「FRB」の解体で適切な対抗処置がとれなくなる
さて、ながながと悲観的な数値を並べてきたが、これが米国経済の実態である。すでにバイデン政権の後期から景気は相当に悪化していたのである。
不況はトランプ政権のせいでは必ずしもない。しかし、この状況でトランプの高関税や「DOGE」による連邦政府の部局の閉鎖や大リストラが実施されるのだ。これで米国経済は予想を越えて悪化することは間違いない。
しかし、さらに悪いタイミングがある。それは、「DOGE」が「FRB」の改組か大幅な改革を推し進めようとしているときに米国経済が悪化していることだ。「FRB」の改革の内容いかんでは、米国経済の悪化を金融的に緩和するための手段を「FRB」は失うかもしれない。
すでに第782回の記事で書いたが、これがどういうことなのか再度説明しよう。いまトランプ政権が進めている改革は、「ヘリテージ財団」が出した「プロジェクト2025」の改革案に基づいている。もしこれから実施される「DOGE」の「FRB」の大幅な改革がこの方針に沿って行われるのであれば、「FRB」の景気後退を金融的に緩和する機能は失われることになる。
いまはどの国にも金融システムの安定化のために中央銀行が存在しているが、次の2点がその基本的な役割と責任になる。
1)物価の安定
2)雇用の安定
まず(1)だが、これは物価を安定させるために、通貨の供給量を調整することを意味する。供給力の不足、需要の突然の増大など物価はさまざまな要因で変動するが、通貨の供給量も変動の重要な要因である。通貨供給量が大きくなり貨幣価値が下落すると、物価は高騰する。また逆に、通貨供給量が少なくなり貨幣価値が上昇すると物価は下がる。物価が需要と供給に影響を与える内外のさまざまな要因で変動するが、中央銀行の役割は、こうした環境の変化に合わせて通貨供給量を調整させることで、物価を安定させることである。
中央銀行はこれを、金利の引き上げや引き下げを通して実施する。
そして(2)だが、これは政府が実施する経済政策を支援することである。雇用の安定とは、大幅な失業率の上昇や、労働力に対する需要の極端な上昇がないように、景気を調整することである。政府はなるだけ完全雇用に近づくように、景気の下降を防止し、また過熱を抑える経済政策を実施している。政府のこうした政策を積極的に後押しするのが、中央銀行の第2の役割である。
例えば、景気が冷えきり不況になって失業率が増大しそうなとき、政府は国債を発行して財源を確保し、さまざまな景気刺激策を実施する。中央銀行はこれを後押しするために政府が発行した国債を積極的に買い取り、政府の財源確保を後押しする。また、不況による倒産の激増で銀行が不良債権を抱え、破綻する危険性が高くなると、中央銀行は不良債権を買い取ったり、巨額の融資を実施するなどして銀行に資金を注入し、金融危機の拡大を抑える。このように中央銀行は、政府の経済政策を積極的に後押しすることで、雇用の安定化を図る。
この2つの役割は多くの中央銀行にあり、もちろん「FRB」も同じである。
雇用の安定の放棄と国債買い取りの停止
さて、「プロジェクト2025」の「FRB」改革計画は、中央銀行の2つの基本的な役割のうち、雇用の安定を放棄し、物価の安定だけにその役割を限定するというのだ。これは、銀行への融資を抑制して、金融危機のときつぶれる銀行は潰すという方針である。雇用を安定させるために必要となる政府の経済政策を支えるという役割は、放棄するというのだ。
これは「FRB」が、米国債の買取りを大幅に縮小することを必然的に意味する。なぜなら、安定した雇用のカギとなる景気の維持には、政府の経済政策による財政支出がどうしても欠かせないからだ。インフラ建設や、さまざまな産業分野への補助金などがこれに入る。「FRB」は政府の経済政策がうまく行くように、政府の発行する国債を積極的に買い取って、政府の政策実施を後押しする。
しかし、「FRB」がその役割として雇用の安定を放棄するのであれば、国債の買い取りで政府の景気安定化策を支援する必然性はないことになる。







