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オイルショック再び?もしホルムズ海峡が封鎖されたら日本はどうなるのか。4つのリスクで国民生活は大混乱へ=岩崎博充

4月13日、イランによるイスラエルへの直接攻撃が起きて以来、中東の全面戦争に対するリスクがくすぶっている。今回の中東危機では、原油価格が瞬間的に「1バレル=87.67ドル」をつけた。現在はやや中東戦争へのリスクは後退しつつあるが、原油供給に対する不安はいまだに根強く残っている。とりわけ不安視されているのが「ホルムズ海峡」封鎖への懸念だ。もし、ホルムズ海峡が封鎖された時、世界経済はどうなるのか。そして、日本経済はどんな影響を受けるのか……。(岩崎博充)

プロフィール:岩崎博充(いわさき ひろみつ)
経済ジャーナリスト、雑誌編集者等を経て1980年に独立。以後、フリーのジャーナリストとして主として金融、経済をテーマに執筆。著書に『「年金20万・貯金1000万」でどう生きるか – 60歳からのマネー防衛術』(ワニブックスPLUS新書)、『トランプ政権でこうなる!日本経済』(あさ出版)ほか多数

不安定な中東情勢に原油価格も乱高下

4月13日、イランによるイスラエルへの直接攻撃が起きて以来、中東の全面戦争に対するリスクがくすぶっている。

その後、イスラエルが報復攻撃をしたものの、限定的な攻撃であったことが明らかになり、さらにイランも対イスラエル戦争の拡大を自粛する体制に入っており、やや中東戦争へのリスクは後退しつつある。とはいえ、完全な払拭には至っておらず、原油先物価格はいまも1バレル=80ドル前後で推移している。

WTI原油先物 日足(SBI証券提供)

今回の中東危機では、原油価格が瞬間的に「1バレル=87.67ドル」をつけたが、相変わらず原油供給に対する不安はいまだに根強く残っている。

とりわけ不安視されているのが「ホルムズ海峡」封鎖への懸念だ。世界の原油供給量の約2割はホルムズ海峡を通過すると言われており、仮にイランがホルムズ海峡閉鎖を実施すれば、原油価格は急騰することになる。

そんな中で、日本は約8割の原油を中東に依存しており、その影響は世界最大クラスとも言われている。もし、ホルムズ海峡が封鎖された時、世界経済はどうなるのか。そして、日本経済はどんな影響を受けるのか……。

日本の石油備蓄は237日?

日本の原油の輸入先が、中東に偏っていることはよく知られている。例えば、2021年度のデータでは以下のように大きく中東諸国に依存しており、中東依存度はなんと「92.5%」となっている。

以下、主な輸入先の割合は、次のようになる(経済産業省、支援エネルギー、2021年度、統計年報より)。

●サウジアラビア…… 37.3%
●アラブ首長国連邦…… 36.4%
●ウェート…… 8.4%
●カタール…… 7.8%

日本は、第4次中東戦争をきっかけに勃発した「第1次石油危機」を教訓に、1987年度には原油の中東依存度を「67.9%」まで低下させたものの、その後またズルズルと中途依存度を高めている。

ホルムズ海峡が封鎖されれば、日本への原油供給のほぼすべてがストップしてしまう可能性すらある状況と言っていいだろう。

ちなみに、日本の現在の石油備蓄量は、毎月資源エネルギー庁が発表しているが、その最新値となる2024年4月のデータでは次のような状況だ。

●国家備蓄…… 141日分
●民間備蓄…… 88日分
●産油国共同備蓄…… 9日分

国家備蓄とは、1978年度から始まり、約90日分の石油備蓄を下回らないように法律で設定してあるが、いずれにしても石油備蓄は約8ヶ月弱で消えてしまうことを意味している。

Next: 原油価格はどこまで上がる?日本経済の影響は…



言うまでもなく、原油や石油は、日本経済を支える根幹のエネルギーであり、国民の日常生活を支える必要不可欠な資源である。非化石燃料を使った自然エネルギーの活用は、福島原発などの影響もあって進んでいない。

もともと、日本の化石燃料の海外依存度は非常に高く、2019年のデータでは原油が「99.7%」、LNGが「97.7%」、石炭が「99.5%」となっている。日本の「エネルギー自給率」は極めて低く、OECD (経済協力開発機構)加盟国35カ国中ワースト2位となっている。

実際に、ホルムズ海峡封鎖を想定したリスクマネジメントを日本政府が行っているのか、と言えば大いに疑問と言っていい。過去に、衆参両院で野党などがホルムズ海峡封鎖時への対応策を質問しているが、まともに答えている事例は皆無だ。おそらく、米軍の傘の下にいることで日本政府ができることはない、と考えているのかもしれない。8か月分の石油備蓄で米国が何とかしてくれる、と考えている節がある。

原油価格はどこまで上がるのか?

さて、実際にホルムズ海峡封鎖の可能性が出てきた場合、原油価格は一体どこまで上がるのだろうか……。

これまでの原油価格の最高値は、2008年4月につけた「1バレル=140.00ドル」だが、きっかけはイスラエルによるイランの核施設爆撃の情報が出たものだったが、ホルムズ海峡封鎖が現実つのものになった場合には、この140ドルを瞬間的に超える可能性はあるだろう。

前述したように、世界の原油の2割がホルムズ海峡を通って、世界中に輸出されているわけだが、単純に供給量が2割減って8割になった場合、価格も2割程度は上昇するかもしれない。仮に、過去最高値の1バレル=140ドルまで上昇した場合、ホルムズ海峡が封鎖されれば、2割増しの1バレル=168ドルになっても不思議ではないわけだ。

現実的にそこまで上昇すれば、鎮静化してきたインフレがコロナ禍を上回る勢いで、インフレ再燃の可能性がある。

しかしながら、今回のイランによるイスラエル直接攻撃では、そこまで原油価格が上昇しなかった。その背景には、「WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)」の原油先物市場が、ホルムズ海峡の封鎖リスクに対して目をつむっているからだとする指摘もある。

そもそもイスラエルがガザに侵攻した時にも、原油相場は落ち着いているように見えた。その背景には世界最大の産油国であるアメリカが、増産サイクルに入っており、アメリカのエネルギー情報局調べによると、2023年の原油生産量は大きく増加しており、1日当たり100万バレル増えたと報告している。

さらに、ロシアによるウクライナ侵攻があったおかげで、世界中の国が化石燃料に対する意識を変えた、とも言われている。例えば、世界第4位の産油国であるカナダは、2024年の生産量を「日量530万バレル」に達しており、前年比の増加量は「50万バレル」と言われる。これは、南米エクアドルの生産量に匹敵している(日経新聞「原油、構造変化で落ち着き、欧米増産 環境重視に陰り」、2024年1月22日朝刊)。

対して、主要産油国で作るOPEC(石油輸出国機構)は、その生産量を大きく減らしており、世界の供給量に占めるシェアを低下させていると言われている。

実際に、OPECとロシアに同調する産油国で作る「OPECプラス」は、ここ数年産油量を日量数百万バレル減らしてきている。要するに、中東の産油国の存在意義が徐々に世界的に低下しており、原油価格の支配力を低下させつつあると言っていいだろう(ウォールストリートジャーナル「『原油100ドル』回避に賭けるウォール街」2024年4月17日配信)。

では、現実にホルムズ海峡が封鎖されたら、原油価格はどこまで上昇するのだろうか……。世界の原油供給の2割を経由しているホルムズ海峡に危機が生じれば、現在の1バレル90ドル弱の原油価格は110から120ドルに上昇するだろうという報道もある(日経新聞「ドルと原油、危うい同時高」、2023年10月16日朝刊)。

Next: オイルショック再び?原油高、ドル高、金利高がもたらすパニック



原油高、ドル高、金利高がもたらすパニック

仮に原油価格が1バレル=100ドルを超えていくような状況になれば、言うまでもなく収まりつつある世界的なインフレが再燃することになる。インフレが再燃すれば再び金利が上昇し、ドル高を招くことになる。

原油高が招くインフレについては解説するまでもないが、インフレは前回のように世界中の中央銀行の金利を引き上げることになる。金利が上がれば、「ドル高=自国通貨安」になる。ドル高は日本を始めとする世界中に輸入インフレをもたらす。

ドル高は、発展途上国や新興国の経済に大きな影響を与え、投資資金の海外流失(米国回帰)や保護貿易主義の台頭などをもたらす。とりわけ、日本のようにエネルギーの海外依存度が高い国では、猛烈な輸入インフレをもたらすことになる。

そこで問題になるのは、中央銀行が米国の金利高に対応して金利を上げていくことができるかどうかだ。残念ながら日本の日銀は莫大な国債を保有しているなどの関係で、金利をどんどん上げていくことができない。金利引き上げでは、日銀はすぐに「逆ザヤ」となり、債務超過に陥る可能性が高いからだ。

結局は、ホルンズ海峡封鎖によって、日本では次のようなリスクにさらされることになる。

  1. エネルギー価格の上昇
  2. 輸入物価の高騰
  3. 超ドル高円安の進行
  4. 高インフレによる景気後退

結局、国民ができることとしたら、せめて円ではなく、海外の通貨や株などに投資し、さらに金などのインフレに強い資産を保有して、自分の生活を守るしかない。1973年10月6日に起きた第4次中東戦争による石油危機の時には、トイレットペーパーの買い占めや洗剤が店頭から消えたが、今回はその程度のショックでは済まないかもしれない。

image by: AustralianCamera / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2024年5月9日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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