米国経済の悪化が加速している。ニューヨーク株式市場の不安定さが続く中、貿易摩擦や高関税政策が経済への圧力を強め、失業率の上昇や債務不履行の増加が深刻化している。バイデン政権後期から始まっていた景気後退は、現在さらに明確な形で表面化しつつあり、インフレや消費低迷が中間層以下の生活を直撃。最新のデータをもとに、米国経済の現状を詳しく分析する。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2025年3月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
どんどん明らかになる米国経済悪化のデータ
前回の記事に続き、米国経済の悪化状況を最新のデータで紹介する。
あいかわらずニューヨーク株式市場の不安定な状況は続いている。カナダとの貿易戦争が激化し、アメリカの景気へ悪影響を及ぼすとの警戒感が強まり、ダウ平均株価の下げ幅は一時、700ドルを超えた。午後になり、オンタリオ州が電力料金の値上げを停止すると発表すると、報復合戦の過熱が和らぐとの期待から値下がり幅をやや縮め、結局、前の日より478ドル23セント安い、4万1,433ドル48セントで取引を終えた(編注:原稿執筆時点2025年3月13日)。

NYダウ 日足(SBI証券提供)
このような状況に対し、トランプ米大統領はホワイトハウスで記者団に対し、株価の大幅下落について「市場は上がったり、下がったりする」と述べ、短期的な株価の変動は気にしない姿勢を示した。関税引き上げなどの政策は、長期的には米国を強固にすると強調した。関税と製造業促進策により「大量の工場」がメキシコなどから米国に移転するとし、「私が行っていることは長期的に、わが国を再び強くする」とも話し、現在の高関税政策の利点を主張した。
また、米国経済の景気後退入りについては「まったく予想していない」と言明。「私がやろうとしていることは難しい道のりだが、結果は20倍になる」と語り、理解を求めた。
バイデン政権後期から始まっていた景気後退
ところでいま、日本の主要メディアの多くはトランプ大統領が実施している経済政策こそ、不況の元凶だと非難している。しかし、これは明らかに間違っている。昨年は激しい大統領選挙があったので、バイデンを応援する米国のリベラルな主要メディアの多くは、米国経済の悪化の状況を報道したがらなかった。バイデン政権の経済政策の効果を喧伝し、米国経済があたかも順調であるようなイメージを作ってきた。
たしかに、コロナのパンデミックの大規模な経済支援や相場の急激な上昇、さらにリモートワークの恩恵を受けた中間所得層より上の階層はバイデノミックスで所得を倍増させたが、中間層以下の層は急激なインフレによる実質賃金の下落などにより、経済状態は急激に悪化していた。特に、中間層以上の人々が蓄えていたコロナパンデミックの経済支援金が底を尽き、また相場の下落で消費が減退するにつれ、米国経済は牽引力を失い、中間層以下の層の悲惨な状態が目立つようになっていた。
ホームレス人口は記録的な高水準となり、フードバンクへの需要はかつてないほど急増し、住宅販売は極度の低迷レベルに落ち込み、全米で店舗やレストランが閉店し、負債レベルは記録を更新していた。つまり、中間所得層より上の階層の旺盛な消費意欲、ならびに大統領選挙のキャンペーンによって隠蔽されていた米国経済の本当の実態が、ここにきて明らかになっているのである。
米国経済は長い間下降線をたどっており、バイデン政権の後期にはその下降線はさらに急になっていたのだ。だから、いま始まった不況は、トランプの経済政策がもたらしたものでは必ずしもない。もちろん、トランプの高関税政策が悪化のスピードを速めた側面があるものの、経済の悪化はバイデン政権のときにすでに始まっていた。
「CNBC」の司会者ジム・クレイマーは、トランプ大統領が不況への不安を煽り、株式市場を暴落させていると非難し、競合市場が「私たちを圧迫している」と指摘し、トランプ大統領が不況を「製造」している可能性があると非難しているが、それは明らかに当たっていない。不況はトランプの就任前から始まっている。日本の主要メディアも「CNBC」と同じような報道をしている。