現在、株式市場では大きな変化が進行しています。2025年2月6日の週に、投資家の間で「サース(SaaS)の死」と呼ばれる現象が起き、ソフトウェア関係の銘柄が軒並み暴落しているのです。これまで国内のDXを牽引してきたサイボウズやSansan、さらにはラクスといった銘柄が大きく売り込まれています。どこまで直接的な関係があるかは議論の余地がありますが、日本を代表するシステムインテグレーターである野村総合研究所(NRI)までもがこの下落の波に飲み込まれている状況です。なぜ、堅調な成長を続けてきたはずのこれらの企業が、突如としてこれほどの拒絶反応を市場から受けているのでしょうか。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
アンソロピックが放った「クロード・コワーク(Claude Cowork)」
この急落の最大の要因とされているのが、最新AIの進化です。
具体的には、AI開発企業のアンソロピック(Anthropic)が開発した「Claude(クロード)」の新機能である「Claude Computer Use」、あるいはそれを活用した「クロード・コワーク」という概念が市場に大きな衝撃を与えました。
このクロード・コワークが何をするものかと言えば、まさにAIが人間のようにパソコンの画面を操作し、ブラウザを立ち上げ、クリックや入力を代行しながら一連の業務を遂行するというものです。
しかも、その裏側には法務や会計といった高度な専門知識が組み込まれています。
これが何を意味するか。
これまでは人間が行っていた煩雑な事務作業のほとんどが、パソコン1台と、その背後にあるデータセンターのAI処理だけで完結してしまう可能性が、いよいよ現実の物として突きつけられたのです。
「シート課金(ID課金)」が危うい?
市場が最も恐れているのは、SaaS企業がこれまで利益の源泉としてきたビジネスモデルそのものの崩壊です。
現在、多くのSaaSは「ID数」や「人数ベース」で課金する、いわゆるシート契約と呼ばれる形で成り立っています。
例えば経費精算システムであれば、利用する従業員の数だけ月額料金が発生するという仕組みです。
しかし、クロード・コワークのように自立したAIが業務を代行するようになれば、状況は一変します。
経費の申請から承認、否認の判断、さらには会計システムとの連携や銀行振り込みの実行まで、AIが入り口となって一連の流れを自動で処理できてしまうのです。
そうなると、経費精算のためにこのSaaSを契約し、勤怠管理のために別のSaaSを契約し、といったバラバラのサブスクリプション契約は、企業にとって非効率極まりないものになります。
「AIが1個あれば、個別のSaaSはもういらないのではないか」という強烈な連想が、現在の株価暴落を招いているのです。

サイボウズ<4776> 日足(SBI証券提供)

Sansan<4443> 日足(SBI証券提供)

ラクス<3923> 日足(SBI証券提供)

野村総合研究所<4307> 日足(SBI証券提供)
PER30倍から10倍へ
この「AIによる代替」という恐怖は、株価のバリュエーション(指標)に劇的な変化をもたらしています。
これまで、日本のSaaS銘柄やDX関連株は、将来も右肩上がりに成長し続けるという期待から、PER(株価収益率)25倍から30倍、時にはそれ以上の高水準で取引されてきました。
しかし、AIの攻勢によって将来の成長性が失われる、あるいは市場自体がなくなるというリスクが意識され始めたことで、このPERが「成長性のない一般的な企業」の基準である10倍〜15倍程度を目指して落ち始めているのです。
例えば、野村総合研究所はかつてPER35倍ほどありましたが、足元では23倍まで急落しています。
ラクスも36倍あったものが22倍へ、サイボウズに至っては、過去の平均が139倍という極端な数字だった時期もありますが、現在は15.5倍という非常に低い水準まで評価が切り下げられています。
市場は今、SaaSというジャンル全体に対して、これまで積み上げてきた「プレミアム」を剥ぎ取ろうとしているのです。
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