されます。売却資金を防衛・エネルギー・航空の中核3事業に集中投下することで、ROE(自己資本利益率)の持続的な向上につながるとみられます。欧州のNATO加盟国が軒並み防衛費を増額している流れの中で、次期戦闘機の輸出可能性(英国・イタリアとの共同開発のGCAPプロジェクト)も長期的なカタリストとして注目されます。
<第4四半期決算で輸出規制リスト入りの影響を確認したい>
一方で、今回の中国輸出規制リスト入りによる影響は現時点では定量化が難しく、航空エンジン部品などの調達コスト上昇や一部取引の停滞が生じた場合には、下方修正リスクとして意識される可能性があります。
特に懸念されるのは、エンジン部材の耐熱合金に不可欠なタングステンや、高性能磁石に用いられるレアアース、さらには次世代半導体の基板材料となるガリウム・ゲルマニウムといった重要鉱物の供給停滞です。
これらは中国が世界シェアの多くを握っており、調達ルートの切り替えには時間とコストを要するため、製造原価を押し上げる要因となり得ます。
現時点では第4四半期の進捗を確認しながら判断するのが無難でしょう。
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