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わざとEV出遅れ「トヨタ」の経営戦略が凄すぎる。リチウム電池に逆境到来も無傷、中国勢に育てさせたEV市場を一気に刈り取りへ=勝又壽良

米国でハイブリッド車の真価を評価

米国で、EVに代って人気を得ているのは、トヨタが先鞭をつけたハイブリッド車(HV)である。EVに対する需要は予想ほど加速せず、HVへの関心が持ち直しつつある。これこそ、「キャズム理論」が生きていることを雄弁に物語っている。

調査ではEV需要低迷の理由として、リチウム電池に関し初期コストの高さや航続距離への懸念、充電時間の長さ、充電ステーションの不足などが挙げられている。「排ガス規制が強化される中で、買い手は思い切ってEV購入へ走ることなく、HVで比較的クリーンな車を手に入れられる」と購買動機を指摘している。

米フォードは最近、今後5年間でHVの販売を4倍に増やす計画を公表。同社のほかトヨタなど大手が、向こう5年間に米国で生産するHVは年間数十万台規模に上ると予想されている。各社は、一気に完全EV化する準備が整っていない個人・法人顧客向けに対し、代替手段としてHVを売り込んでいるという。

トヨタは、これまでHVがリチウム電池の欠陥を補う意味で最適な存在であると強調してきた。これが、リチウム電池EVへ全力投球しなかった理由だ。トヨタのチーフ・サイエンティストのギル・プラット氏は、広島で開催される主要7カ国(G7)首脳会議を前に、EVへの移行が早すぎると消費者はガソリンなど化石燃料を消費する内燃機関車に固執する恐れがあると警告し、HVに長い猶予期間を与えるよう呼び掛けた。『ブルームバーグ』(5月18日付)が報じた。

トヨタは、リチウム電池EVの欠陥を見抜いており、代役としてHVに繋ぎ役を任せるように訴えたのだ。現状は、この指摘通りの展開である。消費者が、賢明にもそういう選択を始めている。

今年4月に米国の自動車販売店に宛てられたトヨタのメモは、完全電動化に向けた課題について説明していた。「航続距離の長いバッテリー搭載のEV1台に使用される原材料の量があれば、それでPHV(プラグインハイブリッド:外部から給電可能)を6台、HVを90台生産できる」と指摘している。さらに驚くべき数字がある。「これら90台のHVの全使用期間中に達成される温室効果ガス削減量は、BEV(バッテリーEV)1台による削減量の37倍に達する」と指摘した。『ウォール・ストリートジャーナル』(6月5日付)が報じた。

EVが、二酸化炭素排出削減に寄与するとされているが、BEVとHVに関して温室効果ガス削減量を正確に比較すれば、イメージとはまったく違った答えが出たのだ。社会を支配する一時的なムードは恐ろしいものである。イメージだけで、正しい計算を排除するからだ。

トヨタEVで無傷の奇跡

トヨタは、こうして理論通りの経営戦略を進めていることが分かる。

これから数年間、EVに関わった企業はEV失速状態の中で、過剰生産能力と過剰在庫を抱えて大きな試練を受けるであろう。

唯一トヨタだけが、正確にEV市場動向を分析していた結果、「無傷」という信じられない結果となれば、世界の同業他社をさらに引き離すであろう。

Next: 水素電池も準備。トヨタは万全の体制で自動車覇権を広げていく

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