アメリカ空軍は、台湾で戦術核兵器の使用を想定した机上訓練を開始した。またアメリカ海軍は、軍の新たな整備計画「プロジェクト33」も発表した。2027年に中国との軍事的に衝突することを想定している。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2024年9月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
中国の脅威と米国防総省の2つのレポート
安全保障系のシンクタンクが発表した台湾有事における戦術核使用の可能性と、2027年に中国との軍事的な衝突を想定した米海軍の整備計画について解説したい。
9月18日、中国広東省 深センで日本人学校の男子児童(10)が登校中に中国人の男(44)に刺されて死亡する衝撃的な事件が起こった。中国では最近、背景が不明な外国人襲撃事件が相次いでおり、中国在住の欧米や韓国の人々にも不安が広がっている。
在日本中国大使館は24日、日本在住者や訪日旅行を予定する自国民に対し「情勢を鑑みて、警戒意識を高め安全を確保」するよう注意を促した。中国広東省深センで日本人男児(10)が刺殺された事件を踏まえ、両国民同士のトラブル回避を図った対応とみられる。
こうした中、日本でも中国脅威論が高まっている。日本のネトウヨや「在特会」が集まるような人種差別のヘイト系のアカウントでは、中国との国交断絶や戦争を叫ぶ声が絶えない。中国でもネトウヨはおり、過激な反日的な投稿が続いている。
日本政府は中国政府にSNSの投稿が今回の殺害事件の背景になったとして取り締まりを要求しているが、ネトウヨの投稿の取り締まりを必要としているのは、日本も同様であろう。不思議なことに、ネトウヨは在日米軍の犯罪に対しては、めったに批判しない。
いずれにせよ、この事件をひとつのきっかけにして、中国への反感は欧米諸国を中心に拡散している。またこれに合わせて、中国脅威論が改めて高まっているのを感じる。
台湾有事で戦術核使用の可能性
そのような中、ある文書が改めて注目されている。2024年8月の「新アメリカ安全保障センター(CNAS)」の報告書、「瀬戸際を越えて:長期戦におけるエスカレーション・マネージメント」である。この報告書では、中国の核戦力が拡大するにつれ、インド太平洋地域における戦術核兵器の使用の可能性が高まり、従来のアメリカの抑止策のアプローチに疑問を投げかける状況が生じていると指摘している。
中国にとって、核兵器の使用はさまざまな形を取る可能性があるという。威嚇、決意を示すための実験、あるいは米軍または台湾そのものを攻撃して早期決着を迫る、などである。同様に、アメリカも中国の侵攻に対抗したり、中国の核兵器使用に対応するために限定的な核攻撃を検討する可能性があるとしている。
一方、中国の急速に拡大する核戦力能力とは対照的に、アメリカの冷戦時代の戦略の不備はますます明らかになっており、台湾をめぐる潜在的な紛争における核のエスカレーションの複雑なリスクを管理する準備が整っていないと指摘する。その結果、インド太平洋の独特な地理と作戦環境により、特に台湾をめぐる限定的な紛争における戦術核兵器の応酬が、現在ではより現実味を帯びていると指摘している。
そのような状況を踏まえ、ワシントンD.C.近郊で開催された「空軍・宇宙軍協会」の会議で、米空軍が核関連のさまざまなシナリオに対する対応能力を評価するための机上訓練を計画していると、米空軍のアンドリュー・ゲバラ中将が発表した。
しかし、米空軍が戦術核のシナリオに対する即応性を強化しようとしている一方、中国の進化する核戦略は、確実な抑止力の増強と世界的な威信の拡大を追求している。中国は約500個の核弾頭を保有していると推定されている。予測では、この数は2030年までに1,000個、2035年までに1,500個に増加する可能性がある。今回実施される机上訓練は、この状況への対応を目的にしたものだ。