高市政権の船出とともに、中国との関係悪化が早くも日本経済の不安材料となりつつあります。食料、労働力、資源の多くを海外に依存する日本にとって、外交のつまずきはそのまま経済安全保障の弱体化につながります。財政・金融の余力が乏しい今、大規模災害や地政学リスクが重なれば対応力が尽きかねません。次の危機に備えるため、財政規律の回復、日銀のバランスシート正常化、そして脱中国依存の加速が急務となっています。(『 マンさんの経済あらかると マンさんの経済あらかると 』斎藤満)
※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年12月5日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
日本の「経済安全保障」は大丈夫か?
外交の基本は敵を減らし、味方を増やすことにありますが、高市政権発足早々に、隣国中国との関係がこじれてしまいました。
米国や中国のように潤沢な資源を持ち、経済で自立できる国とは異なり、日本は経済各方面で海外に多くを依存する国です。それだけに、諸外国との関係が悪化すれば、すぐに経済安全保障が脅かされます。
食料自給率は38%と低く、海外からの販路を絶たれれば、62%の日本人が餓死するリスクがあります。人手不足が深刻化する中で、外国人労働力を規制すれば、建設や介護など多くの産業が回らなくなり、経済社会がむしろ不安定になります。
そして何より、大規模災害が発生しても、今の日本では財政、金融政策両面で余力がなく、危機対応ができないリスクがあります。
ゴムが伸びきった財税
いま世界各地で大規模な自然災害が発生しています。南アジアではサイクロンに伴う大雨でインドネシアからスリランカにかけて1,400人以上が命を落としました。日本でも毎年のように「50年に一度の豪雨災害」などに見舞われています。
そのうえ、「そう遠くない時期」に南海トラフ、首都直下型地震、富士山の噴火などが予見されています。いずれの場合も、多数の犠牲者が出るばかりか、経済が機能不全に陥るリスクが指摘されています。
こうした大災害に見舞われた時、島国日本ではまず日本政府が対応せざるを得ないのですが、今の日本では財政資源がすでに枯渇状態にあり、救援に当たる人的資源も限られます。そもそも、先の能登半島地震や豪雨災害に対しても、いまだに救援、復旧がすんでいません。政府は大阪関西万博を優先し、建設業者、資材を万博に優先配備したため、能登の復旧作業が大幅に遅れました。
能登に限らず、東日本大震災や福島原発事故で被災した人の多くが何年も生活インフラの整わない中で苦しい生活を余儀なくされ、10年以上たってもいまだに故郷に戻れない人も少なくありません。こんな状況で南海トラフや首都直下型地震に見舞われれば、はるかに多くの国民が路頭に迷います。
ところが、日本の財政はすでにGDPの235%もの債務を抱え、そこへ高市政権の財政規律なき拡張財政が財政不安をさらに高め、10年国債利回りは4日に一時1.91%の高水準となりました。財政不安で国債を買う人が少なくなっているためです。そこへ大規模災害が発生し、短期間に何十兆、何百兆円もの資金が必要となったときに、政府はどう対応する気でしょうか。
東日本大震災の時に行った「復興増税」を課しても限度があり、残りを国債で賄おうとすれば、長期金利は一気に急上昇します。日銀に国債を引き受けさせようとしても、日銀はすでに550兆円以上の国債を保有していて、これを元に戻すのに何十年もかかる状況のため、日銀を当てにはできません。






