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トヨタが電気自動車でも覇権を握るこれだけの根拠。EV「普及の壁」を超える3つの革新技術=勝又壽良

世界中で電気自動車(EV)の販売が一時停滞している。多くの自動車メーカーは、ガソリン車の次にEV時代が直線的に訪れると予想していたが、現実はそう甘くない。現在、EVは「キャズム(溝)」と呼ばれる普及の壁に直面しており、これを乗り越えるためには根本的な技術革新が必要だ。特に中国EVは政府の補助金に頼りながらも、バッテリーに重大な欠陥を抱え続けている。一方で、トヨタ自動車は、このキャズムを突破する鍵となる革新的なバッテリー技術で世界市場に挑む準備を進めている。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)

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プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

電気自動車「3つの問題」で普及に歯止め

世界のEV(電気自動車)は現在、販売が停滞状態に陥っている。ガソリン自動車の後は、EV時代が直線的に来ると世界の自動車メーカーは色めきだってきた。耐久財消費財は一般に、普及率16%台で需要が一時的に頓挫する。EV企業は、こういうパターンの存在を忘れていたのだ。この頓挫こそ、「キャズム(溝)」と呼ばれるマーケッティング上の不可避的な現象である。

EVは今、この溝にはまって動きが取れない状況だ。原因は、これまでのEVが電池に大きな欠点(後記)を抱えている。価格的にも割高である。これらを改良しない限り、本格的なEV発展期へ繋がらない段階にある。

中国EVは、政府からの多額の補助金に支えられていることと、安価な電池開発によって世界をリードしている。だが、EV電池の抱える本質的な欠陥を抱えたままで、量的な成長を遂げている。中国EVにみられる技術的な欠陥とは、次のような電池に関わる問題だ。

1)航続距離が400キロ程度
2)充電時間がかかる
3)電池の発火事故が多発

現在のEVは、中国EVに代表されるように、本来のあるべきEVの理想像からみれば、「不完全車」である。この状況が改善されれば、EVが「次世代カー」の一つとして受入れられるであろう。

トヨタ自動車は、早くからこういうEVの抱える根本的な欠陥を承知していたので「全力投球」せずに、EVの車体や電池の研究開発に力を注ぎ、無駄な設備投資をすることもなかった。この策が100%的中した。これから発売されるトヨタEVは、キャズムを抜け出す起爆剤として登場することになろう。

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中国EVは補助金漬け

中国EVが、技術的な欠陥を抱えながら世界市場へ輸出するまでになった背景は、中国政府の補助金によるEV電池の量産化で低価格を実現したことだ。EVに占める電池コストは30~40%とされる。電池が、これだけの高いウエイトを持つ以上、低コストの電池を開発した中国が優位に立ったことは当然であろう。中国政府は、莫大な補助金を与えてきたのだ。

EV電池では、2種類が使われている。

1)三元系リチウムイオン電池(原料:ニッケル・マンガン・コバルト) 航続距離500km以上 日本
2)リン酸鉄リチウムイオン電池(原料:LFP) 航続距離400km程度 中国

LFPは、高価なコバルトやニッケルを原料に使わないので、三元系に比べて20~30%も割安になっている。EVに占める電池コストが30~40%とすれば、中国EVはLFPによってトータル・コストが6~12%も安くなる計算だ。現実は、これ以上の安値でEVを輸出している。政府の補助金が、輸出増のテコの役割をしている。各国が、ダンピング輸出として警戒するのは当然である。

電池の火災発生事故は、LFPが三元系よりも構造的に低い発生率とされている。だが、中国ではまったく逆の事態が起こっている。三元系よりも高い火災発生率である。

中国EVは、発火事故の多いことで知られている。この背景には、政府による生産管理規定の甘さを指摘する声もあるが、量産先行で品質を二の次にしてきた欠陥の現れとみられる。世界のバッテリー市場でシェア1位の中国CATLの曽毓群会長が最近、EV火災の急増について「安全基準を高めなければならない」と主張している。

Next: なぜEV火災が後を絶たない?トヨタEVが「世界カー」となる当然の理由

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