東京メトロがいよいよ10月23日に上場ということで、買うべきかどうか迷っている方も多いのではないでしょうか。私が証券会社に勤めていた頃に上場をお手伝いしたのが東京メトロであり、今回の上場には感慨深いものがあります。ぜひ私の話を皆さんの投資判断に役立てていただければと思います。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』栫井駿介)
プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
盤石だが成長性なし?
私が新卒で証券会社に入社したのが2009年で、入社してすぐに関わったのが東京メトロの上場でした。
当時はその1~2年後には上場できるように進めていたのですが、東日本大震災や都政の問題、そしてコロナ禍の赤字などでなかなか上場に至りませんでした。
それがいよいよ上場できる環境になったということです。
東京メトロが良い企業なのかという点では、鉄道会社としてはピカピカの企業であると言えるかと思います。
東京の地下鉄は東京メトロだけで180駅あり、それぞれに需要があって多くの人が利用しています。
地下に線路を作るには地上の10倍のお金がかかると言われる中で、地上の交通の妨げにならないように明治時代から国や政府が中心となって地下鉄を敷いてきました。
今はその恩恵にあずかっているということです。
東京メトロの業績を見てみると、営業利益率が16~17%くらいあります。
他の鉄道会社と比べると、JR東日本12.6%、東急9.1%、小田急12.4%、京王10.7%、西武10.0%ということで、百貨店事業などを行っている会社とは一概に比べることはできませんが、鉄道の部分だけを見ても東京メトロの営業利益率は圧倒的です。
逆に言うと、現状が非常に良いだけに保守的な会社でもあります。
地下を掘り進めて鉄道事業をさらに伸ばしていくような状況ではありません。
延伸計画もいくつかありますが、2040年頃に開通予定という先の長い話です。
よって、鉄道事業での成長性は正直厳しいです。
人口の東京一極集中で盤石ではありますが、ここからさらに増えるという状況ではなくなっています。
鉄道事業での成長は難しいとなると、他の部分はどうかという話になります。
不動産や広告事業も営業利益が高く、東京メトロも行っています。
しかし、地下のパイプを保有しているだけで土地を持っているわけではないという地下鉄のデメリットが出てしまい、どんどん開発を進めていくような企業にはなれていません。
駅ビルを他社と共同で権利を持っていたりはします。
例えばJR東日本は土地を持っているので地上部分の開発を進めていますし、大きな駅ビルを建てるなど、不動産事業を展開していて、それと比べると東京メトロは弱い部分があります。
つまり、東京メトロは成長性を期待する企業ではないということです。
現に、私が関わっていた2009年頃の純利益は400~500億円でしたが、現在でもまったく同程度です。
期待は「配当」
成長性が無い企業の何に期待するかというと、配当ということになります。
東京メトロは2023年度の業績に対して配当性向が約50%となる40円の配当を出すと言っています。
JR東日本や他の鉄道会社の配当性向は30%くらいなのでかなり高い水準です。
東京メトロの想定売出価格は1,100円となっていて、それに対して40円の配当となると、配当利回りは3.6%となります。
JR東日本1.8%、東急1.18%、小田急1.8%、京王2.0%というところなので、かなり高いです。
成長性は無いけれども、3%超の配当を受け取り続けられるならメリットがあると考えられます。
ただ、気を付けなければならないのが、今の想定売出価格はあくまでも仮の数字だということです。