fbpx

わざとEV出遅れ「トヨタ」の経営戦略が凄すぎる。リチウム電池に逆境到来も無傷、中国勢に育てさせたEV市場を一気に刈り取りへ=勝又壽良

中国のEV市場を育てたのはトヨタ?

トヨタは、中国でハイブリッドカーの基本特許を無料公開している。中国のEV進出を側面から支援する姿勢をみせた。中国がその後、一挙にEVブームに移っていく技術的きっかけはトヨタの基本特許の無料公開による効果も大きかった。

トヨタは、なぜ自社のライバルに塩を送ったのか。トヨタの説明では、中国の二酸化炭素ゼロ運動に協力したとしている。この表面的な話に納得できるだろうか。

本当の狙いは、中国のEV市場を育てて、トヨタがEV本格進出の際に自社で「市場を刈り取る」という深慮遠謀が働いていたと見るべきだ。目先は利益にならなくても、将来は大きな利益を得る。こういうトヨタの経営戦略を嗅ぎ取ることができるであろう。

中国のEV業界は現在、過剰生産状態に陥っている。今年7月、主力EV企業は値下げしないという合意を発表したが、独禁法違反の恐れを指摘されて撤回する羽目になった。これほど値下げ競争が激しくなっている。

中国では、過去数年間にEVメーカー約400社が経営破綻に追い込まれた。全国各地の廃棄物の置き場には、技術面で時代遅れとなったEVが放置される惨状を呈している。これは、政府からの補助金目当てという「不純な動機」も手伝っている。2023年のEV普及率は、人口1,000万人以上の大都市では40%近いのに対し、人口50万人以下の都市では20%と大きな差があるという。地方は、財政面が苦しいことや消費者の所得の低い、という事情が影響している。

総じて見れば、中国の2023年上半期のEV普及率は、20.5%(欧州は12.9%)に達した模様だ。ただ、優遇政策による普及率押し上げで、「EVを無理して買わされた」という層もかなりいるはずである。実は、次に述べるマーケティング理論から言えば、現段階のEV普及率が目先のピークとなろう。これからしばらくの間、「小休止」に入ると判断されるのだ。

市場理論で危機を回避へ

マーケティング理論である「キャズム理論」によれば、普及率16%までの「初期市場」から、次の本格的な息の長い「主流期」へ入る間に「深い溝」(キャズム)が存在すると指摘されている。あらゆる新商品の普及段階では、発売から一挙に熟成期へ達するのでなく、その間に数年の「小休止」期間が挟まると指摘されているのだ。

これは、「好奇心の強い」消費者がすぐに新製品へ飛びついても、平均すれば16.5%の普及率の段階で、そういう需要層が一巡する。発売直後ゆえに、新商品の欠陥も浮き彫りになることから、「保守的」消費者は様子見をするのだ。

これは、あらゆる新商品でパターン化されている。EVも例外でない。米調査会社J.D.パワーは6月に実施した調査で、中国EVに対して「開発期間の短縮と複雑な技術への適応不足」による不具合の増加と、「顧客の価値観と品質管理にもっと注意を払う必要がある」と指摘した。中国の消費者は、「車本来の価値」の重要性に気づき始めている」と指摘される理由である。

「車本来の価値」とは何か。安全性・快適性・耐久性であろう。中国EVは、消費者の関心を惹くために、自動車本来の機能から外れた「アミューズメント」の追求に傾斜しすぎていた。これが、「保守的」消費者の不信を買って購買意欲を失わせた。

トヨタは、EVについて「キャズム理論」を正確に認識していたとみられる。そうでなければ、中国でハイブリッドの基本特許を無料公開したり、リチウム電池の欠陥を見抜いて、次世代の全固体電池の開発や水素自動車(燃料電池自動車:FCV)開発に全力を挙げるはずがないからだ。リチウム電池が完璧に近い製品であれば、トヨタといえども安閑としていられなかったであろう。

トヨタが、リチウム電池はEVの主要電源でないという分析と、「キャズム理論」に基づく市場分析によって、次世代の全固体電池でEV「主流期」において大勝負を挑む戦略とみるべきだろう。

トヨタの発表によれば、全固体電池搭載のEVは2027年までに発売する方針である。「キャズム理論」によれば、「深い溝」(小休止)は数年とされる。23年が「溝」に入ったとすれば、28年までは世界のEV業界は苦難期を迎える。この間、トヨタは無傷という「奇跡」が起こるであろう。

中国だけが、EVの販売が落ちているのではない。米国でも起っている現象だ。調査会社コックス・オートモーティブによれば、8月に入って米国のEV在庫が103日間まで膨らんだ。ガソリン車の約2倍である。自動車メーカーと販売会社は、EVの増え続ける供給分を捌くために、前年比で20%も値下げしているのだ。

Next: 米国で再びハイブリッド車に脚光?トヨタ躍進の土壌が育っている

1 2 3 4
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー