個人投資家セミナー
中西勝也氏:三菱商事株式会社代表取締役社長の中西です。本日は三菱商事の個人投資家セミナーに多数ご参加いただき、誠にありがとうございます。
昨年に引き続き、今回のセミナーにご参加いただいている方もいらっしゃるとうかがっています。初めてご参加いただく方も含め、当社にご興味をお持ちいただいていることに、あらためて御礼申し上げます。
短い時間ではありますが、当社に対する理解を深めていただけるよう、精いっぱいご説明したいと思います。どうぞよろしくお願いします。
三菱商事の企業理念
三菱商事の概要をご説明します。私は2022年に社長に就任し、現在4年目を迎えています。
「どのような事業を行っているのかがイメージしづらい」という声をうかがっていると聞いています。時代や事業環境の変化に伴い、当社のビジネスモデルも多岐にわたり、変化しています。
その中で、みなさまがご存じの事業もあれば、あまり知られていない事業もあるかと思います。そこで、今回新たに短編の動画をご用意しました。まずは、こちらをご覧いただきたいと思います。
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この動画を通じて、当社の事業をより具体的にイメージしていただけたら幸いです。
イントロダクションとして、大阪で始まった当社事業であるローソンについて少しご紹介します。ご存じの方も多いと思いますが、ローソンは豊中市が発祥地で、今年で創業50周年を迎えました。その規模は現在、大阪で約1,200店舗、海外を含めると約2万2,000店舗まで拡大しています。
昨年には、KDDIを新たなパートナーに迎えました。当社の強みとKDDIの強みを活かし、特にAIをはじめとするデジタル技術を取り入れることで、お客さまのニーズや店舗運営上の課題に応え、ローソンのさらなる成長に取り組んでいます。
ここからは当社の概要について、歴史も踏まえながらご説明します。大変な盛り上がりを見せている大阪万博も、残り1ヶ月となりました。
前回の大阪万博は1970年に開催されました。これは、NHKの大河ドラマでも何度か登場している当社初代社長の岩崎彌太郎が、三菱の前身である九十九商会を設立した1870年からちょうど100年後にあたります。
このような経緯から、1970年の大阪万博では三菱の100周年記念行事として「三菱未来館」を出展しました。
岩崎彌太郎の精神を受け継ぎ、4代目社長の岩崎小彌太が示した企業理念が、スライドに示している三綱領です。三綱領をどのように事業に結びつけてきたかは時代環境により異なりますが、三綱領の精神は当社役職員の心に根づいた行動指針となっています。
三菱商事の事業モデルの変遷
当社の事業モデルの変遷についてご説明します。当社は創業以来、時代のニーズや環境の変化に応じて柔軟に業態を変化させ、価値創造に取り組んでいます。
1980年代までは輸出入を中心とするトレーディング事業で仲介役を担い、取引手数料を主な収益源としていました。その後、1990年代にかけて、ビジネスの商流における上流から下流までの領域に出資を行い、随伴取引を拡大させ、仲介役としての付加価値を高めてきました。
バブル崩壊やアジア通貨危機といった不況を経て、2000年代には事業モデルの変革に取り組み、事業投資を加速してきました。そして近年では、より主体的に各事業のオペレーションに関与する事業経営モデルにシフトしてきています。
社長としてさまざまな事業パートナーと関係を構築する中で、当社は卸売業でもトレーディング会社でもなく、最近話題になっているPEファンドでもない、総合力を有するユニークなプレーヤーとして認識され、期待されていることを実感しています。今後も環境の変化に応じて進化を続けていきたいと考えています。
三菱商事の現在地
当社の現在地についてご説明します。先ほどお伝えしたとおり、当社は創業以来、柔軟に事業モデルを進化させてきました。現在、当社は8つの営業グループが、成長が見込める事業を見極め、各産業に深く入り込み、事業経営を推進しています。
スライド右側の円グラフに示しているのは、2025年度の連結純利益の見通しです。地球環境エネルギー分野では、60年以上の歴史を持つLNG(液化天然ガス)事業において、ガス田開発からLNGの生産・販売までを手がけています。今年6月末には、カナダで新たなLNGプラントが操業を開始しました。
金属資源分野では、オーストラリアや南アメリカで鉱山の権益を保有し、低・脱炭素化の進展の中で需要が高まる銅や質の高い原料炭の生産販売事業を展開しています。
モビリティ分野では、日系自動車メーカーとの強固な関係を基盤に、自動車の開発から販売、アフターサービス、輸出まで展開しており、事業をASEANから他の地域へと現在拡大しているところです。
当社のポートフォリオは、スライドに示したとおり、幅広い事業群で構成されています。多様な産業との接地面やグローバルな事業展開により、事業環境の変化に対する下方耐性を備えるだけでなく、ある産業の変化が他の産業に波及する兆しをいち早く察知し、迅速に対応することが可能と考えています。
データで見る三菱商事の強み
当社の強みをデータに基づいてご説明します。当社の従業員数は連結ベースで約6万人、拠点は約80ヶ国に広がっています。財務の健全性においては、長年にわたりA格を維持しており、強固で安定した財務基盤を有しています。
また、非財務(ESG)の面でも、気候変動やガバナンスの観点で外部から高い評価をいただいています。
スライド下段に示しているのは、アジアや世界でトップクラスを誇る当社事業の事例です。これらの事業分野では、現在も事業のさらなる拡大・強化に取り組んでいます。各営業グループの強みや成長戦略については資料末尾に掲載していますので、お時間のある際にぜひご覧ください。
三菱商事の目指す姿と「総合力」
今年4月に公表した「経営戦略2027」についてご説明します。わかりやすくご理解いただけるように動画をご用意しましたので、ぜひご覧ください。
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概要については動画でご覧いただけたかと思います。ここからは、今回の経営戦略に込めた思いや、価値創造メカニズムの具体的な事例についてお話しします。
我々は「目指す姿」を大切にしており、目指す姿について経営戦略においてもさまざまな議論を行いました。具体的には、昨年の秋からどのように経営戦略を作っていくかという議論を開始しました。
当時、アメリカの大統領選挙が佳境を迎える中、日々変化する事業環境に対し、どのような時間軸で戦略を語るべきか大いに悩みました。
世界情勢次第では事業戦略の大幅な見直しを迫られる可能性が十分にあったため、そこは悩んだものの、不確実な環境だからこそ当社の目指す方向性をしっかりと明確に示すべきだとの結論に至りました。
また、不透明な事業環境でもしっかりと機能する戦略を掲げるとともに、必要に応じて大胆かつ柔軟に戦略を見直し、常に持続的な成長を実現できるよう目指す姿を提示した点が、私のこだわりの1つです。
経営管理指標と価値創造メカニズム
経営管理指標については、従来から重視してきた「成長性」と「効率性」を引き続き定量目標として設定しました。
まず、成長性です。これまでは当期純利益を採用していましたが、今回は資産・事業売却などに依拠しない営業活動によるキャッシュフローを採用し、その平均成長率を評価することとしました。
これは、投資・還元の余力を示す上で、一過性ではないキャッシュフローの持続的な成長が重要であり、投資家のみなさまの当社への成長期待並びに企業価値向上につながるものと考えたためです。
効率性の指標については、引き続きROEを採用します。資本効率をこれまで以上に意識する姿勢を示すため、これまでの「ROE2桁水準」という表現を避け、2027年度にROE12パーセントという具体的な目標を設定しています。
さらに、この定量目標を達成するために、当社の価値創造メカニズムを「磨く」「変革する」「創る」と再定義しました。
特に「磨く」に関しては、先行きが不透明な状況の中で、当社が強みを持つ既存事業をベースに効率化や追加投資を行いながら、着実に利益を積み上げていくことが重要だと考えています。
「磨く」事例 サーモン養殖事業
「磨く」について具体的な事例をご紹介します。動画でもご紹介しましたが、サーモン養殖事業に関する内容です。
近年、サーモンはすしのネタとして最も人気が高まっています。当社では、サーモンの需要が世界的に拡大する一方で、養殖生産に適した地域が世界でも限られている点に着目しました。この背景を踏まえ、2014年にはサーモン養殖事業を展開するCermaq社を完全子会社化しました。
当事業を強化する「磨く」の事例として、さらなる生産性向上の取り組みに加え、本年7月には新たにサーモン養殖事業の買収を行っています。
Cermaq社は、同社が事業展開するノルウェーとカナダでのサーモン養殖事業を追加取得し、オペレーションの統合による生産性の向上や生産量の拡大を計画しています。この取り組みにより、生産規模は25万トンに拡大し、これは世界の養殖生産量250万トンの約10パーセントに相当します。
なお、日本のすしや刺身用サーモンの総需要は4万トンであり、世界でいかに多くのサーモンが消費されているかがおわかりいただけるかと思います。
これは一例にすぎませんが、今回の経営戦略の策定にあたり、全事業会社を対象に事業を磨く余地があるかどうかを精査しました。必要な追加投資を適切に行い、利益成長や収益水準の向上につなげていきたいと考えています。
「変革する」事例 三菱食品の持分買い増しによる完全子会社化
「変革する」について、三菱食品を例にご説明します。三菱食品は国内食品卸業の最大手であり、全国に約400ヶ所の物流拠点を展開し、1日当たり約8,000台のトラックを稼働させています。このように効率的かつ安定した食品供給網を構築しています。
例えば、先ほどお話しした「ローソン」や、関西の基盤となっているスーパー「ライフ」など、全国各地の店舗には毎日欠かさず多種多様な食品が並びます。それらを支えているのも三菱食品の物流流通機能です。
「変革する」とは、持分の買い増しやM&A、第三者の招聘による新たな経営資源の活用といった資本的アクションを伴う打ち手より、新たな成長を目指しています。
また、持分の買い増しによりさらなる成長を目指す事業の一例として挙げられるのが、7月に株式の公開買い付けが終了した三菱食品です。三菱食品はもともと当社の子会社でしたが、上場会社として独立的な経営を行っている中では、当社が保有する経営資源のすべてを活用するのは難しいと感じていました。
完全子会社化により、豊富なデータや強固な海外チャネルなど、当社の経営資源を最大限に活用することが可能となります。これにより、総合力を駆使して三菱食品のさらなる企業価値向上を実現していきたいと考えています。
「創る」事例 バイオ燃料事業
「経営戦略2027」においては、新たな収益の柱を「創る」ことにもしっかりと取り組みたいと考えています。「創る」については、各産業で培ってきた強みだけではなく、産業の垣根にとらわれない当社の総合力を十分に活かしていきたいと考えています。
その1つの事例として、7月に公表したバイオ燃料の製造・販売事業への参画があります。世界が低・脱炭素化に取り組む中で、当社は規制の導入を背景に需要の拡大が見込まれる持続可能な航空燃料であるSAFに注目しています。
Par Pacific社はハワイでSAFのバイオ燃料製造・販売事業を推進していますが、バイオ燃料の製造には動物性油脂や植物油が原料として必要となります。
当社は、バイオマス原料の調達においては食品産業グループの知見や業界ネットワークを活用し、バイオ燃料の販売では地球環境エネルギーグループのグローバルネットワークを活かすことで、本プロジェクトの事業価値向上や低・脱炭素社会への貢献を目指していきます。
また、本件に限らず、いくつかの新しい構想がすでに動き始めています。当社の総合力を事業機会の創出に活かし、社長就任当時からお伝えしている産業横断的な取り組みを具体化することで、当社の成長をさらに加速させていきたいと考えています。
以上が私からの説明です。ありがとうございました。
資金配分戦略
小林健司氏:みなさま、こんにちは。常務執行役員、コーポレート担当役員(CSEO)、金融アライアンス担当の小林です。それでは、当社の資金配分戦略や当社株式の魅力などについて、私からご説明します。
スライドに示しているのは、2027年までの3年間の資金配分戦略です。営業活動および売却による投資活動からのキャッシュフローは、3年間で5兆円を見込んでいます。また、財務健全性を維持しつつ、借入の活用も検討していきます。
投資については、4兆円規模を計画しています。前の3年間の投資実績が3兆円弱であったため、次の3年間は規律を守りつつ着実に投資を進め、成長を加速させる計画です。
株主還元については、今年4月に発表した1兆円の自社株買いと1株当たり110円の配当を合わせて、約2兆4,000億円の配分となっています。今後、キャッシュフローの見通しが変わり、追加配分可能な資金が生じた場合には、さらなる投資または還元への配分を検討していきます。
株主還元方針
株主還元方針についてご説明します。株主のみなさまへの還元方針は、「経営戦略2027」においても累進配当と機動的な自己株式取得としています。
当社は、還元の基本を配当と考えており、稼ぐ力の伸長に伴い、配当水準を引き上げてきました。2025年度は110円に増配しましたが、累進配当を維持する中での増配は、当社の持続的な成長へのコミットメントとして受け取っていただければと思います。
また、資本効率向上の観点を踏まえ、1兆円の自己株式取得も実施しています。先ほどお伝えしたとおり、キャッシュフローの見通し次第では、機動的に追加の自己株式取得も検討していきます。
三菱商事株の魅力・特徴
当社株式の魅力についてご説明します。まず1点目は、高い配当利回りを維持している点です。直近の予想配当利回りは3パーセントを上回る水準となっており、プライム市場平均を上回っています。この安定的な配当は、強靱なポートフォリオの構築が進み、当社の稼ぐ力が伸長していることに支えられています。
2点目は、EPS(一株当たり利益)の成長です。EPSは2019年度まで100円台でしたが、2021年度以降は200円台に成長しています。今後も絶対額での利益と一株当たり利益の双方において、さらなる水準の向上を目指していきます。
三菱商事株の魅力・特徴
3点目にご紹介するのは、株主のみなさまと価値を共有する役員報酬制度です。本年4月、新しい経営戦略の公表に伴い、役員報酬制度を改定しました。従来よりも株価連動型の報酬割合を高め、業績連動賞与もROEなど「経営戦略2027」の定量目標に沿ったものとしています。
4点目は、株主数の増加です。2024年に実施した株式分割も一因だと考えられますが、これまでの当社の取り組みを評価していただき、多くの個人投資家のみなさまに当社の株主になっていただいています。
過去10年間で個人株主数は約3倍となり、NISA買い付けランキングでも上位を維持しています。引き続き、価値創造メカニズムを通じてさらなる企業価値向上を実現し、みなさまの期待に応えていきたいと考えています。
ウェブサイト
最後に、当社Webサイトをご紹介します。当社は昨年、Webサイトを全面リニューアルしました。株主・投資家のみなさまにとって従来以上に見やすく、情報を得やすいWebサイトにアップグレードしています。
特に個人投資家のみなさま向けに、当社の強みや事業内容をできる限りわかりやすくまとめたページを新たに設けました。また、動画を交えた特集ページも拡充しています。ぜひお時間のある際にご覧ください。
私からは以上です。