韓国の経済を支える大黒柱「サムスン電子」が深刻な経営課題に直面しています。同社は株価が4年ぶりの安値を記録し、非メモリー半導体事業の低迷や財閥制度の限界が浮き彫りに。韓国経済に与える影響は計り知れません。本記事では、サムスンの抱える課題と、それが韓国経済全体に及ぼす影響について詳しく解説します。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
韓国経済の大黒柱「サムスン電子」に異変
韓国サムスン電子は、株価が4年強ぶりの安値を付けて5万ウォン(約,5500円)を割り込んだ。11月15日は急遽、今後1年間で10兆ウォン(約1兆1,100億円)相当の自社株買いを行うと発表した。サムスンの株価純資産倍率(PBR)は11月14日、0.9倍と1997年のアジア通貨危機以来の水準まで落ち込んだのだ。
サムスンが、こういう事態になっているのは、韓国経済にとって重大問題である。サムスンは、韓国全体の法人税に占める比率が、なんと約20%(2018年)も占めている巨大企業である。文字通り、韓国経済の砦と言ってもいい位置にある。
サムスンは現在、非メモリー半導体技術の壁に直面しもがき苦しんでいる。汎用品であるメモリー半導体の世界市場では、約40%のシェア(2023年)で1位を維持している。だが、受注品の非メモリー半導体市場では約10%のシェア(2023年)で3位に甘んじている。
この落差は、サムスンが技術で追いつけないことを証明している。結局、メモリー半導体で地盤を守るほかない事態となった。
付加価値の面から言えば、非メモリー半導体が桁違いの高さである。台湾のTSMCが、高収益を上げているのは、この分野で約60%のシェア(2023年)を握っている結果だ。サムスンが、この非メモリー半導体へ足がかりを失えば、韓国経済も大きく揺るがされる局面へ向かうであろう。
サムスンが「転ける」と、韓国は重大な影響を受ける。サムスンが、法人税収に占める高さゆえである。
サムスンの抱える業病
私は、かつて『サムスン崩壊』(2016年、宝島社)を著した。この中で強調したのは次のような点である。
1)サムスンの前身は、貿易商であることでビジネスチャンスへの嗅覚が極めて強い
2)必要な技術を外から導入する経営スタイル。「1人の天才は、10万人の社員を養う」
3)財閥制によるワンマン経営で、社内は指示待ち
日本製造業の沿革をみると、いずれも技術者が国益追求という「公的目的」を掲げて技術開発に取り組んできた。たとえば、日立製作所は国産モーター開発であった。松下電器(パナソニック)は、電気ソケットの開発。ソニーは、テープレコーダーやトランジスター開発というように、いずれも自社技術の開発で事業を拡張させてきた。
サムスンは、貿易商が出自である。何か儲かるものはないかという嗅覚を働かせて、日本の三洋電機(パナソニックへ吸収)の下請けになり製造業を始めた。この延長で、半導体の存在を知り、日本から技術者を「高額アルバイト」で雇い、半導体技術を身につけたという経緯だ。日本企業と正式な技術導入契約を結んだものではない。法的には、「技術窃取」である。
サムスンは、この「違法ビジネス」で成功して巨万の富を積むことになった。サムスンが現在、技術の壁に突き当たっているのは、製造業でありながら「貿易商感覚」が抜けきらないことにある。自社技術開発にエネルギーを使わないのだ。日本からメモリー半導体技術を学んでも、もう一段上の非メモリー半導体技術に手を出さなかった。メモリー半導体技術だけで収益的に満足して、非メモリー半導体技術には興味を示さなかったのであろう。
必要な技術は、外部から導入すればいいという発想は、貿易商的アイデアである。技術を「仕入れる」という感覚なのだ。1人の天才は、10万人の社員を養うと豪語していた。これは、1人の優秀な技術者がいれば、一般社員は「ボンクラ」でいいという意味にも受け取れる。
こうして、「指示待ち社員」を増やすことになった。財閥のワンマン経営を支える社内組織ができあがったのだ。