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サイバー攻撃で株価下落「KADOKAWA」は買いの好機か?業績への影響と今後の成長性を分析。ニコニコ動画に追い風も=佐々木悠

今回はサイバー攻撃を受けているKADOKAWA<9468>を取り上げます。6月9日に自社の複数のウェブサイトが利用できない事象が発生したと発表され、その後、株価が下がり続けています。今回はKADOKAWAが受けているサイバー攻撃についてまとめ、業績に対する影響を決算を見ながら考察します。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』佐々木悠)

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プロフィール:佐々木悠(ささき はるか)
1996年、宮城県生まれ。東北学院高校、東京理科大学経営学部卒業。協同組織金融機関へ入社後、1級ファイナンシャル・プランニング技能士を取得。前職では投資信託を用いた資産形成提案や多重債務者への債務整理業務に従事。2022年につばめ投資顧問へ入社。

サイバー攻撃の内容

2024年6月8日早朝、KADOKAWAグループの複数のサーバーでアクセス障害が発生し、子会社が運営する動画サイト「ニコニコ動画」などが利用できなくなりました。調査の結果、ランサムウェアと呼ばれるウイルスによる大規模なサーバー攻撃を受けたことが判明しました。KADOKAWAは繰り返されるサイバー攻撃から身を守るため、電源ケーブルや通信ケーブルを物理的に引き抜き、サーバーを封鎖する事態に追い込まれました。

現在、自社のホームページやニコニコ動画が見れないだけでなく、最大の収益源である出版関連のシステムも使えない状態です。KADOKAWAは書店専用の直接発注システムや自社のデジタル工場を有していますが、一時的に稼働停止しています。現在、在庫のない商品について書店側の発注に対し数量や種類を限定してアナログで対応しています。システムの停止が長引くほど書店での欠品による機会損失は膨らみます。さらに、攻撃を受けたデータセンターには経理関係のシステムも含まれており、一部の取引先に対して支払いの遅延が生じる可能性もあります。

この一連のサイバー攻撃によって、ニコニコ動画の復旧には1ヶ月以上、それ以外のシステム関係も6月末を目途に復旧を目指しています。

それを受けて、株価は急落しています。

KADOKAWA<9468> 日足(SBI証券提供)

KADOKAWA<9468> 日足(SBI証券提供)

業績への影響は?

ニコニコ動画に関するサブスクリプション収入の減少に加え、書籍販売の減少などのマイナス影響があります。さらに、システム構築に関するコストも必要ですし、KADOKAWAあるいはニコニコ動画を運営するドワンゴに対するブランドイメージの低下、顧客離れも考えられます。ネット上ではKADOKAWAを応援する声も聞かれますが、非常に厳しい現状にあります。

2024年3月時点で800億円近い現金を保有しているため、倒産する確率は低いと考えていますが、被害額の試算には至っていない状態です。

では、業績の観点ではどうでしょうか?

出版が主力、ゲームの大ヒットも

KADOKAWAは、さまざまなメディアコンテンツを制作・配信する企業です。以下の主要な事業があります。

  • 出版・IP創出
  • 本や雑誌、電子書籍を出版し、多くのベストセラーを輩出。電子書籍プラットフォーム「BOOK☆WALKER」を通じて、グローバルな読者にリーチしている。

  • アニメ・実写映像
  • アニメや映画を制作・配信し、国内外での展開を強化中。高品質なアニメ制作を行い、国際市場での販売も行っている。

  • ゲーム
  • スマートフォン向けゲームやコンソールゲームを開発し、メディアミックスによる収益の最大化を図っている。代表作は『ELDEN RING』など。

  • Webサービス事業
  • 動画配信プラットフォーム「ニコニコ動画」やライブイベントの運営を通じて、オンラインコミュニティを活性化させている。

  • 教育・EdTech
  • 「N高等学校」や「S高等学校」といったオンライン教育の提供や専門学校の運営。

最大の収益源は、出版・IP創出事業です。2024年3月期は同事業が売上全体の約60%を占めました。

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出典:決算短信より作成

売上の推移を見てみましょう。

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出典:決算短信より作成

2020年まではゲームとアニメ事業が一本化されていましたが、セグメント変更により分かれています。細かいセグメント変更はあっても売上の中心は出版事業です。利益の推移も確認してみます。

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出典:決算短信より作成

2018年から2019年にかけて利益が減少していますが、その一因がWebサービス事業(ニコニコ動画)です。有料会員の減少やシステム開発費負担などが影響しました。

しかし、コロナ禍に発売された『どうぶつの森』の攻略本がヒットし、書籍を中心に利益が拡大しました。ニコニコ動画についても事業構造改革を進め、外注費や通信費の削減などでWebサービス事業も黒字に転換しています。

最も目立つのは2023年のゲーム事業の大幅成長です。KADOKAWAの子会社フロムソフトウェアが開発した『ELDEN RING』が世界的なヒットを記録したことで、利益が成長しました。しかし、ゲーム事業は一度ヒットを生み出しても長続きするとは限りません。

2024年3月期はゲーム事業が大ヒットの反動で利益が減少し、出版事業も販売が伸びませんでした。出版事業の不調は、急激な需要増の反動による書店の発注抑制や返品増加が影響しています。国内出版市場の縮小傾向もあります。電子書籍プラットフォームを保有していますが、市場縮小をカバーするには至っていません。

これが目先の利益が下落している要因です。

この現状から、どう成長させるのか、中期経営計画と経営者の言葉をみてみましょう。

Next: 今後の成長性は?長期投資家が見るべきポイント

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