◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「米国主導の秩序の終焉(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
※この論考は3月29日の<The End of the US Order>(※2)の翻訳です。
どこへ向かうのか?
パックス・アメリカーナの時代の後、どうなるかは分からない。まだ分かるはずもない。イランでの戦争は今週終わるかもしれないし、来月かもしれないし、あるいは数カ月先かもしれない。トランプは目標を定めていないため、何をもって勝利とするのかさえ明確ではない。とはいえ、イラン・イスラム共和国は崩壊せず、いずれ戦闘が終結すれば制裁が緩和され、これまですべての船舶に自由な通航が認められていた国際航路であるホルムズ海峡を直接管理することになる可能性が日ごとに高まっているように思われる。
しかし、バラクリシュナン外相が指摘しているように、最悪の事態を想定すべきだ。大国をはじめとする各国は国家間の関係について、より狭量で国家主義的な世界観を抱くようになるだろう。協力ではなく対立が常態化するかもしれない。少なくとも、先進国・発展途上国を問わず米国への信頼は失墜したが、皮肉なことに、この新たな世界秩序においても世界の2大経済大国から逃れることはできない。世界の工場としての中国は今後もその地位を維持し、あらゆる点から見て重商主義の道を突き進むだろう。なぜなら、そこから脱却して経済の均衡を取り戻すには国内の権力と富を再分配する必要があるが、習近平はそうした変化をもたらすいかなる措置も講じようとしないからだ。米国は、世界最大の企業群と、特にAIなどのテクノロジーで主要な牽引役を擁し、今後も世界最大の流動性と革新性を誇る金融市場から恩恵を受けて、世界最大の経済大国であり続けるだろう。米国はまた、戦争を止め、紛争に巻き込まれないことを公約に掲げたトランプ政権下でも、軍事力を行使して指導者を交代させ、他国を威嚇する意思が十分にあることを改めて示した。バラクリシュナンが言うように、あらゆる手段を武器化しようとする(米国のような)国々の姿勢には恐怖を覚える。
コロナ禍からわずか6年で世界経済は再び不安定化しているが、今回はトランプが引き起こした危機によるものだ。世界経済がこれほど繊細で、衝撃をうまく処理できないことには驚かされるし、望ましいことでもない。教訓を1つ挙げるとしたら、各国は将来の衝撃を緩和するために必需品や日用品の備蓄を始める必要があるだろう。貿易依存度の高い国々は、今後の経済的混乱を乗り切るための冗長性、余剰生産能力、そして複数の独立したサプライチェーンを構築する必要がある。そうした世界では、経済的リターンが低下し、(少なくとも理論上は)非効率性が高まるが、レジリエンスは向上する。
トランプの2期目以前から、パックス・アメリカーナの時代は揺らいでいた。中国のWTO加盟と、世界の貿易体制を組織的に悪用する姿勢が、すでに不完全だったモデルを歪めてしまった。世界金融危機は、世界経済の金融基盤が持つ弱点をさらに露呈した。そして、2014年のロシアによるウクライナ侵攻はほとんど問題にされず、その後のコロナ禍の中での全面侵攻を招く結果となった。あらゆる時代が過ぎ去って新たなルールや取り決めが生まれるが、主導的な大国がこれほど積極的に自ら崩壊を招いた例は稀だ。パックス・アメリカーナは完璧ではなかったが、完璧を追求しすぎて成果を見失ってはならない。シンガポールは、第二次世界大戦後の時代が経済成長とより平和な世界の両面でもたらした恩恵を理解していた。主にその秩序を構築して支えていた米国がもはやその秩序を重視しなくなったとしても、過去80年の成果から守り継ぐべきものは多い。
ホルムス海峡とトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/7236