最新のレポート
こうした結果であったが、8月30日にこのシンクタンクから最新のレポートが出た。それは「クリティカル・テクノロジー・トラッカー」の最新版である。今回のレポートは、長期的な研究投資の成果を見るために、過去20年間のデータを総合し、最先端テクノロジーの各分野における各国の優位性とランキングを調査したものだ。
今回のレポートでは、防衛、宇宙、エネルギー、環境、人工知能、バイオテクノロジー、ロボット工学、サイバー、コンピューティング、先進材料、量子技術の主要分野にわたる64のクリティカル・テクノロジーをカバーしている。このレポートは、各国の研究実績、戦略的意図、将来の科学技術能力の潜在的可能性を予測する先行指標として、最も引用頻度の高い論文の上位10%を調査し、分野別で国と研究機関の優位性をランキングした。
昨年の3月に公開され、9月にアップデートされた過去のバージョンでは、データの調査機関が2018年から2022年の5年間で分野も44だったが、最新レポートでは調査期間は2003年から2023年の22年間、そして対象となる分野も64に増加している。これで、過去22年間における最先端テクノロジーで、国別の優位性の変化が分かる。全文はここで読むことができる。
・ASPIのCritical Technology Tracker
https://techtracker.aspi.org.au
64分野のうち57分野で中国が首位
第776回でもすでに書いたように、過去のレポートでは44の最先端分野のうち中国は37分野で首位になっていた。今回のレポートでは、中国の圧倒的な優位性がさらに印象づけられる結果になった。
中国は2003年から2007年の間、64の技術分野のうち3分野で首位に立ったが、2019年から2023年の間には64の技術分野のうち57分野で首位に立っており、昨年のランキング(2018年から2022年)で52の技術分野で首位に立っていたときよりも、そのリードをさらに広げている。中国は、量子センサー、高性能コンピューティング、重力センサー、宇宙打ち上げ、先進的な集積回路設計および製造(半導体チップ製造)の分野で新たな進歩を遂げた。
また、国家の安全保障など戦略的にもっとも重要な「ハイリスク」とされた分野は昨年の14から24に増加している。新たに「ハイリスク」に分類された技術のすべてにおいて中国が首位を占めており、合計64の技術のうち24が中国による独占のリスクが高いとされている。 さらに、新たに「ハイリスク」に分類された技術の多くが、レーダー、先進航空機エンジン、無人機、群れ行動ロボット、衛星測位・航法など、防衛用途の技術である。これから軍事的にも中国の優位性が高まることを暗示している。
また、世界最大の科学技術機関であると考えられている「中国科学院(CAS)」が、本レポートにおいて、世界で最も高いパフォーマンスを誇る機関であり、64の技術分野のうち31の分野で世界をリードしていることを示している。2023年は29分野であったが、2024年は31分野に増加した。
これに対しアメリカは、2003年から2007年の5年間では64の技術分野のうち60で首位を占めていたが、直近の5年間(2019年から2023年)では7つの分野のみで首位となっている。多くの分野で中国にリードされていることが明らかになった。だがアメリカは、量子コンピューティング、ワクチンおよび医療対策、核医学および放射線治療、小型衛星、原子時計、遺伝子工学、自然言語処理の分野でリードしている。
組織別に見ると、「グーグル」、「IBM」、「マイクロソフト」、「メタ」など米国のテクノロジー企業は、人工知能(AI)、量子技術、コンピューティング技術の分野で主導的または強力なポジションを占めている。主要な政府機関や国立研究所も健闘しており、宇宙および衛星技術に秀でた「米国航空宇宙局(NASA)」はそのひとつだ。