資金負担の少ない「低コスト大会」をうたい文句に招致した東京五輪。現実にはすでに3兆円以上の金を使い、無観客でチケット収入はほとんどありません。想定した収支計算が大きく狂っているはずです。国や自治体は、五輪の収支決算の結果を開示し、細目まで説明する必要があります。『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2021年7月26日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
形骸化した「復興五輪」
東京オリンピックがついに開催されました。事前には開催への賛否が分かれ、どちらかと言えば、開催に否定的な声や慎重論が優勢でした。
それでも政府は世論に関わらず、まず開催ありきでことを進めました。内閣支持率が危機的水準に下がる中で、秋には選挙をせざるを得ず、これを乗り切るにはワクチン接種とオリンピックで国民のムードを盛り上げることが必要でした。
国民世論がオリンピックに冷ややかな中でも、政府には開催してしまえば、いやでも日本選手の活躍に国民の気持ちが盛り上がるとの期待がありました。また、G7など国際的に支持を得た手前、そしてIOCとの関係を考えれば、開催中止は政治的にあり得なかったようです。
それにしても、オリンピックの精神はどこかに消え去り、「カネと政治」による五輪開催の色合いが強いことを国民の前にさらしてしまいました。
海外メディアからIOC会長は「ぼったくり男爵」の称号を与えられ、開催関係者の人選、報酬では政府に近い一部の人が優遇され、甘い汁を吸うことも明るみにされました。
もはや「復興五輪」の性格は跡形もなくなりました。
コロナに負けて無観客
もともと東京への五輪招致に際しては、安倍前政権が福島第一原発は「アンダー・コントロール」と強弁し、復興五輪という名前で五輪開催を正当化しようとしました。
時の権力は巨大イベントの誘致に熱心です。五輪であれ万博であれ、これを行えば当然巨額の資金が動き、そこに政府の権力が絡むことで、利権を得、関係者と政府の利益強化の一環として利用できるからです。
今回もその例にもれません。
復興五輪は、建前でしかなかったことは、福島でのソフトボールがコロナの問題があるにせよ、無観客で行われ、色あせました。
何より、未だに福島原発の廃炉計画が進まず、原発処理水のプールが限界にあたり、希釈して海に放出することに、地元漁民のみならず、海外からも懸念の声が上がっています。
復興五輪が形骸化すると、今度はコロナを人類が克服した証の大会と言っています。
コロナの国内感染も制御できず、急速に第5波が拡大し、開催地東京で緊急事態宣言が発出される中での開催となりました。
そして「バブル方式」の安全性を主張したにもかかわらず、選手村でも感染者が多数出て、参加できなくなる選手や選手村ではなく、ホテル宿泊を選択するケースも見られます。
人類はコロナを未だ克服できず、感染拡大のリスクをあえて負った大会となりました。