日本郵便の契約社員と正社員との格差は「違法」との最高裁判決に、労働者側からは喜び声が多く聞かれる。しかし角度を変えると、この判決の違った一面が見えてくる。中小企業淘汰のはじまりという見方だ。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)
※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2020年10月12日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
格差是正に前進、非正規雇用「5年基準論」をばっさり切った
「日本の労働者にとって画期的な出来事」と世間で評価されている最高裁判決が下されました。
各地の郵便局で働く非正規の契約社員らが、正社員と同じ業務をしているのに待遇に格差があるのは不当だと訴えた裁判の判決で、最高裁判所は契約社員側の訴えを認め、扶養手当などに不合理な格差があり、違法だとする判断を示しました。郵便事業に携わる非正規社員は18万人あまりにのぼり、日本郵便は今後、待遇の見直しを迫られる可能性があります。
記事では、正社員に認められている手当のうち、
・扶養手当
・年末年始の勤務手当
・お盆と年末年始の休暇
・祝日の賃金
における不合理な格差があることは違法だと判断されました。
非正規雇用に関しては「通算5年基準論」があり、非正規雇用者を5年を超えて雇用した場合は正規雇用にしなければならないというルールがあり、だとしたら、5年未満であれば、非正規雇用と正規雇用の待遇を一緒にする必要はないという考えもありました。
今回の判決では、「5年」という数字ではなく、継続勤務が見込まれれば、契約社員にも扶養手当を支払うべきと示したことを受けて、「5年基準論をバッサリ葬り去った」という論調で報じられています。
ほかの裁判では労働者側が敗訴。今回の勝訴を単純に喜んでいいのか…?
この日以前に非正規雇用を巡る裁判判決があり、大阪医科大学事件では、非正規雇用のボーナス支給は認められず、メトロコマース事件では、非正規雇用の退職金支給は認められませんでした。
今回の日本郵便の非正規雇用の待遇改善を命じる最高裁判決を「労働者側勝訴」と喜んでるようですが、果たしてそんな単純な話なのでしょうか。
常に労組と企業との争いは、定点、つまり「今」という時間軸で議論している感じがしますが、もっと大局でこの判決を見ると、今後の日本企業のあり方が、大きく変わるきっかけになるのではないでしょうか。
単に「勝った・負けた」と、労働者の権利を勝ち取ったということではなく、もっと大きな問題が潜んでいるということを、このニュース記事から読み解いていきます。
立ち位置を変えれば景色は変わる
そもそも非正規雇用労働者が誕生した背景には「働き方の多様性」というものがあり、ブラック企業が社会問題になっていたことがあったかと思います。また、「ワークライフバランス」という言葉がもてはやされていましたね。
転勤などの雇用条件が会社に縛られる正規雇用の正社員よりも、会社との関係がもっと自由でいられるポジションとして非正規雇用と呼ばれる契約社員が増えました。
これを雇用する企業側から見れば、労働基準法で勝手にクビ(解雇)にすることができない、固定費としての人件費を払う正規雇用よりも、会社都合で契約を打ち切ることができ、社会保険負担もなく、ボーナスも退職金もない非正規雇用の契約社員のほうが、雇う側としてはありがたいと思うのは当然ですよね。
それで同じ仕事をしてくれるのであれば、当然、コストが少なくて済み、会社側の雇用者における責任が軽い非正規雇用が便利なのは決まっていますよね。
非正規雇用の制度を作るときから、わかりきっていたことです。
働き方の自由を前面に押し出せば、非正規雇用は自ら望んで選んだのではという見方もありますげ、現実は、企業側が正規雇用の門を閉じて、非正規雇用採用の門しか開けていないということで、望んで非正規雇用になったわけではないということもあります。
また「5年働けば正社員になれる」というルールがあるので、まさか5年後の契約時に契約してもらえないということは想像していないでしょう。
「通算5年」というのは、働く側としては希望の数字であり、雇う側にとっては単なる「有期」の数字でしかないのです。
労働者ファーストか、会社存続ファーストか。まさに立ち位置で主義主張は変わります。
働き方改革とか1億総活躍、女性活躍というスローガンは、労働者ファーストの印象を与えますが、制度運用の仕方によっては、違う目的で利用されるものです。