浜松ホトニクス<6965>は、2024年8月31日に売出しを発表しました。それにより株価が下がり、年初来安値を更新しています。この下落は買いのチャンスとなるのでしょうか。「売出し」とは何か、ということも含めて解説します。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
売出しによる下落は悪いことじゃない?
元々、浜松ホトニクスの株価は下落傾向にあったのですが、直近で売出しを発表したことによってさらに下がり、年初来安値となっています。
大株主にトヨタ自動車があったのですが、そのトヨタが持っている株を全て売却することを発表したためこれほど株価がさがっているのです。
私はこの下落に違和感を持っています。
なぜなら、株式の売出しは公募増資と違って、株式の価値に影響を与えるものではないからです。
「公募増資」は新しく株式を発行する(=株式数が増える)ので、1株あたりの価値(利益など)が薄まってしまいます。
それに対して「売出し」は、株主が株を売るというだけで株式数は増えません。
市場での売買と変わらないもので、企業の中身に影響があるものではありません。
ではなぜ株価が下がるのかというと、需給の問題ということになります。
株式市場の中で急に多くの株が売られることによって、買う側がそれを吸収しきれないという懸念が広まって株価が下がることがあります。
一方で、企業の内容は変わらないので、この下落は企業の価値と関係の無い下落ということになり、買いのチャンスと捉えることができます。
今後、このような株式の売出しが増えてくるということが想定されています。
なぜなら、今回のトヨタの売出しがそうであったように、政策保有株式の削減という流れがあるからです。
上場企業が、事業場の付き合いで取引先の株を持っていることがあり、これは株価の上昇を見込んで持っているわけではないので、持っているよりはそれを売って現金化し、事業の成長に繋げたり、あるいは株主還元した方が株主にとって利益となります。
PBR1倍以下の状態を解消するように東証から要請がある中で、この政策保有株式を削減する流れが起きています。
しかし、たくさんの株を市場で売るには限界があるので、今回のような売出しというケースが増えてくると想定されます。
ただ、繰り返しになりますが、公募増資と違って企業の価値には影響のない動きなので、売出しで株価が下がるようならむしろチャンスと考えるべきだと思います。
浜松ホトニクスの株価は2023年の半ば頃からズルズルと下がっていて、しかも直近で業績の下方修正も行っていました。
この流れの中で、需給に懸念が生まれる株式の売出しの発表がされたことは、流れとしては良くないということはあります。
しかし、長期投資で大事なことは、浜松ホトニクスが持っている価値であり、事業が今後も利益を伸ばしていけるのかということです。
私たちとしては、目先の株価の動きよりも、本当に浜松ホトニクスが価値を持っているのかということに焦点を当てたいところです。