fbpx

決算で株価下落「信越化学工業」今こそ買い?長期投資家が注視すべきリスクと成長性=元村浩之

信越化学工業<4063>は日本を代表する化学メーカーであり、その主力製品は半導体の基盤となるシリコンウェハーと塩化ビニル樹脂(VCR)です。同社の決算動向は、あらゆる製品にこれらの素材が組み込まれていることから、世界経済の状況を大枠で把握できる指標となります。

2025年10月24日に発表された直近の決算について、投資家のおよそ6割強がネガティブに捉えた一方で、「順調である」との見方や、判断に迷う声もありました。しかし、株価は決算発表後から下落基調にあることから、市場全体としてはネガティブに受け止められたと見ることができます。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)

【関連】東京エレクトロン株価急落は買いの好機か?業績「下方修正」2つの要因と今後の成長シナリオ=元村浩之

プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。

第2四半期累計業績と利益圧迫要因

第2四半期までの累計業績は、売上高自体は前年同期をかろうじて上回りました(対前年比で約1%増)。しかし、利益面では、営業利益が対前年比で18%減、最終利益ベースでも12%減となりました。

信越化学工業 <4063> 週足(SBI証券提供)

信越化学工業 <4063> 週足(SBI証券提供)

利益を圧迫している主な要因はコストの上昇です。具体的には、原材料コストや棚卸在庫との関係などにより売上原価が上昇している点、そして人件費や諸コストの上昇により販管費も約10%近く増加している点が挙げられます。売上原価と販管費の上昇が、営業利益を大きく圧迫する形となりました。

<主力セグメントの動向>

信越化学工業の事業は、主に塩化ビニル樹脂(VCR)を含む生活環境基盤材料事業と、シリコンウェハーなどが含まれる電子材料事業の二つが主軸です。これら二つの事業は、売上構成比でそれぞれ39%を占めています。営業利益ベースでは、電子材料事業が51%を占めており、生活環境基盤材料事業の31%を上回り、現時点での主力利益源となっています。

2025-10-30-13.16E381AEE794BBE5838F.jpeg

出典:信越化学 決算短信

今回の決算で特に目立つのは、生活環境基盤材料事業の営業利益が、第2四半期累計で対前年比33%減少したことです。もう一つの主力である電子材料事業も、売上は7%伸ばしたものの、営業利益は9%減少しています。特に塩化ビニル樹脂(VCR)を主とする生活環境基盤材料事業の苦境が、利益全体を大きく下げる主要因となっています。

塩化ビニル樹脂(VCR)市場の「二重苦」

信越化学のVCRの最大市場は北米であり、子会社シンテックはシェールガス由来のVCRを競合より安価に製造できる強みを持っています。従来、北米の活発な住宅需要がVCRの需要を牽引してきました。

しかし、足元では市況感が変化しています。VCRはコモディティ商品であり、製造プレイヤーが全世界に多数存在します。現在、中国では不動産不況によりVCRの需要が著しく減少しており、売れない中国のVCRメーカーは、コストを度外視してでも他市場への輸出を余儀なくされています。この結果、中国企業が北米市場で安売りを行うことで、北米でのVCR価格に「価格破壊」が生じている状況です。

この影響は大きく、生活環境基盤材料事業の営業利益は、第2四半期単体で前年同期比59%にまで落ち込んでいます。

さらに、北米市場のVCR需要は、北米の住宅市況の悪化というもう一つの問題にも直面しています。住宅ローン金利が6%から7%で高止まりしている状況が長く続き、消費マインドが低下しています。また、AIの進化によりGAFAMなどでホワイトカラー職種のリストラが進んでいるとの流れもあり、失業者の増加により新規住宅購入マインドが上がりにくい状況になる可能性も指摘されています。

結果として、北米のVCR市場は「北米住宅の悪化」と「中国企業からの価格破壊」という二重苦に苦しんでいる状況です。会社側は、来年のVCRの年次契約交渉において、これ以上の価格の下落を最小限に食い止める姿勢で臨むとしており、現状の厳しさと、改善時期が見通しづらい状況を示唆しています。

Next: 株価はどう動く?投資家の懸念と自社株買いの進捗

1 2 3
いま読まれてます

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

MONEY VOICEの最新情報をお届けします。

この記事が気に入ったらXでMONEY VOICEをフォロー