日本の安全保障政策は今、大きな転換点を迎えています。2024年3月末に国会で予算案が成立し、4月8日には防衛予算に関する詳細な資料が公開されました。投資家がまず認識すべきは、防衛予算が過去数年間、極めて高い水準で推移しているという事実です。特に岸田政権において「防衛力整備計画」が策定されて以降、予算規模は以前の約1.5倍にまで膨れ上がっています。背景にあるのは、戦後最も厳しく複雑と言われる安全保障環境です。足元ではGDP比1.5%から2%程度となっている防衛予算ですが、世論や外圧を含め、今後はこれを3%から5%にまで引き上げていく必要があるのではないかという議論が現実味を帯びています。
こうした状況下で、三菱重工業のような代表的な銘柄はすでに高いバリエーションで評価されていますが、中長期的に恩恵を受ける「隠れ防衛銘柄」の中には、まだ割高とは言えない企業が数多く存在しているのです。(『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』元村浩之)
プロフィール:元村 浩之(もとむら ひろゆき)
つばめ投資顧問アナリスト。1982年、長崎県生まれ。県立宗像高校、長崎大学工学部卒業。大手スポーツ小売企業入社後、店舗運営業務に従事する傍ら、ビジネスブレークスルー(BBT)大学・大学院にて企業分析スキルを習得。2022年につばめ投資顧問に入社。長期投資を通じて顧客の幸せに資するべく、経済動向、個別銘柄分析、運営サポート業務を行っている。
円安と物価高が防衛調達に与える深刻な影響
日本の防衛予算は曲がり角に差し掛かっています。
東洋経済が報じたところによれば、足元の円安や物価高によって、防衛に必要な装備品の購入費用や新技術への対応コストが圧迫されているという実態があります。
極端な例を挙げれば、これまでは100個調達できていたものが、円安の影響で90個や80個しか買えなくなっているという「購買力の低下」が起きているのです。
この不足分を補いつつ、ドローンやAIといった新しい分野に資金を投じるためには、現状のGDP比2%程度では足りず、3%から3.5%程度、さらにはアメリカやNATOが主張する5%程度が必要になるのではないかという外圧がかかっています。
特に不透明な国際情勢や、各国のリーダーの一挙手一投足が予測不能な状況を鑑みると、防衛予算は今後さらに跳ね上がっていく可能性を秘めています。
<防衛予算9兆円の内容は?>
今期の予算総額は約9兆円という莫大な規模に達していますが、新規契約ベースで見ると約8.2兆円という数字になります。
この差は前年度からの継続案件などが含まれているためです。
予算の内訳で特に伸びが著しいのは「無人アセット防衛能力」「研究開発」「施設の強靭化」の3つの領域です。
これらは新しい投資テーマとして注目に値します。
また、金額そのものが大きい項目として「スタンドオフ防衛能力」や「装備品等の維持整備、稼動確保」が挙げられます。
特に維持整備に関連する予算は、関連企業への継続的な売上インパクトが非常に大きいため、中長期的な収益の柱となりやすい傾向にあります。
<「維持整備」と「稼働確保」>
防衛関連銘柄を探す際、三菱重工のような「完成品を作るメーカー」だけを見るのは不十分です。
真に注目すべきは、その周辺で必要とされる高度な技術やサービスを提供している企業です。
例えば、無人化や高度化が進むほど、計測、試験、通信、そしてそれらを制御するソフトウェアやシミュレーション、ネットワークといった分野の重要性が飛躍的に高まります。
センサーや通信機器、制御ソフト、特殊な素材といった「周辺サプライヤー」まで分解して見ていくことが、有効な投資戦略となります。
その中でも、開発試験や運用保守を支えるシステム企業、あるいは海外の先端機器を国内に導入する窓口となる「技術商社」は、防衛の高度化局面において非常に強い存在感を示す可能性があります。
注目の隠れ防衛銘柄
<先端測定器の専門商社「東陽テクニカ」>
具体的な「隠れ防衛銘柄」のサンプルとして、まず「東陽テクニカ」が挙げられます。
同社は欧米を中心に先端測定器を扱う専門商社であり、自価総額は約500億円を切る規模ですが、PER14.3倍、配当利回り4.6%(4月9日時点)という、投資家にとって非常に魅力的な水準にあります。
事業内容は多岐にわたりますが、防衛の現場で不可欠なセンサー、計測、通信、情報セキュリティといった「裏方」の技術を支えています。
予算案で重視されている無人化やサイバー、海洋防衛といったテーマと極めて相性が良く、実際、第1四半期の受注残高は海洋防衛を含むセグメントで15.6%増、無人化に関連する「先進モビリティ」セグメントでは20.2%増と、着実に数字を積み上げています。
量子コンピューティング関係を官公庁向けに提供している点も、将来的な防衛への波及を予感させます。
Next: まだある注目の隠れ防衛銘柄。長期投資家が狙うなら?
<三菱重工のIT基盤を支える地味な実力者「菱友システムズ」>
次に注目すべきは「菱友システムズ」です。
この会社は三菱重工業系のシステム開発会社で、自価総額400億円を切る非常に地味な小型銘柄ですが、防衛関連の中では極めて堅実な立ち位置にあります。
同社の最大の特徴は、三菱重工への売上比率が52.8%という点です。
三菱重工が担う航空・防衛・宇宙事業において、IT基盤の企画・設計から構築、運用、そしてプロダクトライフサイクルマネジメント(PLM)という企画から保守までを一括管理するサービスを提供しています。
防衛予算における「維持整備」の重要性が高まる中、三菱重工と一心同体である同社の業績も、安定的に右肩上がりで伸びていくことが期待されます。
PER10.4倍、利回り3%超という指標も、下値の堅さを物語っています。
<安全保障関連ソリューションが売上の9割を占める技術商社「理経」>
3社目は、ITや電子機器の輸出入販売を行う「理経」です。
同社は自価総額100億円を切る超小型の技術商社ですが、まさに「隠れ防衛銘柄」らしい特徴を備えています。
売上の約7割を占める「電子部品及び機器事業」の内訳を見ると、その約9割が「安全保障関連ソリューション」で構成されています。
具体的には、航空機エンジンの国内外での修理や、ヘリコプター用の給油システム、防弾板、フライトシミュレーターといった防衛省向けの商材がずらりと並びます。
防衛予算の拡大を受け、このセグメントの需要が爆発的に伸びており、全社の売上および営業利益を凄まじい勢いで押し上げています。
株価は上昇傾向にありますが、それでもPERは12.7倍程度であり、利益率の向上とともにさらなる評価の余地を残しています。
Next: 「防衛銘柄」特有のリスクも……長期投資家が気をつけるべきことは?
「防衛銘柄」特有のリスクと注意点
防衛関連銘柄への投資には、特有の注意点があります。
最大のリスクは、1つ1つの案件規模が会社の事業規模に対して非常に大きくなるという点です。
これにより、受注や売上の計上タイミングが四半期ベースで「期ずれ」を起こしやすく、短期的には業績のボラティリティが激しくなる傾向があります。
そのため、四半期ごとの業績に一喜一憂するのは非常に危険です。
大切なのは、その会社が取り扱っている製品やサービスの需要が中長期的に高まり続けるのかどうかを冷静に注視することです。
あくまで「国策テーマ」としての防衛予算高止まりという大局的な視点を持ち、一時的な数字の変動に惑わされないマインドセットが、株式投資家には求められます。
防衛という国策テーマと長期投資の再現性
防衛予算の拡大は、単なる一時的なブームではなく、日本の安全保障政策の根幹に関わる長期的なテーマです。
今回ご紹介した「維持整備」や「基地の強靭化」といった切り口から企業を探せば、他にも数多くの有望な銘柄が見つかるはずです。
長期投資において大切なのは、再現性の高い手法を身につけることです。
こうした専門的な情報を読み解く力を養うことが、将来的な資産形成への一番の近道となります。
今回取り上げた隠れ防衛銘柄の分析が、皆様の投資戦略における1つのヒントになれば幸いです。
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取り扱いには十分留意してください。
『 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問 』(2026年4月14日号)より※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。