日本の半導体凋落を再現
サムスンの非メモリー半導体部門の主な顧客は、実はサムスンのモバイル事業部である。サムスンの非メモリー半導体部門の主要製品は、スマホの頭脳であるアプリケーション・プロセッサー(AP)「エクシノス」である。サムスン製ギャラクシー(スマホ)を作るモバイル事業部は、自社のエクシノスと他社製品を比較してきた。現場では、エクシノスと米国「クアルコム」の「スナップドラゴン」を混用してきたという。ただ、他社から購入すれば割高になるので、自社のエクシノスと共に使われてきた。
問題は、さらにスマホが進化した場合、自社製のエクノシスでなく他社製へ乗り換えるという事態も想定される点だ。そうなると、非メモリー半導体部門の主な顧客である自社すら「脱落」する事態になる懸念が生まれる。サムスンが、非メモリー半導体部門から撤退含みである背景には、自社スマホすら採用しかねるコスト高が起こっているのかも知れない。こうなると、事態は深刻である。
日本半導体が衰退に向った局面と、現在のサムスンの置かれている状況は酷似している。それは、かつての日本の半導体メーカーは、日立・東芝など総合電機メーカーであった。半導体部門は、「素材生産」という位置づけである。総合電機メーカーであれば、半導体を無理して自社で生産しないでも、外部から購入すれば事足りるという認識だ。これが、日本半導体衰退の大きな理由の1つである。
サムスンは、総合電機メーカーである。半導体以外に、スマホや家電製品を生産している。こういう経営実態からすれば、非メモリー半導体に固執せずとも経営は可能という判断が成立する。これは、サムスンの経営判断として正しくても、韓国半導体業界全体の発展にとっては致命的欠陥になる。日本半導体が歩んだ失敗の道でもあるのだ。
非メモリー半導体は、ファウンドリー(受託生産)を中心にファブレス(設計)、デザインハウス(回路設計)、装備企業、後工程などが緊密に関わる。サムスンが、ファウンドリーから撤退すると、ファブレスなど後続の仕事が連鎖的に途切れるのだ。
こうして、韓国半導体の地盤沈下は不可避となろう。日本半導体が、落り込んだ道とまったく同じである。韓国経済の低成長路線は、確定的になってきた。
家計債務が最悪事態へ
韓国経済は、輸出が牽引してきた。これからは、半導体輸出に警戒信号が出た以上、内需を柱にしなければならないが、構造的な弱点を抱えている。
それは、家計債務残高が対GDP比で100%をはるかに超える深刻な事態を迎えているからだ。家計債務残高が、対GDP比で80%を超えると個人消費が停滞する。これは、家計が債務返済を優先する結果、個人消費を抑制する結果だ。ごく常識的な話である。韓国は、すでに80%どころか100%を超え、OECD加盟国でワースト・ワンになっている。
家計債務残高の対GDP比
2014年 84.5%
2015年 87.2%
2016年 89.7%
2017年 91.2%
2018年 93.1%
2019年 95.4%
2020年 98.6%
2021年 101.2%
2022年 103.5%
2023年 104.2%
出所:国際金融協会(IIF)
韓国で、家計債務残高の対GDP比が高い背景には、次のような事情がある。
住宅購入や賃貸保証金のために借入をするケースが多いことだ。家計債務の内訳をみると、住宅購入などの住宅担保借入が5割と最も多く、次いで賃貸保証金(チョンセ保証金)である。チョンセとは、家を借りる時にまとまった保証金を家主に預けると、月々の家賃が発生しない韓国独特の不動産賃貸方式である。これが4割を占めている。
チョンセ保証金が、家計債務を押上げ、個人消費が抑制されるとは、何とも不可思議な現象である。毎月、普通に家賃を支払い、個人消費も人並みに行う選択をしないところが、合理性欠如の表れとみられるのだ。これには裏があって、家賃滞納ケースを防ぐ手段とされる。家主が、借家人を信用していないのだ。
韓国では、チョンセ保証金が家計を圧迫している。だが、この制度を改める目立った動きもなさそうだ。これは、韓国経済発展にとって大きなマイナス材料である。韓国は、問題山積である。それを一つ一つ解決する根気が、まったく足りないように見受けられる。