■事業概要
2. 経営戦略の評価
(1) 女性医療に特化した差別化集中戦略
富士製薬工業の経営戦略は、医薬品業界において明確な差別化軸を有するものであり、「女性医療に特化したスペシャリティファーマ」としての地位を確立している点に特徴がある。同社は創業当初から、他社が市場規模や製造難易度の高さを理由に敬遠してきた婦人科領域に一貫して取り組んできた。その姿勢は、単なる製品供給にとどまらず、医療現場のニーズを的確に捉え、ホルモン剤や不妊治療薬といった高専門性領域で確かな信頼を築いてきた結果である。この“難易度の高い領域へのコミットメント”こそが、同社が中長期的に持続的成長を遂げるうえでの最も重要な経営資産と言える。
(2) 独自の歴史的経路と模倣困難な競争優位性
特に、日本市場においては、女性医療の潜在的成長余地が極めて大きい。欧米諸国と比較すると、月経随伴症状や更年期障害、不妊治療といった疾患の認知度は依然として低く、ホルモン治療の受診率も著しく限定的である。この「未充足市場(Unmet Needs)」に対して、同社は創成期から継続的に教育・啓発・処方支援を展開しており、医療従事者及び患者双方の意識変化を促してきた。こうした地道な活動が、今後の市場拡大フェーズにおいて同社の優位性をさらに高めると考えられる。過去半世紀にわたる専門領域への集中と、現場浸透力に裏打ちされた独自の歴史的経路をたどって形成されている。まさに、他社が容易に模倣することが困難な競争優位性を有している。
(3) 女性医療事業は女性活躍推進社会を促進
また、同社の女性医療事業は、単に女性の身体的健康の改善を目指すにとどまらず、社会的な文脈においても大きな意義を有している。2016年に女性活躍推進法が施行されて以降、企業や行政を挙げて女性の社会進出を支援する動きが加速しているが、女性の健康問題はその前提条件であり、同社の事業はまさにその基盤を支えるものである。月経困難症、更年期障害、不妊といった課題の改善は、働く女性の生活の質(QOL)と就労継続性を直接的に高めるものであり、同社の製品は社会的インフラとしての機能を果たしているとも言える。この点で、同社の経営戦略は医薬品産業における経済合理性と、ジェンダー平等を支える社会的使命の双方を兼ね備えた稀有なモデルである。
さらに、女性医療という専門領域に集中しながらも、同社はバイオシミラーやグローバルCMOといった周辺事業を展開することで、事業ポートフォリオの多様化を図っている。これにより、研究開発の知見や製造技術の相互活用が進み、経営リスクを分散しながら持続的な成長基盤を構築している点も高く評価できる。総じて、同社の経営戦略は、ニッチ市場における専門性を深化させ、社会的価値と企業価値の両立を実現する経営モデルとして、今後のスペシャリティファーマの理想形を提示していると言える。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中西 哲)