トヨタへの評価は、EVをめぐって大きく変わろうとしている。これまでは「EV落第」という声も出るほど厳しかったが、リチウムEVの逆境到来によってトヨタの評価は逆転。改めて、トヨタの総合力に舌を巻くほかない。(『 勝又壽良の経済時評 勝又壽良の経済時評 』勝又壽良)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
EV遅れによる「トヨタ・バッシング」を跳ね除けて好業績
トヨタ自動車の4~6月期営業利益は、市場予想を上回る1兆1,209億円であった。半導体不足の緩和による生産回復と、円安が追い風になったものだ。23年度の営業利益目標は、過去最高の3兆円である。すでに、4~6月期で37%の高い進捗率だ。このまま推移すれば、目標を上回る営業利益を達成するであろう。
トヨタが、こうした好業績を上げたのは、EV(電気自動車)での世界的な過当競争に巻き込まれず、「我が道を行く」戦略が機能したものとみられる。現在のリチウム電池によるEVは、本格的な「ゼロカーボン・カー」へ向けての「一歩」に過ぎないと位置づけてきたからだ。トヨタは、EVについて技術とマーケティングの両面で、確固たる経営戦略を立ててきたとみられる。
この技術面とマーケティング面からの具体的な分析内容は、後で取り上げるとして、世界のEVブームはさながら「熱病」のような広がりをみせた。EVに乗り出さなければ、自動車メーカーとして失格という雰囲気であった。その点で、世界一の自動車メーカーであるトヨタが、地味な動きであったことから、メディアは「トヨタはEV脱落」とまで酷評するほどだった。先のトヨタの社長交代の裏には、こういう雰囲気も手伝っていたのだ。
それほど、「トヨタ・バッシング」は厳しかった。株価も低迷した。社長交代に当たり豊田前社長は、株主総会で思わず涙する姿が報じられたほどだ。トヨタのEV戦略に対する世界の無理解を嘆いたとみられる。
トヨタは、どうしても明らかにしなかったことがある。現在のリチウム電池のEVブームが、すぐに終わると踏んでいたことだ。これは、口が裂けても言えないだけに苦悶したであろう。自らもEV生産の旗を掲げている以上、口外できるはずがなかった。
「わざと」EV市場に出遅れた
トヨタの23年3月期のEV販売台数は、3万8,000台であった。世界トップの自動車企業としては、目を疑う数字であろう。トヨタは22年欧州10カ国の市場でシェア0.8%の7,554台のEVを売るのにとどまった。トヨタがEV市場で振るわない背景として、充電施設不足と高い価格などを指摘されている。トヨタは、20年以上前からハイブリッドカー(HV)を生産し、バッテリー製造技術まで蓄積している。
そのトヨタが、欧州で惨敗であった。ハイブリッドカーは、動力源としてバッテリーと内燃機関の「二刀流」である。トヨタは、世界で最も早くEV技術を磨いてきた企業である。トヨタのEVは、ハイブリッドカーの延長線にあり、技術的にいつでも本格的進出が可能な状態にある。トヨタは、あえてそれをしなかった。
ここにトヨタの深い読みをみるべきだ。