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荒川化学工業、データセンター向け関連材料・先端半導体用製品は売上過去最高水準を維持 配当利回りは4%台を予定

第121回 個人投資家向けIRセミナー

高木信之氏(以下、高木):みなさま、こんにちは。本日は当社の個人投資家向けIRセミナーをご視聴いただき、誠にありがとうございます。代表取締役社長執行役員の高木です。よろしくお願いします。

以前に当社セミナーをご視聴いただいた方、今回もご視聴いただきありがとうございます。また、「荒川化学工業」という社名を初めて耳にされた方もいらっしゃるかと思います。

当社は典型的なBtoBの事業会社であり、一般的には極めて知名度の低い会社です。本日のセミナーで当社のことを知っていただき、ファンになっていただければ幸いです。

こちらの画面に映っているのは、当社キャラクターの「マツタロウ」と「ロジーナ」です。資料の中にもたびたび登場します。とてもかわいいキャラクターですので、ぜひ覚えていただければ幸いです。

自己紹介

高木:はじめに、自己紹介をします。私はバブル最盛期の1988年に大学の工学部を卒業し、荒川化学工業に入社しました。

まずは研究開発に従事し、その後は営業、新規事業開発、資材戦略、経営企画など、さまざまな部門を経験しました。そして、2024年4月に代表取締役社長執行役員兼事業本部長に就任しました。

心がけていることは、決して現状に満足せず、変わること、つまり変化を常として、前を向いて一歩ずつ進んでいくことです。よろしくお願いします。

関本圭吾氏(以下、関本):IR Agents代表の関本です。ここでぜひ、お人柄やご経験についてお聞かせいただければと思います。まずは、2024年に社長に就任された背景についておうかがいしたいと思います。

高木:当社には指名諮問委員会があり、そこでどのような議論が行われたかについては、私自身は承知していません。ただし、これは後ほど触れることになりますが、当社は2022年度と2023年度に、創業以来、初めて2年連続で赤字を記録しました。

それぞれ一過性の事情や外部環境が影響し、どうしても避けられない状況がありました。とはいえ、当時の社長が「ここで会社の雰囲気を変えなければいけない」という考えを持ったことも、当然のことかと思います。

そのような中で、私はさまざまな部門を経験していました。特に、当社が今後進めていく新規事業分野では、私が中心となって関わっていたこともあり、それが理由の一つとなって私に白羽の矢が立ったのではないかと想像しています。

関本:そもそもどのような専門性や知見をお持ちで、どのようなことが得意なのかをうかがいたいと思います。その点に関しては、新規事業領域のようなところでしょうか? 

高木:もともと12年間研究開発に従事していたため、当社の技術については理解しています。また、幅広い技術に関する知識を有しており、資材戦略においてはサプライヤーのみなさまと人脈を構築することもできました。

おっしゃるとおり、新規事業の立ち上げの難しさについては、身をもって実感した経験もあります。当社が成長していくため、新規事業の立ち上げは重要な課題の一つであり、その点が評価されて私が選ばれたのではないかと思っています。

目次

高木:本日は、スライドに記載の5つの項目に沿ってご説明します。

会社概要

高木:会社概要についてご説明します。当社の社名は荒川化学工業株式会社で、本社所在地は大阪です。東証プライムに上場しており、証券コードは「4968」です。

当社は4つの事業セグメントから成るBtoB企業であり、陰ながら社会に貢献しています。従業員数は連結で1,700名弱、2024年度の連結売上高はおよそ800億円となっています。

ロジンと歩んで150年

高木:当社の歴史は、松脂(まつやに)を精製したロジンとともに歩んできました。こちらが、実物のロジンです。ロジンを扱う企業は非常に珍しいかと思います。ロジンは、世界中で古くから利用されてきた天然樹脂です。

身近な例では、野球経験者であれば、ピッチャーが投球前に白い粉をパタパタとつける「ロジンバッグ」をご存じの方も多いかもしれません。あれが、ロジンとして最も身近な例ではないかと思います。

後ほどご説明しますが、現在も松脂は非常に幅広い産業分野で使用されています。これから、松脂採取の様子を映像でご覧いただきたいと思います。

松の木を傷つけると、松脂が水滴のように徐々に出ていることがおわかりになると思います。

このようににじみ出てきた松脂を、先ほど切り込みを入れた溝に沿わせて袋の中に回収していくという、非常に地道な作業です。

松の種類や個体差にもよりますが、成木1本あたりの松脂は年間2キログラムから5キログラム、10年から15年程度採取できます。

その後、松の木は伐採され、木材やパルプ用チップとして有効活用されます。さらにその後は新たに苗を植林し、新しい松を育てます。このように、ロジンは非常に環境に優しい再生可能な循環型の天然資源と言えるかと思います。

荒井沙織氏(以下、荒井):本当にきれいですね。

高木:『ジュラシック・パーク』に出てくる琥珀そのものですが、後ほどご説明するような、こちらをさらにきれいにした、無色透明にしたような樹脂もあります。世界でも、製品として持っているのは私たちだけです。

荒井:塊になっている状態であれば、ネバネバしたりベタベタしたりはしないのですか? 

高木:この状態では、サラサラしています。ただ、ずっと触っていると、体温の熱で表面が少しネバネバとしてきます。

荒井:貴重なものを見せていただき、ありがとうございます。

明治9年 大阪 道修町で創業

高木:大阪にお住まいの方にはご存じの方も多いかもしれませんが、タイトルにある町名は「道修町(どしょうまち)」と呼ばれています。道修町はもともと薬の町で、いたるところに薬を扱うお店がありました。

製薬大手の武田薬品工業株式会社や塩野義製薬株式会社、田辺ファーマ株式会社(旧・田辺三菱製薬株式会社)は、当時この道修町に拠点を置き、「道修町御三家」と呼ばれていました。

荒川商店も、この道修町近くに店を構えていました。創業は明治9年ですが、さらにさかのぼること20年前の安政3年に、初代の荒川政七が「玉屋」という屋号で営業を開始しています。

当社は玉屋から「荒川政七商店」と社名を改めた明治9年を創業の年と位置づけています。看板の文字は、「国」という漢字ではなく、「玉」という漢字を四角で囲み、「カクタマ」と呼んでいます。

当社の経営理念は「個性を伸ばし技術とサービスでみんなの夢を実現する」です。多くの方々に支えられ、信用を得ながら事業を拡大し、現在まで149年の歴史を積み重ねてきました。来年2026年11月には、創業150周年という大きな節目を迎えます。

広がるグローバルネットワーク

高木:荒川化学工業の始まりは大阪の生薬などを扱う小さな商店でしたが、1914年から自社でロジンの製造を開始したことでメーカーとなりました。その後は事業領域の拡大や海外進出、M&Aなどを通じて持続的な成長を実現してきました。

セグメント別売上高

高木:当社には、機能性コーティング事業、製紙・環境事業、粘接着・バイオマス事業、ファイン・エレクトロニクス事業の4つの事業セグメントがあります。

各セグメントの2025年度上期の売上構成比は、円グラフのとおりです。みなさまの身の回りの製品から先端材料まで、幅広く当社の製品が関わっています。

化学産業の中での当社グループの位置づけ

当社は、天然素材であるロジンと石油化学ベースの原料を用いてさまざまな誘導品や配合品を製造し、幅広い産業で利用されています。

かつて「荒川林産化学合資会社」と称していた当社は、ロジンを中心とした製品開発を進めてきた土台の上に、石油化学技術を積み重ねることで、多様な素材を活用するノウハウを有する企業へと成長しました。この点が、他社との差別化要素であると考えています。

つまり、技術の進化に伴い、高度化するお客さまのニーズに応えるため、ロジンに加えて石油化学ベースの原料の良さを取り入れることで、既存分野から先端材料分野に至るまで、幅広い領域でお客さまのニーズに対応できることが当社の強みです。

また、当社は幅広い産業の維持発展に欠かせない存在であり続けたいと考えています。先ほどご紹介した4つの事業セグメントに加え、5つ目のセグメントとして、ライフサイエンス事業の立ち上げにも現在注力しています。

関本:会社概要についていくつかおうかがいしたいのですが、まず「ロジン」というのは非常に重要なものだと感じています。そもそも、こちらは原料や素材としてどのような特徴があるのでしょうか? 

例えば「これはロジンでしかできないのです」「ロジンはこれが得意なのです」という具体例があればイメージがつきやすいと思うのですが、どのように捉えればよいでしょうか?

高木:よくいただくご質問として、ロジンは天然の産物であるため「いずれなくなるリスクはないんですか?」「石油化学ベースでロジンの代替品はできないんですか?」というようなケースがあります。

結論からお伝えすると、天然のロジンを合成品として提供することは不可能だと考えています。ロジンは天然物であり、単一、つまりピュアな組成ではなく、いくつかの類似した骨格の組成物が混ざり合ったものです。

この混ざり合ったものの特徴は非常に微妙なもので、石油化学では表現できないような特性を発現させるため、代替できる原料がほとんどないというのが現状です。

ロジンの特徴として、単独で使われることは少なく、さまざまな素材と配合または反応させることで使用されています。幅広い材料との相性が非常に優れているという点が、この樹脂の際立った特徴となっています。

専門的な用語になりますが、これはアビエチン酸骨格という構造式に起因する特徴です。一言で表すなら、ロジンはさまざまなものと混ざりやすく、反応しやすい性質を持つため、合成品で代替することは非常に難しいというのが現状です。

関本:投資家として、私もすぐに「代替品ができるのではないですか?」といったことを考えてしまいがちですが、そうではなく、ロジンはさまざまなものに混ざりやすく、多用途に使えるポジションが特長なのですね。

高木:おそらく、代替品のようなものを開発する場合、天然由来のものを採取するコストの数十倍が必要になるのではないかと思います。

関本:もう1点うかがいます。現在非常に幅広い事業展開をされている印象がありますが、これをどのように広げてこられたのでしょうか? 

具体的には、「お客さまのリクエストを通じて」というようなケースが多いのでしょうか? それとも、御社独自で「これができるということは、これもできるだろう」といった戦略を立てて広げてこられたのでしょうか? このあたりの状況を教えていただけますか?

高木:もともと、創業からメーカーになった当時は、ここで言えば、製紙用薬品や塗料などが当初の主力製品でした。

当時お付き合いいただいていたお客さまは、現在は各業界のトップメーカーと呼ばれるような企業が多く、その後はインキ会社や接着剤・粘着剤メーカーとも長くお付き合いが続き、事業を拡大してきました。

さらに近年では、各分野のメーカーさまが、例えば先端電子材料の分野へ進出するケースが増加しています。

そのような背景から、我々も各業界のトップメーカーとの深い関係性を活かし、「今度新しい分野に進出するが、こういった特徴のものを作れないか」など、非常に優先的にお声がけいただける立場となり、それを機に、共に事業分野を広げることができました。

また、海外進出を積極的に進めるほか、半導体・電子部品の工程部材分野への投資を増やすなど、「あえてここを広げよう」といった新たな事業領域も開拓してきました。これらの分野でも事業の広がりはお客さまとのお付き合いを通じて発展した部分が大きいと考えています。

私たちの生活の身近なところにある当社製品

高木:当社の強みと製品についてご説明します。当社の製品は、身の回りのさまざまなものに使用されています。

スライドには、みなさまがふだんご家庭でよく目にするような製品が多く描かれています。粘着テープやラベル、医療用貼付剤のほか、雑誌・新聞の印刷インキなどにタッキファイヤーと呼ばれる粘着付与剤や、にじみ止めや、顔料の分散バインダーとしてロジンが使用されています。

また、みなさまが非常に驚かれることが多いのですが、チューインガムのガムベースにもロジンが使用されています。

そしてダンボールには、ロジンではなく石油化学ベースとなる当社の原料が使用されており、国内でトップクラスのシェアを誇っています。

伸長著しいデータセンター・半導体関連先端材料等に関わる当社製品

高木:当社はロジンを中心として発展してきましたが、現在ではロジンケミカル以外にも技術基盤を広げることで、注目を集める先端事業分野にも進出を果たしています。これらの分野では、目には見えないものの、縁の下の力持ちとして社会に貢献しています。

例えば、スマートフォンやディスプレイ、データセンター、半導体の先端材料、5G関連材料、それらに関わる電子部材の生産工程で使用される素材として、当社の光硬化型樹脂やファインケミカル製品、ハードディスク用精密研磨剤などが使用されています。

荒川化学グループの独自製品

高木:当社には、先ほどご紹介したように、さまざまな用途に対応する高い技術力を活かした独自製品が多数あります。

国内でトップクラスのシェアを持つ製品や、データセンターや半導体先端材料といった最先端分野に関わり、社会に貢献している製品も数多くあります。

これらの製品の中でも、今後の当社の成長ドライブとして期待される製品について、これから少しお話ししたいと思います。

紙力増強剤 (ポリストロン)

高木:製紙・環境事業の主力製品である紙力増強剤「ポリストロン」です。こちらは、身近にあるダンボールなどのリサイクルに欠かせない製品です。

ダンボールに再利用される古紙は、繰り返し使用することでパルプの繊維が短く切断され、強度が低下していきます。そうなると、再利用が徐々に難しくなります。

その強度を高める薬品として当社の紙力増強剤が使用されており、古紙のリサイクルに大きく貢献している製品です。

また、国内だけでなく、特にASEAN地区での経済成長に伴う古紙のリサイクル促進にも貢献しており、今後もさらなる事業拡大を進めていきます。

水素化石油樹脂 (アルコン) ロジン誘導体(パインクリスタル・ロジンエステル等)

高木:粘接着・バイオマス事業の主力製品である粘着・接着剤用の樹脂は、石油樹脂系の水素化石油樹脂「アルコン」と、ロジン誘導体の2種類をラインナップしており、お客さまの要望に合わせて提供しています。

水素化石油樹脂「アルコン」は、当社が世界で初めて上市し、グローバル展開している主力製品の一つです。みなさまの身近な製品としては、紙おむつやカップラーメンの蓋などの接着材として使用されており、米国FDAに登録され、安全性が保証された材料です。

ロジン誘導体は、粘着・接着剤などの用途に適した物性となるように、ロジンを化学変性したものです。

特に、当社のオンリーワン製品である「パインクリスタル」は、冒頭でご説明した琥珀色のロジンを独自の高圧水素化技術で無色透明にした製品です。無色かつ安定性に優れ、体にも優しい素材であるため、おそらくご家庭でも使用されたことのある、消炎鎮痛剤などの医療用貼付剤にも幅広く使用されています。

また、環境問題の影響で普及した鉛フリーはんだ用フラックスの材料として、業界標準的な位置づけとなっています。

先端分野 光硬化型樹脂(ビームセット・オプスター)

高木:機能性コーティング事業の主力製品である、光硬化型樹脂「ビームセット」「オプスター」についてご紹介します。

これらは紫外線を当てることで瞬時に硬化するため、非常に省エネルギー型の材料といえます。用途としては、スマートフォンやテレビ、カーナビ、タブレットなどのディスプレイ用ハードコーティング剤として使用されています。

ハードコーティング剤は、ディスプレイを傷から保護し、光の反射を抑えて見やすさを向上させるほか、汚れやほこりが付きにくくする役割があります。

また、光学粘着剤や電子部品用工程材料など、幅広い事業領域でも使用されています。

さらに、世界のスマートフォン市場の拡大や電子部品需要の回復・拡大に伴い、生成AI市場に関連する製品も含まれており、今後もさらなる拡大が見込まれています。

先端分野 ファインケミカル製品

高木:ファインエレクトロニクス事業のファインケミカル製品についてご説明します。

当社では、高度な品質管理を可能とするクリーンな設備や技術のもと、半導体関連用途や一部医薬品用途などの製品の受託製造を主に手掛けています。

みなさまが当社の製品に直接触れることは少ないため、イメージしにくいかもしれませんが、当社製品が関わる事業領域はデータセンターや半導体、集積回路、生成AI、電子部材など幅広く、今後大きく成長していく市場となっています。

先端分野 精密研磨剤 (Neopolish)

高木:ファインエレクトロニクス事業の精密研磨剤は、ハードディスクのアルミ磁気ディスク用の研磨剤です。薄型化する基板への対応や、その他の各種基板用研磨剤の開発も行っています。

当社製品が対応する事業領域は、HDD、SAWフィルター用ウエハ、パワー半導体、ブルーガラス等です。これらはデータセンター投資と深く関わっており、世界のデータセンター市場は今後5年間で1.5倍に拡大すると見込まれています。

当社グループでは、この需要を見越して設備投資をすでに実施しており、2025年度には過去最高の売上高を見込んでいます。

生成AI市場と当社製品の関わり

高木:次に、生成AI市場に関わる当社製品の今後についてご説明します。

生成AI市場の拡大に伴うデータセンター投資の活発化は、多種多様な半導体部品や関連電子部材の需要を高め、最終的にデータセンターおよび半導体の製造工程で使用される当社製品の需要にも波及します。

スライドに記載のとおり、当社はこれらの成長市場に向けた生産能力の増強投資を、現在進行中の第5次中期経営計画中にすでに実行しています。これにより、今後、当社製品の需要は市場の拡大とともにさらなる拡大が見込まれます。

関本:御社の強みや製品の紹介についていくつか教えていただけますか?

やはり、最近では生成AIや半導体は非常に注目されている分野であり、御社もこれからさらに成長していくと考えています。基本的には生産キャパシティを確保した上で、お客さまからの需要も非常に強く受けているのでしょうか? 

高木:基本的に、こちらのスライドでご紹介している3つの設備投資は、この2年ですべて完了したものです。

これらはあくまで、当社のお客さまから「将来こうなる」というフォーキャストをいただいた上で社内で投資判断を行い、将来的に投資回収が可能であると判断し、決定した投資案件となっています。

正直にお伝えすると、2022年および2023年は冒頭にも述べたように赤字決算となり、「そんな中で設備投資するのですか?」といったご指摘を機関投資家の方々からいただいたこともありました。

しかし、このタイミングで投資を実行しなければ将来的な成長市場についていけないという理由から、決断した経緯があります。

関本:この点についても、今後の成長の指標として注目していきたいと思います。

もう1点うかがいます。御社が世界で初めて工業化した「アルコン」について、使用用途をご紹介いただきました。今後の展望として、市場は拡大していくのでしょうか? 

高木:「アルコン」の使用用途としては、ご紹介したように紙オムツ向けのホットメルト接着剤が最も大きなボリュームのゾーンとなっています。紙オムツ市場は、東南アジアなど人口が増加する地域を含めて、確実に拡大していく市場です。

ただし、紙オムツ用途は非常に価格競争が激しい市場であり、中国の競合メーカー等に任せるようなかたちになっています。

一方、当社はプラスチック改質剤や医療用貼付剤など、比較的付加価値の高い分野に注力しています。

医療用貼付剤の分野では、無色ロジンの「パインクリスタル」だけでなく、「アルコン」も無色かつ安全という特徴を活かし、使用されています。このように、付加価値の高い分野で成長を目指しています。

医療用貼付剤については、現在、日本では普及していますが、今後は東南アジアなどの海外市場でも市場の成長が見込まれると考えています。

当社としては、品質の安定性やグレードの取り揃えなどの点で中国の後発メーカーとの差別化が図れているため、今後もこのような付加価値の高い分野で「アルコン」の成長を目指していきます。

2025年度上期の実績

高木:決算概況と通期予想についてご説明します。

2025年度上期の業績については、光硬化型樹脂、ファインケミカル製品、ハードディスク用精密研磨剤等、先ほどご紹介した今後期待できる3本柱の販売が好調であったことを背景に、連結売上高は403億6,700万円で、前年比2.6パーセントの増収となりました。

営業利益は9億2,900万円で前年比196.0パーセントの増益、経常利益は6億3,900万円で前年比103.8パーセントの増益、当期純利益は7億2,400万円と、概ね期初の予想どおりの結果です。

また、EBITDAについては過去最高水準を達成しました。成長分野における生産能力増強のための投資もほぼ一巡し、投資回収のフェーズに入りつつあると考えています。

連結業績と通期予想

高木:2025年度通期の予想については、連結売上高を850億円、営業利益を28億円で、前年比で増収増益を見込んでいます。なお、5月に公表した前回予想から、全体として数値の変更はありません。

各セグメントの通期予想

高木:各事業セグメントの業績推移と通期予想は、スライドに示したとおりです。

製紙・環境事業では海外での価格競争が激化していますが、粘接着・バイオマス事業の収益は回復傾向にあります。また、機能性コーティング事業やファインエレクトロニクス事業は順調に成長していると言えるかと思います。

業績推移

高木:こちらのスライドは、2016年度以降の売上高と営業利益の推移を示したグラフです。

2022年度および2023年度はウクライナ情勢の影響で荒川ヨーロッパ社の水素化石油樹脂の製造を終了したことや、半導体市況の変動により、創業以来初めての赤字が2年続きました。

しかし、2024年度には製紙・環境事業がアジアを中心に紙力増強剤の販売を伸ばしたことや、電子部品の需要が回復したことにより、全セグメントで増収増益を達成し、黒字回復を果たしました。2025年度は、さらなる増収増益を見込んでいます。

重点課題の進捗① 新規事業関連(水系)

高木:新規事業の創出についてご説明します。環境問題に起因する脱プラスチックの動きから、プラスチック容器が紙容器に代替される流れが広がっています。

みなさまの身近なところでも、食品容器が紙に置き換わっているのを目にすることがあるかと思います。ただし、代替するには紙にさまざまな機能を持たせる必要があります。

従来は有機フッ素化合物であるPFASを含むもので機能を発現していましたが、規制が進む中、当社はPFASフリーの薬品を開発し、現在、お客さまによる評価が進んでいます。

重点課題の進捗② 新規事業関連(微細藻類)

高木:微細藻類事業についてご説明します。

当社は、バイオマス素材を活用したライフサイエンス事業の立ち上げに注力しています。その一環として、SoPros社というベンチャー企業に出資しています。

沖縄やんばる産の微細藻「オーランチオキトリウム」は、DPAやDHAを多く含むことから、高機能食品として注目されています。

現在は、その乾燥粉末「AURA’n(オーラン)」を配合することで、温活フードとしてフリーズドライ味噌汁の「MISO CUBE」や機能性表示食品のサプリメントなどを販売しています。

今年7月には、大阪工場に微細藻を培養するパイロットプラントを完成させ、将来に向けて取り組んでいるところです。

重点課題の進捗③ 新規事業関連(マツ)

高木:新規事業に関して、最後は筑波大学発のベンチャーと共同研究した取り組みです。マウスでの実験において、松葉から抽出した成分がうつ病の症状を改善するという知見が得られ、そのメカニズムを論文として公表しました。

世界的に見ても、うつ病や不安障害に苦しむ方が多い中、天然由来の化合物を用いた治療法が期待されており、この論文は新聞などでも取り上げられています。

株主構成情報

高木:株主さまとの関わりについてです。こちらのスライドに示したのは、株主構成です。当社では個人株主さまの割合が約5割を占めており、個人投資家のみなさまに支えられています。

本日のような説明会を今後も積極的に開催し、当社への理解を深めていただくとともに、投資家さまとのコミュニケーションを大切にしていきたいと考えています。

資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応

高木:資本コストや株価を意識した、経営の実現に向けた対応についてです。当社のPBRが極めて低い水準であることは、非常に強く認識しています。

これらを改善するため、成長市場に向けて設備増強を行った事業ではしっかりと利益を回収し、さらにバイオマス素材を利用した新規事業の立ち上げに注力することで、安定した事業基盤を築き、ROEやPERを高め、PBRの向上につなげていきたいと考えています。

来年度から始まる第6次中期経営計画では、各事業で投下資本をいかに効率よく回収していくかについても、ROICを重要な指標として評価に用いようと準備しています。

配当金の推移

高木:続いて、配当金の推移についてです。当社は、安定的かつ継続的な配当を維持しつつ、積極的な株主還元策に取り組むことを基本方針としています。

配当性向の目標は、40パーセントです。2022年と2023年は当社初の赤字が2年続きましたが、一過性の損失による部分もあったため、配当金を下げることなく維持しました。

今期の配当については、中間配当25円、期末配当も25円、年間配当は50円を予想しています。

株価推移

高木:株価の推移は、スライドに記載のとおりです。以上で、私からのご説明を終了します。みなさま、ご清聴ありがとうございました。

質疑応答:プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントと事業の進退判断について

荒井:「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントにおいて、『やめる/わたす/すてる』と思い切った書かれ方をしている事業があります。こちらは、今後どのように進めていかれるのでしょうか? 『何年以内に』というイメージも、可能な範囲で教えてください」というご質問です。

高木:当社はプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントにおいて、「そだてる」「のばす」「かせぐ」といったかたちで事業を拡大し、最終的に収益を見込めなくなった事業については「やめる/わたす/すてる」というサイクルを基本として進めています。

「やめる/わたす/すてる」は非常にドラスティックな表現ですが、収益が見込めなくなった事業については、利益を維持するための手を打ちながらも、マーケットの縮小や競合優位性の喪失により勝てなくなった場合、撤退が必要となると考えています。

例えば、過去には欧州での水素化石油樹脂事業においては、ウクライナ情勢の影響を受け、収益が得られないという判断に至り、工場を閉鎖しました。

「かせぐ」に含まれるさまざまな事業についても、「いつまでに目標を達成できない場合は事業を終了する」「他社に譲渡する」などの方針や事業の継続可否を判断する各事業評価会議を、定期的に開催しています。

現時点では、「やめる/わたす/すてる」に該当する予定の事業はありません。しかし、来年から始まる新しい中期経営計画の中で要注意マークがついている事業については、ロードマップを明確にし、マイルストーンを設定して判断を行い、「やめる/わたす/すてる」に移行するものがいくつか出てくるのではないかと考えています。

質疑応答:為替感応度について

荒井:「円安の影響は業績にポジティブなのでしょうか?」というご質問です。

高木:結論からお伝えすると、当社にとって為替はニュートラルです。

直接的には海外比率が高まっているため、換算の観点では円安はポジティブですが、当社はロジンをはじめとする輸入原料も多く、それらの多くはドル建て取引となっています。

そのため、輸入原料についてはネガティブに働きます。結果として、為替の影響はほぼプラスマイナスゼロとお考えいただければと思います。

質疑応答:過去2年度の赤字要因と将来の見通しについて

関本:実績と将来の部分に関して、多くのご質問をいただいています。その中で、過去2年度に発生した赤字に関するご質問がありました。

初めて大きめの赤字が出たとのことですが、その要因は何だったのでしょうか? そして、今後再び同様の状況が起きる可能性があるのでしょうか? こちらについて、ご解説いただけますか? 

高木:2022年度と2023年度は、2年連続で赤字となりました。まずは、こちらのスライドをご覧いただければと思います。

2022年度の赤字については、先ほど少し触れたとおり、ヨーロッパでの水素化石油樹脂事業「アルコン」においてウクライナ情勢の影響により、天然ガスが高騰しました。それに伴い、当社の原料やユーティリティも大幅に高騰し、会社全体で大きな赤字となりました。

ウクライナ情勢は先行きが見えず、早急に事業を停止する判断を行い、損失を計上した上で工場をシャットダウンしたことが、2022年度の主な要因です。

2023年度については、水素化石油樹脂「アルコン」事業をヨーロッパで停止したものの、千葉の新しい拠点の工事を進めていました。しかし、千葉アルコン製造の立ち上げがうまくいかず、20億円を超える償却費だけが発生しました。

加えて、2023年度の電子部品の市況が非常に厳しかったこともあり、これら2つが重なったかたちとなりました。結果として、内部要因と外部要因が複合的に作用し、2022年度と2023年度は創業以来、初めての赤字に至りました。

関本:原料価格における地政学的な影響や工場整理に加えて、千葉での立ち上げにおける初期特有の一過性の要因が影響している、という理解でよろしいでしょうか? 

高木:千葉アルコン製造については依然として苦戦しているのですが、稼働は着実に改善してきています。そのため、2024年度および2025年度の回復トレンドに入っているとご理解いただければと思います。

質疑応答:ライフサイエンス分野への新規事業参入とそのポテンシャルについて

関本:将来に向けた新規事業の展開についてうかがいます。ライフサイエンス分野における微細藻類やマツ資源機能などに参入を検討されている理由や、ライフサイエンスがかなり利益率の高いポテンシャルを持つ分野であるとの認識について、御社ではどのように捉えているのか教えてください。

高木:当社のような会社が味噌汁などを扱う事業に取り組むことについて、不思議に思う方も多いかと思います。ただ、味噌汁そのもので利益を追求しようとしているわけではありません。

もともと、ライフサイエンス事業に取り組み始めたのは、電子材料分野の比率が年々高くなる中で、この分野は景気の変動を受けやすいという特性があるためです。

一方、景気の変動を受けにくい分野としてライフサイエンス事業を開始したい、当社らしく天然素材を軸に展開したいと考えた結果、ベンチャー企業などへの出資を開始しました。

しかし、決してBtoCを最終目標とは考えておらず、特に機能性を持つ微細藻などを基盤に、BtoBを中心とした事業展開を目指しています。

つまり、ライフサイエンス事業は業績の変動を抑え、基盤を整えるために取り組んでいるものであり、その中でも当社らしい「天然素材」というテーマに基づく事業を推進したい意図があります。

高木氏からのご挨拶

高木:みなさま、ご視聴ありがとうございました。当社は知名度の低い会社ですが、本日ご説明したとおり、さまざまな分野で産業に貢献している企業です。

今後も成長分野にしっかりと対応し、業績基盤を安定させていきたいと考えていますので、ぜひ当社のファンになっていただけますと幸いです。「マツタロウ」ともども、よろしくお願いします。

荒井:LINEスタンプは、私も使っています。

高木:ありがとうございます。

荒井:第2弾も出ていますので、みなさまぜひチェックしてください。

当日に寄せられたその他の質問と回答

当日に寄せられた質問について、時間の関係で取り上げることができなかったものを、後日企業に回答いただきましたのでご紹介します。

<質問1>

質問:ファインエレクトロニクス事業の利益率はもっと改善できますか? 中期的な目標値はどのような水準でしょうか?

回答:ファインエレクトロニクス事業は、売上の伸長に応じて、利益の額、利益率の向上が図れるセグメントです。一方では先の楽しみである開発コスト先行型の新規製品群も抱えていますので構成比にもよりますが、将来向けて利益率は改善していくと期待しています。

今年度の利益が前年比で減益となった要因は、原料のコストアップが大きく、上期では価格転嫁が追いついていないことが挙げられます。また、水島工場の新プラントで試作を始めたことによる減価償却の影響等があります。価格転嫁の遅れについては下期以降も引き続き対応していく予定であり、今後収益性改善を目指していきます。

中期的な目標については資料20ページ「生成AI市場と当社製品の関わり」でお示ししたように2030年に向けた需要に対応し、拡販していく見込みです。来年度発表の第6次中期経営計画でもご説明する予定です。

<質問2>

質問:実質的に累進配当になっていますが、株価対策のため累進配当宣言をされた方が良いのではないでしょうか?

回答:当社の配当方針は安定的かつ継続的な配当を維持しつつ、積極的な株主還元策に取り組むことを基本方針としています。赤字でも減配しなかったことは当社の基本方針をしっかりと実践したことにもなっています。今後も株主のみなさまへ積極的な還元をしていきたいと考えています。累進配当宣言については、今後の参考にさせていただきます。

<質問3>

質問:中計目標である営業利益率3.9パーセント、ROE3.6パーセントについて、達成に向けて最も重要なドライバーとなる事業セグメントはどこになるとお考えでしょうか?

回答:中計目標の達成においては、資料20ページ「生成AI市場と当社製品の関わり」でお示しした、先端分野でのさらなる伸長が重要であるとともに、製紙環境事業や、粘接着・バイオマス事業等、当社にとっての既存分野の収益性改善も重要なドライバーと考えています。

事業ポートフォリオ改革について事前にいただいたご質問にも関わりますが、当社は、「ARAKAWA WAY 5つの KIZUNA」と名付けたグループの価値観・行動指針に基づいたKIZUNA経営のもと、事業ポートフォリオ改革の加速による収益性の向上を推し進めています。

各事業の製品を「のばす」「かせぐ」などの4象限にカテゴライズし、経営資源の投入判断や事業の撤退判断などを徹底的に議論し、適切な判断を実施しています。引き続き既存事業の新陳代謝の加速と収益力の回復、成長分野への投資やライフサイエンス事業のステージアップに注力し、事業ポートフォリオ改革の加速による収益性の向上を推し進めていきます。

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