現在、株式投資家の間で村田製作所<6981>に対する注目度がかつてないほど高まっています。その勢いは凄まじく、2026年に入った当初は3,000円程度だった株価が、6月2日時点では約1万円の大台にまで達しました。わずか半年足らずで株価がおよそ3倍に跳ね上がった計算になります。この急騰の背景には、同社が「AI需要の恩恵を最も受ける企業の1つ」であるという認識が市場に一気に広がったことがあります。特に2026年4月の決算発表を機に投資家の期待値が高まり、さらに5月末にはゴールドマン・サックスが、社長の中島氏との対談を経て非常に前向きなレポートを発表しました。これがダメ押しの満塁ホームランのような形となり、外国人投資家が飛びつく格好で株価を押し上げたのです。しかし、なぜ村田製作所がAIと結びつくのか、その技術的なメカニズムを正確に理解している方は決して多くありません。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
MLCC(積層セラミックコンデンサ)とは何か
村田製作所の主力製品であり、今まさに世界中が求めているのが「MLCC(積層セラミックコンデンサ)」です。
コンデンサという言葉を聞き慣れない方もいるかもしれませんが、これはイメージとしては「電気の貯水池」や「貯蔵タンク」のようなものだと考えてください。
私たちが電気を使う際、その電圧、つまり水の流れで言うところの水圧は常に一定である方が安定して機能します。
シャワーを浴びる時に水圧が強くなったり弱くなったりすると困るのと同じで、電気も安定させなければなりません。
MLCCは、電圧が弱まった時に蓄えていた電気を流したり、逆に電圧が強すぎる時には吸収したりすることで、電気の流れを整えるクッションのような役割を果たしています。
この「電気のブレ」を抑え、ノイズの発生を防ぐ機能こそが、精密な電子機器にとって生命線となるのです。

村田製作所<6981> 日足(SBI証券提供)
AIデータセンター需要の爆発
かつての村田製作所は、iPhoneなどのスマートフォンの普及とともに成長してきたイメージが強いかもしれません。
実際、現在でも売上の約4割は通信向けが占めています。
しかし今、爆発的に伸びているのは「コンピューター」、特にデータセンター関連の用途です。
具体的な数字を見るとその異常な成長ぶりがわかります。
データセンター関連の売上高は、2024年度の1,016億円から2025年度には1,767億円へと、対前年比で約74%もの伸びを記録しました。
さらに驚くべきことに、今期の会社予想ではここからさらに約84%増の3256億円に達する見通しが立てられています。
70%伸びた翌年に80%以上伸びるというこの温度感こそが、AIサーバー需要がいかに凄まじい勢いで立ち上がっているかを物語っています。
なぜAIサーバーの基盤にはMLCCが大量に必要なのか
なぜAIデータセンターにおいてMLCCがこれほど重要なのでしょうか。
その理由は、AIチップ、特にNVIDIAなどが製造するGPUの駆動環境にあります。
AIの学習や推論を行うGPUは、極めてデリケートかつ膨大な電力を必要とします。
この際、計算処理を安定させるために、GPUの周りに安定した電力環境を整える「貯水タンク」を大量に散りばめておく必要があるのです。
AIサーバー自体は巨大なラックのイメージがありますが、実際にチップが乗る基盤の上は、ファンや様々な部品がひしめき合っており、実装スペースが非常に限られています。
そのため、小型でありながら反応速度が極めて速いMLCCの独壇場となるわけです。
最近では基盤の表面だけでなく、裏側や、基盤に穴を開けて配線を通す技術を駆使して「あらゆる隙間」にMLCCを実装するようになっており、1枚の基盤に搭載される数は増え続けています。

