オーストラリア国防省のシンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」が世界の最先端テクノロジーの最新ランキングを発表した。結果を見ると、落ち目のように報道されている中国が決して侮れない国であることがわかる。中国経済が崩壊に近いとのイメージを信じ込むことは危険だ。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2024年9月6日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
圧倒的な中国のテクノロジー
オーストラリア国防省のシンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」が発表した最新レポートについて書く。中国の現状をきちんと理解するためには、重要なレポートになる。
あいかわらず日本の主要メディアでは、中国については否定的なニュースが多い。たしかに中国の不動産バブル崩壊の余波は大きい。これは否定できない事実である。不動産バブルの崩壊前、中国の不動産投資はGDPの約29%にも達していたと言われている。
マンションなどを中心にした旺盛な不動産投資が増加したため、鉄鋼や建設資材、機械や家電、自動車などの需要は増え、インフラ関連の投資が増えた。それに伴い、サービス業のあらゆる分野も成長し、国民の雇用と所得も増えた。地方の省政府は民間の開発業者に土地の利用権を譲渡して収入を確保し、産業補助金なども確保することが可能になった。まさに、不動産投資を中心に経済がうま回っていた。
このような不動産バブルは、2020年8月、中国政府の不動産開発会社の借り入れ規制(3つのレッドライン)をきっかけに崩壊した。これは1990年に日本の大蔵省が実施した金融機関の不動産融資規制、「総量規制」と同じものだ。当時の日本のバブルが崩壊したように、中国の不動産バブルも崩壊した。
しかし、バブルの崩壊から4年経つにもかかわらず、中国の不動産市場は回復していない。8月15日、中国の「国家統計局」は不動産関連の経済指標を発表した。主要70都市の新築住宅価格は、単純平均で前月比0.6%、中古住宅価格は前月比0.8%下落した。不動産価格は下落傾向を脱していない。
バブル崩壊の影響は依然として大きい。不良債権の増加、モノやサービスの需要減少が連鎖する状況だ。金融緩和だけでは景気の回復は難しい。大規模な財政出動によって不良債権の処理にめどをつけ、財政支出で経済全体に需要を喚起する。そして、債務問題が深刻な金融機関などに公的資金を注入し、経営再建を支えることが必要だという見方が強い。
不動産バブル崩壊の背後で進んでいること
不動産バブルの崩壊がもたらす影響は大きく、これの中国経済に対する影響を過小評価してはならない。だが逆に、日本の主要メディアのように、これを過大に喧伝し、中国経済が崩壊に近いとのイメージを信じ込むことはもっと危険だ。2024年の中国経済の成長率は4.7%だ。8%程度だった10年前に比べると確かに低いものの、どの主要先進国に比べても高い。好景気が伝えられるアメリカでも2.7%だ。
中国では、経済の大規模な構造転換が進んでいるというのが実態だ。不動産投資を中心としたバブル型の循環から、先端的テクノロジーの開発を基礎した新製造業を土台にした成長モデルへの転換である。この新製造業への転換が進んでいるのだ。
これを主導しているのが、最先端テクノロジーの開発である。この開発の勢いの凄まじさは、第776回で詳しく書いた。この記事ではオーストラリア国防省の「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」が昨年の3月に発行し9月にアップデートしたレポート、「ASPIのクリティカルテクノロジーのトラッカー、未来のパワーをめぐるグローバルな競争」を紹介し、最先端テクノロジーの分野における中国の状況を解説した。
このレポートは、第4次産業革命の中核となる44の産業分野における世界の開発状況をリスト化したものである。各技術に関連する合計220万件の論文、さらに、様々なキャリアステージ(大学、大学院、就職)における各国間の研究者の流れに関するデータを収集・分析し、各分野をリードする国をランク付したリストである。すると中国は、44の主要な先端的分野で、37分野で首位なっていることが明らかになった。すでに多くの分野でアメリカを抜いていた。