株式会社ギミック
設立:2003年12月
事業内容:患者に最適な医師の選択を実現させるための情報を網羅的に集積した「ドクターズ・ファイル」を中心とした医療特化型プラットフォーム事業
登壇者名
株式会社ギミック 代表取締役社長 兼 社長執行役員 CEO 横嶋大輔 氏
質疑応答:競合優位性と今後の成長戦略について
質問者:競合と比較した際の貴社の強みと、それを踏まえた今後の成長戦略についてお聞かせください。
横嶋大輔氏(以下、横嶋):私たちと外形的に似ているWebサイトは世の中にいくつかあると思いますが、ビジネスモデルや本質においては、基本的に相当な差異があると認識しています。つまり、弊社としては直接的な競合の存在を自覚していない状況です。
私たちは、例えば「患者さんを送客したらいくらになる」というようなビジネスモデルではなく、クリニックから定額の利用料を毎月いただくビジネスモデルです。このようなビジネスモデルで競合するところは基本的にないと考えています。
理由は、クリニックへの営業が大変難しいからです。先生はプレイヤー兼経営者ですので、営業できる時間帯は午前診療と午後診療の間の約4時間しかありません。この間に接点を持って商談していくのは、非常に難易度が高いです。
そのため、他社では美容整形などのコンテンツに進まれることもあると思いますが、私たちはそこに実直に取り組んできたからこそ、今があると考えています。
弊社の成長モデルは非常にシンプルだと考えています。ネットワーク外部性を追求していくビジネスですので、まずは顧客数を拡大します。
そして、「顧客数×顧客単価」となりますので、DXやHR、地域医療連携でさまざまなサービスを追加し、クロスセルを図っていきたいと考えています。すべてのクロスセルが実現できた場合、年間の顧客単価が約200万円まで上昇します。
医療情報サイト「ドクターズ・ファイル」単体の売上は年間で約40万円ですが、クロスセルとして一番売れている医療情報マガジン『頼れるドクター』も年間で約40万円です。その他の商品を組み合わせると年間で約200万円となるため、クロスセルを継続し、単価を上げていきたいということです。
また、私たちは地域を限定してドミナントで営業していくスタイルです。東名阪福プラスアルファのエリアは、非常にドミナントの効果が出やすいマーケットだと捉えています。
開業医の世界は横並び意識が非常に強く、隣の先生が取り組んでいることを気にして真似するという構造があります。そのため、私たちは地域を限定して集中的にドミナント展開を行い、単価を上げていきたいと考えています。
生産性に関しては、原稿をたくさん作る必要がありますが、昨今AIをかなり導入してきました。これにより、編集担当者が比例して増えない、という構図が作れていますので、そこで収益を拡大していきたいと考えています。
質疑応答:初値の受け止めについて
質問者:初値の受け止めについて教えてください。
横嶋:初値に対しては、私自身が評価する立場にないと思っていますので、「そうか」と受け止めたのが正直なところです。これからも一喜一憂することなく、事業をきちんと成長させていくことに腐心していきたいと思っており、短期的な株価に関しては、意識的にあまり考えないようにしていきたいと考えています。
質疑応答:株価上昇のための取り組みについて
質問者:今後も株価の上昇を目指されると思いますが、そこに向けた施策や取り組みがあれば教えてください。
横嶋:取り組みは2つあります。1つ目は、売上と利益を着実に成長させていくことが王道だと思っています。
2つ目は、IRの継続です。弊社はストックビジネスですので、翌年や半年後などの売上がみえやすい構造です。そのような構造と、安定性のある企業だということを、株主の方にもご理解いただけるようにIRを展開していきたいです。
医療業界の情報については非対称性がけっこう存在すると考えており、投資家の方も知っているようで知らないことが多いのではないかと思います。そのため、IRをしっかりと展開していくことは、中長期的に株価の上昇に寄与すると理解しています。
IRをきちんと展開し、それを継続していくこと、そして事業を着実に成長させていくことの2つに取り組んでいこうと考えています。
質疑応答:顧客となるクリニックの事業環境について
質問者:目下、国立の医療機関は7割が赤字であり、医療機関全体で経営が厳しい状況だと思います。貴社の主な顧客先であるクリニックの事業環境については、そのような赤字以外の社会要因も含め、どのようにみていらっしゃいますか?
横嶋:病院数が減っているため、クリニックが果たす役割は多くなっていると思います。データによれば、クリニックを受診する患者の総数は25パーセント程度増えていますので、マクロでみると患者数は増えていると言えます。もちろんクリニックごとの状況はあると思います。
ただし、直近の診療報酬改定により、収益の上がりにくい構造となったクリニックが一部あったのではないかと考えています。それがここ数年のクリニックにおける事業環境の悪化につながったのではないかと思います。
しかしながら、高市首相から「診療報酬を上げる」という話も出ています。それは事業環境へプラス影響を与えると思いますし、私たちの事業のフォローにつながればいいなと考えています。
質疑応答:低い解約率を維持できる理由について
質問者:17ページに「低い解約率」と記載がありますが、これを実現できている理由について教えてください。
横嶋:例えば、医療情報サイト群というカテゴリーができていて、代替されるような媒体が4社、5社、6社とひしめいているような状況であれば、解約率がもっと上がる可能性はあります。しかしながら、そのような環境にないところが要因としては大きいです。
また、顧客であるクリニックはレピュテーションリスク(悪い評判が経営に与える影響)の大きさを、非常に気にしていると思っています。口コミなどでいろいろと書かれた時に、「そうじゃないんだ」と言っても、評判を回復するのはなかなか厳しいですよね。
私たちは第三者的に、客観的に、患者目線で取材するという立場を貫いてきていますので、その情報が彼らにとってみると価値がある状態なのだと思います。
Googleで「『ドクターズ・ファイル』に取材されました」と検索していただくと、爆発的にヒットします。顧客は私たちに掲載料を払っている関係になりますが、「取材されました」という言い方で、ブログやWebサイトで記事を紹介しています。
それは、「自分たちの客観的な姿がそこにあるからぜひ読んでほしい」と言っていることの表れだと思っています。このような『ドクターズ・ファイル』の使われ方をご認識いただければ、解約率の低さもご理解いただけると思います。
質疑応答:新規サービスの拡充について
質問者:「ドクターズ・ファイル」や『頼れるドクター』のほかに、HR領域や院内業務DX領域でも、いろいろとサービスを提供されていますが、今後新しいサービスの拡充は考えているのでしょうか?
横嶋:「ドクターズ・ファイル」と『頼れるドクター』で9割を超える売上を構成しており、「IPO前にサービスラインアップを広げたい」という理由で、今おっしゃられた領域を拡充したかたちとなっています。
したがって、まだこの領域ではぜんぜんアクセルを踏んでいない状況です。これからまったく新しい領域でなにかを行うというよりは、これまで作ってきたビジネスのアクセルをきちんと踏んでいく段階だと認識しています。
質疑応答:ドミナント戦略の今後の展開について
質問者:ドミナント戦略についてうかがいます。今後3年後、5年後といった目線で、既存エリアを深耕していくのか、あるいは新たなエリアを開拓していくのか、どちらに軸足を置いていくのでしょうか?
横嶋:既存エリアといっても、時間軸で言えば20年近く展開してきたところもあれば、まだ数年しか展開していないところもあり、マーケットシェアにばらつきがあります。
例えば、福岡、九州エリアはまだ数年しか展開していないため、新規市場に近い要素を持っています。そのようなところにはもちろん引き続き展開していきますが、今まで私たちが取り組んできたマーケットの中で、実態として獲得できているマーケットシェアは、最高で約25パーセントです。その地域のクリニックの4分の1に、有料でお取引いただいている状態を作ることができています。
営業チャネルがある地域については、すべて25パーセントまで獲得できると考えています。現在はまだ4パーセントのところもありますが、世田谷区などはすでに16パーセント、17パーセントとなっています。これを一律で25パーセントまで上げていくために、アクセルの踏み方を変えていくことが、既存エリアでの取り組みとなります。
新規エリアと言いますと、例えば福島や青森などになりますが、マーケットとして捉えるのは県全体ではなく、非常に限定された都市部になると考えています。実は鹿児島にも同じように進出しており、弊社の中では「鹿児島モデル」と呼んでいます。出社義務のない現地社員を2人配属し、福岡支社の管轄ですべての行動をコントロールしています。
弊社の営業行為は、KPIで定められています。いくらの売上を作るためにはどれだけの商談が必要で、どれだけのアポイントの供給が必要か、ということまですべて細かく決められています。それに沿ったかたちでファネルを設計し、行動を管理する方法をとっています。
鹿児島の場合で言うと、福岡支社が管轄し、鹿児島の在宅社員に「今日何時にここの営業に行って、〇〇の商談をしてください」と管理しています。これが非常に機能しており、投資としても、事務所が必要なく、携帯電話とパソコンさえあればよいため、現在社内でも評価が上がっています。この鹿児島の営業担当者が全社で表彰されるレベルです。
また、昨今若者を中心に、地元から離れたくない人たちが増えています。そのような意味では、青森や福島などの地域には私たちのような仕事があまりないため、意外と喜ばれるのです。
したがって、新規の地域は「鹿児島モデル」を参考に増やしていきたいと考えています。既存人員を振り分けることなく、現地で2人、3人を採用して本社でコントロールすることが可能になるため、全国をカバーしきれるのではないかと考えています。
低予算で全国をカバーできますので、私たちが現状チャネルを持っている70パーセントが集中しているところと、広いものの30パーセントしかないところ、それぞれで方法を使い分けていければと思っています。
質疑応答:商談獲得に向けて注力しているポイントついて
質問者:商談の管理をかなり徹底されているとのことですが、そもそも商談の獲得については、インバウンドやアウトバウンドなどさまざまある中で、どのようなところに注力されているのでしょうか?
横嶋:商談の管理については徹底しています。商談の獲得についてはインバウンドとアウトバウンドの両方があります。
ドクターはネットワーク上に身を置いており、例えば大学の同窓生、同じ病院出身、医師会、学会、研究会、専門医の会などがあります。そうすると、ある先生に「ドクターズ・ファイル」をご契約いただいた時に、「これをもっと広げたいので、ほかの先生をご紹介いただけないですか?」と言って、ご紹介いただきます。これが私たちの一番大きな商談になっており、インバウンドに近い形態です。
アウトバウンドに関しては、「アポイントを獲得する人間」と「商談に行く人間」を完全に分けるというスタイルを徹底しています。そのため、同じ顧客に2人体制で取り組んでいます。この体制を創業時から徹底しています。
「2人つけると効率が悪くないですか?」とおっしゃる方がいますが、逆だと考えています。営業担当は1人だと、時にサボることがあります。しかし2人で担当すると、待っている営業担当者がいて、そこにアポイントを供給しなければいけない任務の人が存在することになります。待っている人がいると、「やらざるを得ない」環境を作ることができるのです。
アポイントをもらった方も、「あの人が必死にアポイントを取ってくれたのだから、この商談を実らせなければいけない」とスイッチが入ります。私は、リクルートで営業企画部長を務めていた時の経験から、人間は心理でパフォーマンスが変わると思っていますので、それを利用しています。
弊社では「営業を科学する」という言い方をしていますが、そのような意識はすでに社内に一貫して存在しています。
質疑応答:全国展開における戦略について
質問者:大都市やクリニックが集中している中核市では営業所を設けて直販し、それ以外のリソースを割くには市場が大きくない地方の小・中規模の都市には「鹿児島モデル」でアプローチしていく、という理解で大丈夫でしょうか?
横嶋:正確にお伝えすると、直販を置いているのは東名阪福で、東京には秋葉原と渋谷の2ヶ所があります。それ以外の地域でチャネルが整備されているところには、代理店さんが一部いらっしゃいます。代理店さんが私たちの商品を全部売ってくださる、という仕組みで展開しているところもあります。
しかしながら、適切な代理店さんがみつからない地域もありますので、そのようなところについては「鹿児島モデル」を導入していきたいと考えています。
質問者:そうすると、基本的にはそのような地域でも代理店さんを使うことを検討するのですね。
横嶋:今後は、融合で考えています。私たちの事業を行うことは、代理店さんにとっては投資となります。人件費の部分で先行投資がかなり続き、ストックビジネスで単価も小さいため、貯まるとおいしいのですが、貯まるまでがけっこう大変なビジネスモデルです。それに耐えうる代理店さんがいらっしゃればと考えています。
少し違う話になりますが、私たちは最近地方銀行とも商談を始めています。例えば、徳島の阿波銀行さん、山梨中央銀行さんなどです。
地方銀行はクリニックやドクター個人のアカウントを持っていますので、私たちのトスアップパートナーになっていただこうと動いています。チャネルだけではなく、仲間にお客さまを紹介していただく取り組みも進めていきたいと思っています。
質問者:今のお話は、地方銀行のコンサルティング部隊や融資部隊などを介して、地域のクリニックの先生を紹介してもらったり、直接アプローチしたりするということでしょうか?
横嶋:おっしゃるとおりです。結局はどこかのチャネルが対応せざるを得ないのですが、それが「鹿児島モデル」なのか、代理店さんなのか、直販なのか、ということです。