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名刺管理「Sansan」に投資すべき?上場から好スタートを切った強いビジネスモデル

さまざまな業界のイノベーションを冷静に分析していることで定評のあるメルマガ『イノベーションの理論でみる業界の変化』では、著者「山ちゃん」さんが、新規上場したSansan株式会社の現状と展望を考察しています。名刺管理サービス「Eight」で知られる同社のビジネスモデルを読み取ってみましょう。

今後も成長?名刺管理サービス「Eight」の競争優位性を徹底分析

Sansan株式会社をジョブ理論で読み解く

Sansan株式会社<4443>(以下、同社)は、2019年6月19日東証マザーズに新規上場しました。業務内容は、法人向け名刺管理サービスおよび個人向け名刺管理アプリの提供です。

同社の株価は、公募価格4,500円に対して初値は4,760円をつけました。差異率は+5.78%と若干値をあげました。なお、7月19日時点の株価は5,870円です。

sansan

クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果はアマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。

ビジネスモデルの特徴

同社グループは、Sansan事業およびEight事業を展開しています。Sansan事業は、法人を顧客とし、クラウド型の名刺管理サービス「Sansan」を提供し、その対価として月額利用料を得ます。なお月額利用料は、ユーザー企業で取り込まれる名刺の枚数を基に算出されるライセンス費用にオプション機能等の利用料を加えたものです。

Eight事業は、個人および法人を顧客とし、手軽に名刺管理できるサービスを提供し、その対価として収益を得ます。なお収益モデルはフリーミアムを基本とし、無料で利用できるアプリをベースとし、個人・法人向け有料サービス等を提供しています。

ビジネスモデル的にみれば、いずれの事業のそれも、未完成または不完全な事物を高付加価値の完成品──名刺の管理手段──へと変換する価値付加プロセス型事業です。

同社グループは対処すべき課題の一つとして「Eight事業のマネタイズ(収益化)」を、事業等のリスクとして「インターネットの利用環境について」「クラウド事業について」「競合について」「技術革新への対応について」「広告宣伝活動等の先行投資について」等をあげています。

思考実験──片づけるべき用事とは

『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。

1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか
2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか
3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か
4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか
5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か

出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)

用事の特定

イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、同社グループが課題としてあげる「Eight事業のマネタイズ(収益化)」を取り上げます。同社グループはそれを、次のように認識しています。

上記「(3)中長期的な会社の経営戦略」で記載したように、2015年より、一部利用機能を拡充した個人向け有料サービス「Eightプレミアム」を展開しており、その他のサービスも開始しておりますが、事業全体でのマネタイズを加速すべく、有料サービスの開発・展開に更に取り組んでまいります。

なお、(3)中長期的な会社の経営戦略とは次のようなものです。

(2)Eight事業のマネタイズ(収益化)

2015年より、一部利用機能を拡充した個人向け有料サービス「Eightプレミアム」を展開しておりますが、事業全体でのマネタイズを加速すべく、「Eight」のユーザーに対して広告配信が可能な「Eight Ads」をはじめとした企業向け有料サービスの開発・展開に注力してまいります。「Eight」における名刺共有を企業内で可能にするサービスである「Eight 企業向けプレミアム」では、従業員数名から20名程度の小規模企業をコア・ターゲットとして展開してまいります。転職潜在層のユーザーにアプローチが可能な採用関連サービス「Eight Career Design」では、採用市場におけるユニークなポジションの確立を目指して価値を提供してまいります。

ここで着目したいのは、「Eight 企業向けプレミアム」です。ある行動経済学の実証実験では、社内でプレゼントのやり取りをすることで、社員同士のコミュニケーションが活発になったといいます。プレゼントをもらって嬉しかったからではありません。プレゼントする相手に何を贈ったら喜ばれるだろうと思い、相手のことをより深く知ろうとしたからです。

こうした状況で顧客──主に小規模企業──がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「名刺を共有する」ということ。意思決定者であれば、社会的側面として「社内の活性化」ということを重視するでしょう。

なお、同社グループは、競合を次のように認識しています。

当社グループは、機械学習等によって日々進化するテクノロジーと、人力の組み合わせによって名刺のデータ化を行っておりますが、創業以来、大量の名刺を正確かつ効率的にデータ化する独自のシステムの開発・運営をし続けてきたことが競争力の源泉となっております。しかしながら、既存事業者との競争の激化や、新たな参入事業者の登場により競争が激化した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

一般の企業にとって、社内コミュニケーションの障害となり得るのは、部署間の交流が少ない、あるいはほとんどないことです。大企業であればなおさらです。その点、同社グループがコア・ターゲットとする「従業員数名から20名程度の小規模企業」であれば、みんなの顔と名前が一致するはずです。

そういった企業内で、定期的なプレゼント交換会を催せば、顧客である小規模企業は「社内が活性化する」という、ある意味ですぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

社内プロセスの統合という意味で、同社グループにとって課題となるのは、行動経済学の知見を生かし、「Eight 企業向けプレミアム」にプレゼント交換機能を追加することです。

では、同社グループがこうした機能を追加するのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社グループはリトル・ハイア──プレゼント交換機能が使われた回数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)

・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』 (碩学舎ビジネス双書)

有価証券届出書(新規公開時)

image by:takasu / Shutterstock

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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