サムスンは現在、「前例踏襲主義」に足をすくわれている。絶えず、規範となる経営モデルを外部に求めるのだ。サムスンは、メモリー半導体と家電モデルを日本に求めた。非メモリー半導体は、台湾のTSMCとされる。自らが「サムスン・モデル」をつくり挙げる努力をしなかった。これこそ、貿易商の「仕入れ感覚」を余すところなく示している。
サムスンは、時代遅れの財閥制度にしがみ付いている。経営者には身分安泰だが、韓国経済にとって非合理的な経営組織である。出資と経営の分離が、近代経営の基本であるのだ。財閥制度は、出資と経営を分離せず一体化させている。韓国が、法的にも財閥制度を認めているのは、独立後の経済不安定時代を乗り切る一時的な便宜性に従ったものであろう。こうした中で、現代自動車は外国人社長を登用した。新しい動きが始まっている。
財閥制度によって、韓国世論は分断されている。財閥家族の「栄耀栄華」な生活と、庶民生活が対比されて争いの原因になっている。韓国での右派と左派の根深い対立原因は、財閥制度によってもたらされている面もあるのだ。
輸出支える半導体に異変
サムスンは、今年(11月)創業55年を迎えた。記念式典は開催されたが、サムスン会長の李在鎔氏は欠席し、副会長の記念演説は文書で配布されるという、「締まりのない」式典であった。経営危機にある現在こそ、会長自らが士気を鼓舞する「声涙ともに下る」大演説によって、社内意識の統一を図るせっかくの機会を無駄にした。
韓国経済の砦であるサムスンが、この状態では将来の税収が懸念される。既述のように韓国全体の法人税収の2割も占めるサムスンが、高付加価値の非メモリー半導体からの撤退を始めたからだ。最先端の「5ナノ」半導体では、歩留まり率が低く赤字状態であることが理由である。これは、「後工程」に技術的問題がある結果である。日本の技術者が、そこまで教えなかったのであろう。
こうした技術上の壁にぶつかった以上、韓国経済はこれからどのような影響を受けるか。深刻な事態を想定するほかない。
輸出総額に占める 純輸出の対
半導体比率 GDP比率
2014年 10.9% 5.6%
2015年 11.8% 5.4%
2016年 12.7% 5.2%
2017年 17.1% 4.9%
2018年 20.9% 4.7%
2019年 17.3% 4.5%
2020年 19.3% 4.3%
2021年 19.9% 4.1%
2022年 18.9% 3.9%
2023年 17.7% 3.6%
出所:JETRO
半導体輸出比率は、2018年の20.9%がピークであり、その後は低下に向っている。中国が半導体増産に力を入れていることを反映している。ただ、付加価値の高い非メモリー半導体の輸出が増えていけば、半導体の輸出比率低下の事態を防げたであろう。
こういう半導体輸出比率の低下が、韓国の純輸出(輸出-輸入)へ影響を与えている。韓国は、輸出でGDPを押上げている経済である。GDPに大きく寄与する純輸出比率低下が半導体輸出比率低下とともに顕著になっている。これは、韓国経済にはもっとも警戒すべき現象である。端的に言えば、これまで韓国経済は半導体で回ってきたとも言えうるからだ。現に、法人税収に占めるサムスンのウエイトが飛び抜けて高いことで、その深刻さが分かるであろう。
サムスンは、半導体のほかにスマホを生産している。サムスンは、世界スマートフォン市場で約20%のシェア(2023年)を持ち1位である。サムスンのスマホには、自社生産の半導体を組み込んでいる。自社製半導体であるから、他社のスマホに比べてコスト安というメリットを生かして価格戦略を展開できた。だが、自社製の非メモリー半導体コストが、他社製よりも割高になると、自社製半導体を使わず他社製へ乗換えざるを得なくなろう。
この最悪局面が現在、始まっているのだ。