中国が発表した「自国産レアアースを0.1%でも含む製品は中国の管轄下にある」との声明は、世界経済に衝撃を与えた。だが、その“資源支配”戦略は、意図とは真逆の結果を招くだろう。
日本は南鳥島で世界最高品位のレアアース泥を確保し、2026年の試掘、2028年の商業生産に向けて着々と準備を進めている。AIとロボットによる低コスト・高効率の採掘・精製が可能となれば、中国の独占構造は一挙に崩壊する。米豪の共同開発に技術支援する日本が、レアアース新時代の主導権を握る日は近い。中国の「資源武器化」は、自国の孤立と経済失速を加速させる“自滅戦略”に終わる可能性が高い。(『
勝又壽良の経済時評
勝又壽良の経済時評
』勝又壽良)
プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
中国「レアアース」外交に暗雲
中国は10月、西側諸国に対して自国産レアアース(希土類)が0.1%未満でも含まれている場合、中国が管轄権を主張できると発表した。西側の製造業が、中国の許可なしには動けなくなるというほどの強烈さだ。中国にとって大きな賭になるが、「凶」と出ることは間違いない。
中国が、世界の先端工業製品の「支配権」を握るにも等しい発表だが、これには大きな落し穴がある。レアアースの囲い込みという「資源独占」は、決して成功しないのが経済の常識だ。一時的に成功したようにみえても、新たな鉱床が発見されれば、立ち所に地位が逆転する。資源独占は、こういう脆弱性を抱えている。知識の塊である特許とは、異質な存在である。特許の少ない中国が、資源独占で対抗しようという切羽詰まった構図でもある。成功するはずがない。
中国は現在、レアアース採掘の70%、分離・精製の90%、磁石製造の93%と圧倒的なシェアを握っている。天下無敵にみえるが、中国の確保している鉱床はすべて陸上である。この場合、鉱石採掘段階で採掘量の22倍の水と巨大エネルギーを必要とする。つまり、すさまじい環境破壊を覚悟しなければならない分野である。
日本がレアアース覇権を握る?
この「常識」が100%覆されるのは、日本による南鳥島レアアース開発である。海底6,000メートルの深海から、中国陸上鉱床の20倍以上という高品位(0.5%含有)のレアアース泥が1,600万トン(製品換算)も存在することが確認されている。日本は、26年1月から試掘を開始する。28年から商業生産に入る見込みだ。年産100万トンの能力を備えるもので、中国の年産27万トン(24年)をはるかに上回る量だ。
日本が、一挙に中国の生産量を上回って断トツの世界一の座を掴めるのは、前述のレアアース品位が中国陸上鉱山の20倍もあることだ。つまり、南鳥島で採取するレアアース泥の品位は20倍もある。日中で同じ作業を1回行なっても、製品のレアアース量が20倍も違うという意味である。
日本は、採取したレアアース泥を陸上鉱山のように水で洗い流す必要はない。すでに微粒子レベルでレアアースを含んでおり、粉砕や化学前処理が不要である。これによって、遠心分離や比重選鉱などは、AI(人工知能)によって物理的な機械処理で高濃度化が可能になる。つまり、AI(人工知能)とロボットが、すべての工程を処理できるのだ。世界最新の精錬過程によってレアアースが製品化される。
南鳥島「宝の海」日本躍進
前述の通り、日本が年産100万トンのレアアース生産体制が確立したとき、中国はどのように対応するのか、である。南鳥島のレアアースの特色は、生産コストが格段に安いことだ。レアアース泥1トンの採掘コストは2万円とされている。精錬コストは不明だが、AIやロボットが分類していくので人件費が掛らないという点も大きなメリットである。
陸上のレアアース採掘現場は、地上に大きな穴を掘りながら採掘していく。鉱石は、大型ダンプで運び出して選鉱し精錬過程へ送る。このように、手間の掛る作業である。南鳥島のレアアースでは、選鉱過程まで自動化されて人間の作業が不要である。この事実を知るだけでも、その違いが理解できるであろう。
これだけでない。南鳥島のレアアースは、大きな品質面の優位性が知られている。