■事業概要
3. パイプライン事業
Veritas In Silicoは「aibVIS」を活用して、独自でパイプラインを創出し、製薬会社に導出することで収益を獲得するパイプライン事業を開始している。同事業に参入した背景には、当初よりパイプライン事業をプラットフォーム事業を合わせ行うハイブリッドビジネスを目指していたことに加え、大手製薬会社における創薬研究のトレンドが変化してきたことが挙げられる。大手製薬会社では自社で基礎研究段階から行うよりも、バイオテク企業等から有望なパイプラインを導入し、臨床開発を進めるケースが増えている。こうしたトレンドの変化は、プラットフォーム事業における契約交渉にも影響が出始めていると同社では感じているようだ。研究開発コストは嵩むものの、中長期的に収益獲得が期待できるパイプライン事業を育成することが、将来の企業価値向上につながると判断している。
同社は開発対象として、高い将来価値が期待できるもの(既存薬と競合せず、患者数が一定以上規模の疾患)、販売開始までの研究開発期間が相対的に短く、かつ開発コストを低く抑えることができるもの(指定難病等の希少疾患)などを選定基準として、年間1本のペースで合計3本のパイプラインを創出し、研究開発を進める。
また、同社は三菱ガス化学と核酸医薬品の創出及び製造方法確立を目的とする共同研究契約(予定研究期間3年)を2025年6月に締結した。Quality by Design(QbD)に基づく長鎖RNA※1標的に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO※2)の創薬に取り組むことを目的としたものだ。同社の創薬プラットフォーム「aibVIS」を活用して開発候補ASO化合物を取得し、三菱ガス化学は初期より同化合物の製造方法の確立を担う。QbDの考え方を研究初期段階から採り入れることで、高活性・低毒性であるだけでなく商業製造の際に高品質かつ低コスト化を実現する付加価値の高い医薬品の開発を目指している。なお、共同研究により得られた成果物は、主に同社が権利を保有し、三菱ガス化学は一部を保有することになっている。
※1 長鎖RNA:おおよそ長さ300塩基以上のRNA分子のことで、タンパク質の合成やそのほかの細胞機能に重要な役割を果たす。mRNA、プレmRNA、ロングノンコーディングRNAなどの種類がある。
※2 ASO:Antisense oligonucleotideの略。アンチセンスオリゴヌクレオチド(アンチセンス核酸)。核酸医薬品の一種。一本鎖のDNAやRNAからなり、相補的な配列をもつmRNAに結合して主にタンパク質の合成(翻訳)を制御する働きを持つ。ASOに安定性や機能などを追加することを目的として様々な化学修飾を導入することができる。
低分子医薬品市場は今後も安定成長、核酸医薬品は高成長見通し
4. 医薬品市場の見通し
医薬品の世界市場規模は2020年の75兆円から2030年は103兆円まで拡大するとの予測※がなされている。このうち、モダリティ別で最大規模となる低分子医薬品については2020年の約48兆円から2030年は約55兆円と年率1%の緩やかな成長で成熟期に入っているものの、2030年時点でも全体の5割強を占める最大市場としてのポジションに変わりはない。ただ、同予測値には上市実績のないmRNA標的低分子医薬品については加味されていない。既述のとおり、タンパク質標的では創薬できない疾患関連のタンパク質が多く残されているなかで、mRNA標的低分子医薬品で同領域を埋めることができれば、低分子医薬品の市場規模もさらに拡大する可能性が十分にある。
※ 内閣官房 健康・医療戦略室委託事業「令和二年度 医薬品・再生医療・細胞治療・遺伝子治療関連の産業化に向けた課題及び課題解決に必要な取組みに関する調査報告書」による。
一方、同社がパイプライン事業で取り組む核酸医薬品の市場規模は2020年の約0.45兆円から2030年は約2.1兆円と年率17%の成長が見込まれている。アンメットメディカルニーズの強い希少疾患を対象とした開発が多く、高薬価も期待できるため研究開発が活発に行われており、医薬品市場のなかでは遺伝子治療と並ぶ高成長市場として位置付けられている。製薬会社の関心も高く、開発が順調に進めば早期導出の可能性も高まると予想される。
aibVISを基盤としたワンストップソリューションが強み
5. 同社の強み
同社の強みとして、mRNA標的低分子創薬という新しい創薬手法において、共同創薬研究の各過程で必要となる一連のAI創薬技術をワンストップで提供可能とした独自の創薬プラットフォーム「aibVIS」を構築している点が挙げられる。これまでの研究実績やノウハウの積み上げにより、技術的にどのようなmRNAにも応用可能なほか、蓄積した多くのデータをAIエンジンに学習させることで、特定の創薬課題ごとに効率的な研究開発が可能となる。これまでに共同創薬研究契約を締結した製薬会社のうち、塩野義製薬においては2025年にリード化合物候補の創出に成功するなど研究成果も出始めている。
「aibVIS」はmRNA標的低分子医薬品に限らず、核酸医薬品の開発にも適用できるため、自社パイプラインを構築する際の技術的な裏付けとなる点も強みの1つと言える。同社が独自設計したECM(Extraordinary Curated Modulation)型核酸医薬品は、特殊な化学修飾を用いずとも、高い活性と薬効が期待できる設計原理に基づくシンプルな2本鎖構造となっている。特に安全性を意識した新たな設計コンセプトで、従来の核酸医薬品の課題の1つである毒性の解決にもつながる可能性があり注目される。また、三菱ガス化学との共同研究によって、高品質かつ低コストの核酸医薬品の開発に成功すれば、核酸医薬品の課題のもう1つである製造においてもその解決が期待できることになり、同社の技術力も一段と注目されることになる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)