中期財務目標と2026年11月期の位置づけ
長谷川敬起氏:みなさまこんにちは、株式会社ELEMENTS代表取締役社長の長谷川です。本日はお忙しい中、当社の2026年11月期第1四半期の決算説明にお越しいただき、ありがとうございます。
スライドは、「事業計画および成長可能性に関する事項」で公表している2026年11月期の事業方針です。方針そのものに変化はないため、次ページ以降で進捗状況をご説明します。
ハイライト
2026年11月期第1四半期のハイライトです。まず、財務ハイライトについてお話しします。売上高は、ポラリファイの連結取り込み効果および「LIQUID eKYC」の好調により、前年同期比81パーセント増の12億9,100万円と過去最高を記録しました。
営業利益は、ポラリファイPMIの順調な推移および「LIQUID eKYC」の好調により、前年同期比プラス1億3,200万円の1億1,900万円の黒字で着地しました。EBITDAは前年同期比プラス1億7,800万円の2億6,900万円、親会社株主に帰属する当期純損益は前年同期比プラス1億5,100万円の1億円と、いずれも黒字での着地となりました。
続いて、各種トピックです。1つ目は「LIQUID Auth」についてです。GMOあおぞらネット銀行さまに対し、「パスキー(FIDO2)」を用いたソリューションの提供を開始しました。これは、アカウントが乗っ取られた場合でも、不正者の端末からの不正利用を防ぐことができるLiquid独自の技術です。
2つ目は「AiQ Permission」についてです。消防法が2026年2月に改正済となり、本番のサービス提供に向けて準備を進めています。現在、複数店舗での実証実験が順調に進行しています。プロダクトリリースのために第三者機関の認証を得る必要があるため、今後取得していく予定です。
3つ目はポラリファイのPMI進捗についてです。のれん償却額2,700万円を含んだ当第1四半期の営業損益はマイナス2,600万円となりました。ただし、2026年1月にはのれん償却額を含んだ営業利益の黒字化を達成しており、PMIは順調に進捗しています。なお、ポラリファイの収益は月ズレでの取り込みとなるため、当第2四半期より影響が反映される見込みです。
業績ハイライト(四半期)
第1四半期の業績ハイライトです。先ほどお伝えしたとおり、全社売上はポラリファイの連結化に加えて「LIQUID eKYC」の好調により、前年同期比81パーセント増の12億9,100万円と過去最高を更新しました。
売上総利益率はポラリファイの連結化の影響で75.9パーセントに低下したものの、同要因を控除した場合は86.5パーセントになります。
販売費および一般管理費(販管費)は、前年同期比33パーセント増の8億6,000万円となりました。このうち、ポラリファイの連結化に伴う費用増が1億7,600万円、ポラリファイM&A関連費用が2,700万円発生しています。このため、当該要因を除外した販管費は6億5,700万円となり、前年同期比ではほぼ同水準となっています。また、ポラリファイのPMIは順調で、売上高販管費比率は前年同期比で24.0ポイント低下の66.6パーセントと堅調に推移しています。
これらの結果、営業利益は1億1,900万円、EBITDAは2億6,900万円と黒字へ回復しました。また、ポラリファイののれん償却額2,700万円を含んだ営業利益はマイナス2,600万円となり、PMIは順調に進捗しています。なお、親会社株主に帰属する当期純損益は1億円の黒字となりました。
売上について
第1四半期の四半期売上高は、前年同期比81パーセント増の12億9,100万円となっています。
累計契約社数・認証回数
累計契約社数と認証回数についてです。2026年2月末時点でのグループ全体の累計契約社数は、前四半期比で27社増加し682社まで拡大しています。また、2025年11月時点の認証回数は、Liquid・ポラリファイの合算で1億5,000万回を突破しました。
売上総利益について
売上総利益は、前年同期比55パーセント増の9億8,000万円となっています。売上総利益率はポラリファイ連結取り込みの影響もあり75.9パーセントですが、同案件を除いた場合は86.5パーセントです。さらに、ポラリファイ自体も今年8月以降に売上総利益が大きく向上する予定となっています。
販売費および一般管理費の推移
販管費については、ポラリファイの影響の有無を併せてご説明します。ポラリファイを除いた費用は、人員増に伴う人件費および研究開発費の増加をその他費用の減少が相殺し、前年同期比900万円増の約6億5,700万円となっています。
ポラリファイの費用については、連結化による同社販管費が1億7,600万円、同社M&A関連費用としてのれん償却額が2,700万円発生しています。なお、ポラリファイの販管費は、連結化開始時の2億1,500万円から通信費・人件費を中心に3,900万円減少しており、PMIは順調に進捗しています。
営業利益の推移
営業利益は、前年同期比1億3,200万円増の1億1,900万円となりました。ポラリファイM&A関連費用を除いた営業利益は、前年同期比1億5,900万円増の1億4,600万円となっています。
EBITDAの推移
EBITDAは、前年同期比1億7,800万円増の2億6,900万円となりました。
LIQUID Auth(パスキー)_Liquid独自の多要素認証ソリューション
ここからは、各種トピックについてご説明します。1つ目は、個人認証事業の「LIQUID Auth」とパスキーを含むLiquid独自の多要素認証ソリューションについてです。お客さまのご意向により社名は非公表となりますが、2025年9月時点で業界大手のオンライン証券会社への導入が完了しており、現在も複数社との商談が進行中です。
また、GMOあおぞらネット銀行さまには「パスキー(FIDO2)」を用いたソリューションをすでに提供しています。これは単なるパスキーの提供ではなく、アカウント乗っ取りや不正な端末からの利用を防止する、独自開発の統合型パスキーソリューションとなっています。
スライドの図で具体的にご説明します。上段はパスキーを導入していない一般的なソリューション、下段はGMOあおぞらネット銀行さまにご提供している、パスキーを含む当社独自の不正防止に非常に強い堅牢なソリューションの流れを示しています。
一般的な流れでは、口座開設時に「eKYC」を行います。金融機関に関しては、2027年4月以降ICチップ読み取り方式に集約される予定となっており、マイナンバーカードや運転免許証を用いたICチップ読み取りサービスでなければ利用できないという施行規則の改正がすでに決定しています。
ただし、ICチップ読み取りのみのシンプルな「eKYC」だけでは十分に安全であるとは言えません。仮にICチップ読み取りを行い、口座開設時の「eKYC」が安全に完了したとしても、日常の認証時に乗っ取りが発生することがあります。
昨年4月から5月にかけて、日本の証券業において多くの企業が大規模な口座乗っ取り被害を受け、国内全体の被害総額は6,000億円に上りました。この事例を踏まえ、現在では証券業および銀行業において、日常の認証時に生体認証を含む多要素認証を使用することが義務づけられています。
その流れの中で当社もパスキーの提供を行っています。パスキーの利点についてはスライド下に記載のとおりで、あらかじめ特定の端末が登録され、その端末を用いた生体認証によってなりすましを困難にし、認証を実現する仕組みとなっています。
これは、最初のセットアップが適切に行われさえすれば非常に堅牢な仕組みです。グローバルガイドラインを主導しているアメリカのNIST(National Institute of Standards and Technology)という機関の設計でも、パスキーは最もレベルの高い堅牢かつ安全な認証手段として位置づけられています。
ただし、パスキーには主に2つの段階で期弱性が残されています。1つ目は最初のパスキー用端末登録時、2つ目は端末変更時です。
最初のセットアップ時に不正行為が起きた事例としては、SNSで「お金を貸し付けます」などの甘言で誘引され、「お金を貸し付ける代わりにしっかり本人確認させてください」などと本人確認を求められるケースがあります。
これは、口座開設時の本人確認が不正利用されるケースです。不正犯が特定の金融機関の口座開設フローで必要な本人確認手続きを悪用し、被害者を誘引して本人確認をさせる事例です。この場合、被害者は善意の第三者に騙されて自分の氏名、住所、生年月日、マイナンバーカードなどを用いて本人確認を行うため、本人確認そのものは問題なく通過してしまいます。
本人確認を基にした口座開設が完了すると、パスキーが義務づけられている金融機関ではパスキー端末のセットアップを行う必要がありますが、パスキー端末の紐づけを行う際にはSNS認証が利用されています。
このSNS認証の過程で、不正行為が発生する場合があります。SNS認証用の電話番号登録は本人確認と同時に行われますが、その際、不正犯は被害者本人の電話番号ではなく、不正犯の電話番号を入力するよう被害者に指示することで、不正犯の電話番号と被害者の氏名・住所・生年月日が紐づいてしまいます。
その結果、被害者名義の口座に紐づくSNS情報は不正犯側の端末に送られます。これにより、不正犯は自分の端末に届いたSNSの情報を用いて、手間をかけることなく本人になりすまして承認を行い、被害者名義の口座を自分の端末でコントロールできるようになります。
単純にパスキーを導入するだけではこの状況を防ぐことはできません。この問題を解決するためには、初期セットアップでのパスキー端末の紐づけ時の「口座開設時に本人確認を行った人と同じ人間ですか?」といった確認や、端末変更時の「端末変更前と同じ人間ですか?」といった確認で脆弱なSNS認証に頼るのではなく、変更不可能な生体情報で認証を行い、非常に堅牢なセキュリティを実現する必要があります。
そこで当社は、端末登録時や端末変更時の認証プロセスで、本人確認時に登録された顔情報を使用する方式を提供しています。この認証が通らない限りパスキーの端末設定を行えない仕組みを提供することで、不正犯による乗っ取りを確実に防ぐセキュリティ対策を実現しています。
この仕組みにより、初期セットアップ時はもちろん、サービス利用開始後の機種変更においても、常に安全にパスキーを利用できる基盤が提供されます。昨年4月から5月に発生した証券口座乗っ取り被害など、あらゆる不正行為に対しても、この仕組みを導入することで防止できると考えています。
この取り組みが評価され、現在では多くの金融機関から問い合わせをいただき、GMOあおぞらネット銀行さまにも導入いただいています。
AiQ Permission_進展状況
2つ目のトピックとして、「AiQ Permission」の進展状況をお話しします。冒頭にご説明したとおり、2月27日に30年ぶりの大規模な省令改正が実施されました。この省令改正に向けて、当社は7年、8年前からさまざまな実証実験に参加し、安全性をしっかりと担保しながら、AIによる給油許可の仕組み作りを進めてきました。
この省令改正の背景についてお話しします。日本ではセルフ給油のサービスステーションが以前から存在していますが、省令によりセルフ給油であっても給油行為には特定の規制があります。具体的には、利用者が給油ノズルを手に持って車の給油口に差し込みトリガーを引く動作をしても、専任の従業員がサービスステーションの建物内から監視し、OKボタンを押さない限り、給油できない仕組みとなっています。
これは消防法の省令により厳格に定められており、日本全国のサービスステーションではセルフ給油の場合すべて当ルールが適用されています。
この省令が2月27日に改正され、特定の条件のもと、従来人間が行っていた判断をAIが代替できる仕組みが提供可能となりました。その背景としては、セルフサービス自体は以前からあったものの、専任の従業員がOKボタンを押す必要があるため、人手不足が深刻化している現在の社会環境では対応が難しいという課題がありました。
ガソリンスタンドの有効求人倍率は約6倍を超えており、一般的な職業の1.25倍と比較して約5倍高い状況にあります。いわゆる「3K」の側面も指摘されており、若い方がアルバイトをするケースも減少している状況があります。特に過疎地域では、黒字経営であっても人材不足により運営が困難になり、閉鎖するサービスステーションが相次いでいます。
経済産業省や資源エネルギー庁は8年ほど前からこの状況を予測していました。また、EVへの転換はもちろんのこと、アメリカでトランプ大統領就任後のクリーンエネルギーへのシフトが必ずしも順調に進んでいないという現状がある一方、国内では依然としてガソリンが非常に重要なエネルギー供給の柱となっています。
そのような背景において、国内でサービスステーションが減少することは国家的なエネルギー供給課題とされ、安全性が担保できるのであれば、省令の改正を進めるべきだという認識に至りました。テクノロジーを活用した省令改正を行うべきとの判断のもと、この8年間にわたり準備を進めてきた経緯があります。
結果として、省令改正は無事に実現し、2月27日に改正されました。なお、この改正は安全性に関わるサービスのため第三者機関の客観的な認証を受ける必要があり、4月1日から受付が開始されました。当社も申請を行う予定で、認証を受けた後にサービスを開始する見通しです。
今後の流れについても触れておきます。現在、STEP1.5とSTEP2という段階が構想されています。今回の省令改正はSTEP1.5に伴うものであり、STEP2については実現するかどうか、これから判断されることになります。
STEP2は、原則として特定の条件に限らずAIシステムが給油許可をすべて担い、人間は緊急時の対応のみを行うという想定です。AIシステムは全監視項目を自動検知し、給油許可後も監視を継続することを想定しています。将来的には、サービスステーションごとに人が常駐しなくても運営できるような制度設計や仕組みを模索していく段階にあります。
一方、STEP1.5は今回の省令改正によって実現可能となったものです。STEP2を見据えた途上にあるSTEP1.5では、給油許可を行うための利用条件や特定の条件が設定されており、これらの条件を満たす範囲内でAIシステムが給油許可を実施する仕組みとなっています。条件に該当しない場合はAIシステムの自動的な判断は行われず、人間にエスカレーションを引き継ぎ、人間が給油許可を実施する仕組みとなっています。
ただし、これには人間が関わるヒューマン・イン・ザ・ループのような仕組みが含まれています。従来は建物内に配置された専任スタッフが給油の許可を出す必要があり、その人件費は給油の許可業務に費やされるものでした。
しかし、新しい仕組みでは、利用条件を満たしている場合にAIシステムが給油許可を出せるため、人間が許可を行うタイミングは限られます。その結果、専任スタッフがその場に常駐する必要がなくなり、オイル交換や窓拭きなど、人と人が直接触れ合うサービスに集中できるようになります。この仕組みが整備されることで、サービスステーションにおけるサービス導入の意義が明確になると認識しています。
将来的にSTEP2の実証が順調に進んでいけば、さらなる省力化の仕組みが実現し、人間は給油という活動に関わる必要がなくなります。その結果として、先ほどお話しした「サービスに集中できる世界」を目指していきたいと考えています。
ポラリファイのPMI進捗
ポラリファイのPMI進捗についてご説明します。こちらは毎四半期お伝えしていますが、買収完了後、コスト削減が順調に進んでいます。2026年4月には、通信費が2025年3月期平均比で50パーセントを超える削減、人件費も2025年3月期平均比で40パーセントを超える削減を達成する見込みです。これらのコスト削減は今後も引き続き見込まれます。
また、通信費や人件費以外にも、認証のためのエンジンやAIモデルに関する削減も進めています。契約上、ポラリファイは外国企業製のライセンスを使用していますが、この契約は2026年8月に終了予定です。それに伴い当社のエンジンモデルのサービスにすべて切り替えることができ、さらなるコスト削減が見込まれています。
ELEMENTSのAIノウハウ
ここからは、市場環境と成長戦略についてです。本日は、2月の株主総会でご説明した「事業計画および成長可能性に関する事項」から2点抜粋してお話しします。1つ目は、当社の事業や事業戦略・成長戦略がAI産業全体の中でどのようなポジションを取っているかについてです。2つ目は、主力事業である個人認証事業における戦略についてです。
まず、AI産業全体におけるポジションについてです。当社がこれまでに行ってきた事業戦略について振り返り、当社がAI技術にどのようにアプローチしてきたかを「eKYC」を例にお話しします。
スライドの「LIQUID eKYC」の事業モデルは過去の資料からの抜粋になります。競合他社の多くは自社データベースを保有しておらず、単なる委託先として機能しています。クライアント企業はデータを保有、競合他社がApplicationを提供しており、データの所有権はクライアント企業側にある場合がほとんどです。一方、当社は自社データベースに「eKYC」に必要なデータを第三者提供のかたちで集め、自社データとして保有している点が特徴です。
また、当社は個人情報保護法上の同意を適切に取得した上でエンドユーザーからも収集を行っており、これも大きな特徴の1つとなっています。この仕組みにより、自社内でAIモデルを構築し、認証精度を向上させています。一方、競合他社の場合は委託されてデータを保管しているだけのため、複数のクライアントを横断して委託されたデータを自社モデルに学習させることは基本的にできません。
当社は自社データを保有しており、自社AIモデルの学習のためにこのデータを使用することについて、エンドユーザーからも同意をいただいています。そのため、得られたデータすべてを自社AIモデルの学習に活用することができます。これにより、大規模なデータ学習量の差が生まれています。その結果として、当社の認識している限りではありますが、データの蓄積が進むほど、自社モデルの認証精度が向上しています。また、競合他社のAIモデルの精度と比較しても、国内「eKYC」における精度としては当社モデルがNo.1であると自負しています。
また、自社データを学習して性能の向上を実現したモデルを組み込んだ自社Applicationを提供することで、データベース、AIモデル、Applicationが連動する三位一体のサイクルが形成されます。このサイクルが効率的に回ることで、エンドユーザーが離脱することなく本人確認を完了できる割合は最高レベルを実現しており、このコンペティションにおいて当社モデルは高く評価されています。そのようなApplicationを開発できていることを誇りに思っています。
このようなことが可能な背景は2点あります。1つ目は、単にデータを自社で保管しているだけではなく、取得・保管しているデータを自社AIモデルに高効率で学習させるためのデータセット加工を、これまで工夫して行ってきたからです。このノウハウが、自社AIモデルの精度向上に大きく寄与していると認識しています。
2つ目は、自社AIモデルを動かす際に発生する通信費やGPU(画像処理に特化したプロセッサ)の消費に関して、効率的な運用を追求してきたことです。これらを推進した結果、競争力が向上したと考えています。
ポラリファイは海外企業のAIモデルを使用していますが、ポラリファイのPMI推進によって、当該モデルの売上高に対する通信費の割合は非常に高い一方で、当社のモデルは非常に低いことが発覚し、通信費を半分以下に抑えることができました。これにより、当社モデルのGPUマネジメントが2倍以上効率的であることが示されました。これも当社の強みであると考えています。
ELEMENTSの事業戦略
このような当社の強みは、Infrastructureサービスにおいて当社が競争力を発揮する源泉になっていると考えています。Infrastructureとしては、「ELEMENTS CLOUD」というかたちでの新事業参入やサービス開始のほか、自社データセンターで今後参入を計画している部分もあります。
当社は、さまざまなAI Applicationに携わってきた中で、GPUの効率的な使い方をノウハウとして蓄積してきました。逆に言えば、Infrastructureを提供する側が単なるベアメタルではなく、実際にどのようなユースケースでどのようなAI Applicationが動くかを認識し、それに合わせた効率的なGPUマネジメントの方法をソフトウェア的にデータセンターサービスに組み込むことを意味しています。これらのGPUマネジメントノウハウが組み込まれたInfrastructureを提供できること自体が、当社の強みであると考えています。
もう1つの強みとして、経済産業省傘下の産業技術総合研究所(通称:産総研)およびNEDOの補助金を活用し、昨年10月から取り組んでいるプロジェクトがあります。これは5年間の計画で、すでに採択され進行中です。
現在のAI産業構造においては、Infrastructure分野ではチップセット、具体的にはNVIDIAのチップセットが圧倒的なシェアを持っています。NVIDIAはチップセットにおいて強みを持っているため高収益なチップセットを販売でき、大きな利益を上げています。しかし、これはAI Applicationを提供する事業者にとって、運用コストの上昇を意味します。
日本全体としても、国家として金融業、流通業、製造業といった各業界の大企業がAI Applicationを磨き上げて構築し、自社サービスをAIネイティブ化していく過程で、NVIDIA製チップセットの価格の高さは企業が向き合うべき課題になると想定されます。
しかし、当社では必ずしもNVIDIAに限定する必要はないと考えています。例えば金融業界の不正検知のユースケースでは、OpenAIやAnthropicが提供するモデル、Metaが提供する「Lama」というオープンソースモデルなど、さまざまなモデルが利用可能です。同様に、チップセットについてもNVIDIAだけでなく、AMD、Intel、そして今後登場するGoogleのTPUなど、多様な選択肢があります。
これらの多様なモデルとチップセットを組み合わせることで、特定のユースケースにおいては、NVIDIA製チップセットよりも安価で、かつ同等のパフォーマンスを維持しながらサービスを提供できる可能性があると考えています。
したがって、経済産業省や産総研との取り組みプロジェクトの最大のポイントは、評価を行うことにあります。国内におけるさまざまなAI活用シーンで、ユースケースごとに、どのLLMモデルと半導体チップの組み合わせがパフォーマンスを維持しつつ、ある程度コスト競争力のある最適な組み合わせとなるのかを模索し、評価を進めるプロジェクトを、当社は5年かけて実施しています。
ここで得られた組み合わせを、当社のInfrastructureサービスにそのまま組み込み、各ユースケース向けに提供していくことが可能です。これにより、土地を整備し、電力を確保し、建物を建設して、そこに単なる箱物のGPUを導入するだけのサービスにとどまらず、競争力のあるInfrastructureサービスを創出することが、当社の使命であると考えています。
一方、スライド中央のApplication/Agent領域に関しても、競争優位性を持った事業展開が可能であると考えています。先ほどご説明したデータセットの加工ノウハウは、「eKYC」や顔認証などに限定されるものではなく、非常に汎用的なものと認識しています。
例えば、「eKYC」で多くの顧客基盤を築いている金融領域も含め、さまざまなお客さまからデータセットをお預かりし、それをモデル構築に役立つように適切に加工することで、より高いパフォーマンスを実現するAI利活用につなげられると考えています。また、GPUマネジメントによる通信費削減の施策は、Applicationサイドからも対応可能な部分があり、ここでも強みを発揮できます。
当社のようにApplicationとInfrastructureの両方を手掛ける会社は極めて稀有であり、この強みを活かして価値の垂直統合を図っています。具体的には、Applicationサイドでご相談いただいたお客さまに対し、Infrastructureサイドでもパフォーマンスを向上させつつ、利益をさらに拡大できる仕組みを提供することが可能です。また、その逆のパターンについても同様の取り組みができると考えています。
AIの産業構造_ELEMENTSの戦略
スライドは、視点を少し変えてまとめたものです。先ほどご説明したとおり、当社はR&D(研究開発)部門で産総研との共同プロジェクトを開始しており、NVIDIA製チップセットに依存しない性能の追求を進めています。
ユースケースごとにチップセットとモデルの適切な組み合わせが明確になれば、Infrastructureサイドにはその組み合わせで提供していきます。また、それを前提としたAIオーケストレーションをApplicationサイドでも提供していけると考えています。結果的には、スライド上部のApplicationサイドとして、当社ではR&Dで得られた知見を投入した自社アプリの開発を「eKYC」に限定せず実施しています。
「AiQ Permission」についても、同様のノウハウを活用して8年間の給油映像データを蓄積・学習した結果、今回のサービス開始に至りました。今後も、当社が提供するあらゆるAI Application/Agentに同様のノウハウを活用したプロダクトを提供できると考えています。さらに、他のパートナー企業向けのAIソリューション開発も活発に進めており、ここにもR&Dの方法論を応用していけると考えています。
Infrastructureについては、GPUマネジメントノウハウに加え、評価プロジェクトで得られたチップセットとモデルの組み合わせを活用し、利益率向上につながるInfrastructureを提供していきたいと考えています。
また、直近の不安定な世界情勢、特にアメリカや中国の覇権争いが激化する中で、日本国としての経済安全保障の観点からも、純国産の企業が国家規模の重要なデータをしっかり保管・格納する体制を構築することは、当然目指すべき姿だと考えています。その一環として国や県から補助金の支援が得られる状況が進んでいることから、これらを最大限活用しながら強みをしっかり発揮していきたいと考えています。
AIの産業構造_ELEMENTSのポジショニング
AIの産業構造を図示すると、下層に半導体チップがあり、そのチップが組み込まれたIaaS(Infrastructure)が存在します。その上にさまざまなビッグプレーヤーのLLMモデルが構築され、さらにその上にApplication/Agentが位置しています。現時点では、下の階層にいくほど市場規模が大きいです。
ただし、どのような状況でも、最初は下層であるInfrastructure層から市場が広がり、Application層のユースケースが拡大し、利用意義が世間に認知されるにつれて逆三角形型に変わっていくのが一般的な流れです。
例えば、オンプレミス時代のサーバーがクラウド化し、SaaSアプリケーションが全盛期を迎えた際も同様の動きが見られました。最初はAmazonの「AWS」など、Infrastructure層が大きな市場を形成し、それが徐々に逆転するという過程を辿りました。
当社は、同様の流れがAI以前の時代(Before AI)とAI以降の時代(After AI)でも起こると考えています。この中でまず本丸として、AI Application/Agentの部分を位置づけています。ここには「LIQUID eKYC」や「AiQ Permission」などのサービスが含まれており、これらが本丸ではあるものの、自社のR&DノウハウやGPUマネジメントノウハウを投入することで、Infrastructureにおいても差別化を図れると認識しています。この分野にも、しっかりと勝負をかけていく考えです。
AIの産業構造_AI進展によるSaaSへの影響とELEMENTSの差別化
さらなる詳細として、AIの進化・発展によるSaaSサービスへの影響にも触れたいと思います。ビジネスロジック、データと学習、技術要素の3つの観点でご説明します。
まず、OpenAIやAnthropicなどの大企業が提供するLLMについてです。全公開には至っていないものの、Mythosも先日リリースしています。
LLMは汎用的な推論能力(ベースの頭のよさ)において圧倒的な進歩を遂げています。当社としても、基盤となる汎用的な推論能力という観点では積極的に活用していくべきだと考えています。
一方で、さまざまなユースケースで必要とされるビジネスアプリケーションについては、ユースケースごとのPrivate Dataを用いた学習が課題解決に必須なものであり続けると認識しています。さらに、それを取り巻く法令やルール、環境変化への迅速な対応といった観点でも、汎用的な推論能力とはまったく異なる方向性で、特有のアップデートが必要になると考えています。
「eKYC」を例に挙げると、犯罪収益移転防止法や携帯電話不正利用防止法などの法令は、過去9年間で3度改正されています。これらの法改正に対応するためのビジネスロジックの変更は、汎用的な推論能力の向上とはまったく異なるものです。すなわち、ビジネスの現場で汎用的な推論能力を活用するためには、単に優れたAIモデルだけでは不十分であることを意味しています。
ビジネス全体や業務全体において、どのようなワークフローがあり、それぞれのフローでどのような価値を提供し、どのようなプロセスを辿るかを具体的に分解する必要があります。その上で、法令遵守や環境変化への即応など、各プロセスが満たすべき条件を明確化しなければなりません。
また、分解されたプロセスごとに、高度な推論能力を持つAIモデルの適用可否を検討する必要があります。「このユースケースにはこのモデルが適している」という、適材適所で最適なモデルを選定することがユースケースの細部で求められてきます。
なお、AIモデルを活用する際には、全体的な視点も必要です。最近では「ハーネス」とも呼ばれる、AIを制御する能力が求められます。具体的には、ビジネスプロセス全体を見渡し、それぞれの場面でどのようなAIを使うべきかを判断する力が重要です。場合によっては、AIモデルを使わないほうが処理速度やコストの面で有利になるケースもあります。
そのような判断を統合的に行い、サービスに落とし込んでいく必要があります。重要なのは、これまでSaaSが担ってきたビジネスロジックの高い解像度を維持しつつ、AIをどのように組み込んでいくかを理解し、実行できる力です。純粋なSaaS企業が提供するSaaSと、AI Applicationを前提に組み込んだSaaSには大きな違いがあると考えています。
当社の「LIQUID eKYC」「AiQ Permission」「LIQUID Auth」は、すべてAIを活用することを前提としたSaaSアプリケーションです。単なるアルゴリズムや、AIを使用しない業務システムとしてのSaaSを提供してきた企業とはアプローチが異なります。
当社はAIに関連するノウハウを集積しています。例えば、AIによる学習データの収集や加工技術、GPUを効率的にマネジメントしてコストを削減する手法などです。これらを駆使して、さまざまな大企業や各社の業務課題に対応するAI活用サービスを構築していく必要があります。
そのため、スライド中央に記載しているデータと学習の要素に基づき、OpenAIやMeta、Anthropicが保有していない、企業固有の非公開データ(Private Data)の活用を重視しています。これらのデータを各社から信頼を得て預かり、AIの学習にも活用しながら、基盤となる汎用モデルの性能を最大限に引き出すために必要な特有の学習を進めていきます。AIモデルを適切に使い分けてこれらの仕組みを提供していくことが非常に重要であると考えています。
当社の「eKYC」では、IDのドキュメント情報、顔認証情報、端末情報、具体的な不正攻撃の内容などを継続的に収集しています。その結果、例えば直近の不正攻撃がどのように変化しているかを基に、どのような学習が必要か、どのようなアルゴリズムの変更が望ましいかをオンタイムで把握し、即座に対応することが可能です。
このような取り組みは汎用モデルのみを扱う企業にはできないため、データ活用と汎用モデルの活用を融合させることは重要であると考えています。
続いて、技術要素の観点でご説明します。生成AIやLLMは現実世界の問題解決には直結していません。当然ながら、「Claude」などの知能がどれだけ向上しても、現実空間において物理的なアクションがなければ、何ひとつ進展しません。例えば、介護、農業、製造といった分野が該当します。
そのような意味では、ロボティクスやマニピュレーションとの融合が重要になると考えています。これらがベースとなる汎用的なモデルの知能と融合することで、現実空間における社会実装も今後進むものと思われます。
当社は現在、ガソリンスタンドの運営の他、建設現場での対面による顔認証の仕組みなど、現実空間で「目」の役割を担う分野で取り組みを進めています。詳細については、次のページでお話しします。
AIの発展とELEMENTSの関わりから見る、我々のこれから
これまでAIの発展には、第1次、第2次、第3次、第4次の4段階のフェーズがあったと考えています。第1次と第2次については少し古いので割愛します。
第3次、すなわち2000年代に入ってからはディープラーニング(深層学習)が登場しました。一気にAIが現実的に役立つものとなり、推論能力が格段に進化するきっかけにもなりました。これらは認識系のタスクとして、主に予測や分類といった分野で活用されました。当社が提供する画像認識も「目」の能力として使われました。
第4次、すなわち2020年代に入り、生成AIが全盛期を迎えています。文脈の理解やコンテンツ生成、汎用的な推論能力を備えた、いわば頭脳を担うAIとして爆発的な発展を遂げています。
現在の生成AIは高度な「頭脳」を生み出しつつありますが、第5次で注目されているものが、いわゆる物理空間の課題解決を行うフィジカルAIの分野です。「頭脳」だけではなにも実現できないことから、フィジカルAI分野では空間の認識するセンシングや画像認識を行う「目」や「器官」といった五感を担う要素、さらにロボティクスを習熟した「手足」の要素が必要とされます。
当社には、個人認証事業の取り組みを通じて培ってきた「目」の技術があり、ガソリンスタンドやサービスステーション向けの「AiQ Permission」ではこの技術を強みとして活用しています。「頭脳」については、汎用的な推論能力は大企業から提供されるものを活用することが主軸となるものの、自社業務に特化したPrivate Dataを収集・加工することで、「頭脳」をさらに活かす仕組みを構築していきます。これらの仕組みを現実社会のAI実装に取り込むことで、物理空間の課題解決に貢献していきたいと考えています。
以上が、産業における当社のポジショニングになります。
個人認証事業サマリー
続いて、個人認証領域についてです。市場環境の変化と社会機会、当社グループの強み、成長戦略として「LIQUDシリーズ」および「第2の柱」についてお話しします。
当社では個人認証の市場規模は引き続き拡大していくと考えており、認証機会の用途や利用シーンは今後も増加していく見通しです。
すでに個人認証の入口であるデジタル本人確認「eKYC」において、当社は強固なポジションを築いています。圧倒的な顧客基盤を背景に、顕在市場でのシェアはすでに寡占状態に近づいているものの、新たな認証機会の用途や利用シーンが増加していく中で、現在の優位なシェアを活かし、ナチュラルグロースによって市場をさらに拡大していけると考えています。
「LIQUDシリーズ」のうち「LIQUID eKYC」については、圧倒的な顧客基盤を活かしつつ、顕在市場でのシェアを寡占しています。また、潜在市場が新たに顕在化してくる際には、自然なかたちでシェアが拡大していくと考えています。
実際にこれまでも同様の状況が見られました。例えば、2018年に犯罪収益移転防止法が改正された後、法令で定められている内容ではないものの、マッチングアプリにおける本人確認、Webサービス、シェアリングエコノミーにおける本人確認など、市場が徐々に広がっていきました。当社は常にシェアNo.1を維持しており、新たに広がった市場でもシェアNo.1を獲得しています。このようなかたちで、今後も引き続きシェアを着実に拡大していきたいと考えています。
「LIQUID Auth」は、デジタル本人確認の入口部分ではなく、日々のサービス利用時の認証で高付加価値サービスを展開することで、着実にシェアを拡大していきます。先ほどご説明したとおり、パスキーには弱点があり、金融機関でもすでに認識されていますが、弱点を補完する独自の技術を統合的に提供することで対応していきます。
「LIQUID eKYC」では、初期設定時や端末変更時の顔認証からパスキーまでを一体化したかたちで提供し、ユーザーにとって最も使いやすい、安全性の高いサービスとなるよう、優れたユーザビリティを提供していきます。
「第2の柱」については、省令が改正された「AiQ Permission」や、Infrastructureの項目でお話しした「ELEMENTS CLOUD」などを「第2の柱」としてしっかりと伸ばしていきたいと考えています。
個人認証事業の市場規模_市場拡大の背景
最後に、個人認証事業の市場規模の拡大について、直近での用途の広がりをご説明します。
2018年、2019年頃から法改正が行われ、まず法令関連の分野として、金融、通信キャリア、古物商などで導入が開始されました。その後、クレジットカードの不正防止やマッチングアプリでの信頼性の確保、成人年齢の認証などに代表される年齢証明分野、シェアリングエコノミーでの信頼性の担保、外国人労働者や建設業・製造業での勤怠を含む労働者管理、医療機関や自治体向けの施設利用など、さまざまな用途が認識されてきました。
直近では2026年11月期に、信頼性担保を目的とした利用シーンの中で、SNSにおける信頼性の確保や年齢証明の観点で、グローバルニーズが徐々に広がってきていると認識しています。
ライドシェアに関しては、これから先の可能性の段階ですが、規制緩和の可能性が出てきている中で、世界ではドライバーズライセンスを用いた本人確認を行いながら、ライドシェアサービスに参加するドライバーの信頼性をしっかり担保するというニーズも生まれつつあると考えています。
個人認証事業の市場規模_市場拡大の背景_本人確認規制強化のトレンド
具体的な事例として、OpenAIの「ChatGPT」ではすでに本人確認が始まっています。大多数の一般ユーザーにはまだ本人確認が求められていませんが、「ChatGPT」を利用する際に特定の条件を満たしたユーザーには本人確認が求められています。本人確認については、OpenAIのサム・アルトマン氏も「フェイクコンテンツが大量に生成されるような有害な利用への対抗策として、本人確認を強めていく」ということを標榜されています。
各国政府の動きとしては、特に未成年者、例えば16歳未満のSNS利用制限が進んでいます。昨年12月にはオーストラリアを皮切りに、16歳未満のSNSの新規アカウント作成や既存アカウント保有の制限が導入されました。
この制限を実施するには、16歳未満であるかどうかを判別する必要があるため、全ユーザーに対して年齢証明が求められることになります。年齢証明の詳細については割愛しますが、このプロセスにおいて本人確認のニーズが生じるため、こうした動きは市場拡大の大きな契機になると考えています。