コロナ禍で企業倒産や人員削減が急増しているが、日本の法律では簡単に従業員を解雇することはできない。しかし実際には多くの人がクビになっている。どういうことか?そのカラクリを解説したい。(『ブラック企業アナリスト 新田 龍のブラック事件簿』新田龍)
※本記事は有料メルマガ『ブラック企業アナリスト 新田 龍のブラック事件簿』2020年10月9日号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:新田龍(にった りょう)
働き方改革総合研究所株式会社代表取締役。働き方改革コンサルタント/ブラック企業アナリスト。労働環境改善のコンサルティングと、ブラック企業相手のこじれたトラブル解決が専門。各種メディアで労働問題についてもコメント。ブラック企業ランキングワースト企業出身。趣味はクソリプ鑑賞。
自由に解雇できない日本企業
新型コロナウイルス感染拡大で、世界的に景気悪化が広がっている。国内でも上場企業の業績下方修正が相次ぎ、早期・希望退職の募集が増えているようだ。
実際、東京商工リサーチの調査によると、2020年に早期・希望退職を募集した上場企業は9月15日時点で60社に達し、対象人数も1万100人に上っている。対象人数が1万人を超えたのは前年より1カ月早く、募集企業数についてもリーマン・ショックの影響が残る2010年の85社に迫る勢いとなっている。
映画やマンガでは、ヘマをした部下に対して上司や経営者が「お前はクビだ!」などと宣告する場面をよく見かける。しかし、これができるのはあくまでフィクションの世界や、日本とは法律が異なる海外の話。日本ではそう簡単に、従業員のクビを切ることはできない。
現実の世界でこれを本当にやってしまったり、もし冗談だとしても、言われた従業員が真に受けてしまったりしたら大変なトラブルになるだろう。日本では、労働基準法をはじめとした法律によって、労働者の雇用は手厚く守られているからだ。
しかし、少し法律にお詳しい方であればこう思われるかもしれない。
「それはおかしい。民法には『期間の定めのない雇用契約はいつでも解約の申し入れをすることができる』と書いてあるじゃないか。退職も解雇も自由ってことだろ?」「その労働基準法に、『30日前に予告するか、解雇予告手当を払えば、従業員はいつでも解雇できる』って書いてあるぞ!」
確かに法律上はそうなっているので、「お金を払えば自由に解雇できる」とお考えの方がいるかもしれない。しかし、法律とは別にもう1つのルールが存在するのだ。
それが「判例」である。これまで解雇にまつわる裁判が数多おこなわれてきた「歴史の積み重ね」があり、裁判所の判断によって築き上げられてきた判例が法理として現行の「労働契約法」による解雇の規定となっている。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
ちなみに、「日本は世界的に見て、解雇規制が厳しい」と言われるが、OECD諸国で比べた場合、日本は解雇規制が弱い方から10番目。アメリカより厳しく、欧州より弱い、という位置づけだ。
しかしこれもまた「あくまで法律上では」という話であり、実際は過去の判例とこの労働契約法により、解雇に合理的理由がなければ解雇は無効となる。これを「解雇権濫用の法理」と言う。
したがって、会社が従業員を解雇するには、客観的に合理的な理由が必要となるわけだ。
実際は大量に解雇されている!?
しかし、まさに現在進行中のリストラにまつわる報道では、実際に「○万人削減」という具合に、クビが実行できている会社が存在している。
解雇は困難であるにもかかわらず、人員削減ができてしまうカラクリとは、いったいどのようなものなのだろうか。詳しく考察していこう。