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グーグル日本元社長が語る超速集団の実態。現場で即断、即決、即アクション。指示を待ったらダメ社員確定=辻野晃一郎

日本では労働生産性の低さが指摘されるにも関わらず、労働時間の短縮が叫ばれています。しかし、世界最高の企業であるグーグル社員達は、超高速の生産性高い仕事を長時間労働を苦とせず受け入れています。このような集団をどうしたら生むことができるのか。グーグル日本法人元社長が、グーグル社員の仕事への取り組みを包み隠さず公開します。(『 『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』辻野晃一郎)

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※本記事は、『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』 2023年5月19日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会に今月すべて無料(2023年5月まで)のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:辻野晃一郎(つじの こういちろう)
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

現場が権限を握るグーグルの逆ピラミッド型構造

ChatGPTが登場して、生成AIの分野を巡るテックジャイアントたちの動きが活発化する中、新たな正念場を迎えたグーグルも巻き返しに躍起ですが、そんな彼らは、日々どのように働き、何を成長のエンジンとしてきたのでしょうか?そしてそこには、近年、国際的な産業競争力を急速に失いつつある日本の行き詰まりを、打破するヒントはないのでしょうか?

前号から、前編、中編、後編の3回に分けて、私が経験したグーグルの働き方を具体的に紹介していますが、今号はその2回目になります。皆さん自身や、皆さんの会社の働き方をより良くしていくためのヒントを、一つでも二つでも見つけていただくことができれば、幸いです。

日本の組織は、ピラミッド型の階層構造の中で、トップが圧倒的な権限を持ち、さまざまな業務命令が、トップダウンで現場に降りてくる受け身型のスタイルが、いまだに根強いのではないでしょうか。そしてこの上からの指示や圧力に現場がなかなか逆らえないことが、2015年に発覚した東芝の不正会計事件に代表されるような企業犯罪や、2017年の財務省による公文書改ざん事件のような、組織ぐるみの悪事を引き起こす構造的な原因にもなっているのではないでしょうか。

個人よりも組織や集団の価値観や論理が優先されて、個人はその中に埋没する構図は、個人が解放されたインターネットの時代には、まったくそぐわないものです。そのような環境では、自浄作用が機能しにくいだけでなく、イノベーションが生まれる余地もありません。

一方、グーグルの環境は、実質的にフラットで、権限は現場の当事者にほぼ完全に移譲されています。もちろん、組織としてさまざまな部門は存在しますし、階層構造も存在しますが、日々の業務でそれを意識することはほとんどありません。組織図を気にすることも、見かけることも、まずありません。敢えていえば、フラットで逆ピラミッド型というか、一番上にフラットな現場があり、それを組織が下から支えているというイメージがわかりやすいかもしれません。

上長の指示を待たずに現場で決めたことが決定事項

私が在籍した頃には「命令されて仕事をしたければ海兵隊にでも行け」という言葉もあったほどで、受け身型の人、指示待ち型の人は、嫌われました。現場は、個人の主体性を原動力に自律走行的に動くので、イノベーションが生まれやすく、意思決定と行動のスピードが格段に速かったです。現場の当事者にはもちろん上長もいますし、組織としての機関決定の仕組みもありますが、原則、現場の当事者が決めたことが決定事項であり、上長や組織は、現場が決めたことの遂行をサポートし、バックアップする役割だったといえます。

これは平時に留まらず、非常時でも同じです。たとえば、2011年3月11日の東日本大震災の時には、現場の判断で、パーソンファインダー(行方不明者を見つけるためのウェブサービス)などの、被災地を支援するためのツールやサービスをすぐに立ち上げました。この時期、私は既にグーグルを離れていましたが、関係者から聞くところによると、この動きは私も知る、一人の日本人ウェブマスターの自発的なアクションが起点となり、たちどころに全社(日本法人に留まらず)に連携が広がっていって、実行されたものだったそうです。このような場合、本業を中断して被災地救済を優先した現場の判断が咎められるようなことは、一切ありません。むしろ、米国本社を始め、世界各地のリージョナル・オフィスが、日本法人のアクションを全面的にバックアップしたのです。

このように、現場の当事者に権限を委譲し、予算も配分して、当事者の裁量や主体性に任せるやり方は、本来の民主主義のあるべき姿でもあります。グーグルのホームページには、「グーグルが掲げる10の事実」というものが掲載されていますが、その中の4項目目に「ウェブ上の民主主義は機能する」というものがあります。そもそも民主主義というのは、決してトップダウンなのではなく、「民」が「主権者」という仕組みです。その観点からは、グーグルでの物事の決め方や進め方は、極めて民主主義的だということが言えます。

余談になりますが、最近、朝日新聞OBの鮫島浩さんが、兵庫県明石市の市長だった泉房穂さんと対談した『政治はケンカだ!』(講談社)という本を読みました。これを読んで、泉さんのやり方は、グーグルのスタイルに近いと感じました。泉さんは、市長や市議会がトップダウンで政治をするのではなく、市民に権限を委譲する形で、市民が自律的に問題解決にあたる流れを作ることに腐心したそうです。それが、明石市の子育て改革など、高く評価される一定の成果につながった大きな要因だったのではないでしょうか。

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