■中長期の成長戦略
現在、ムサシの収益の中心は選挙システム機材である。同事業は安定成長を続けているものの、国政選挙などの実施時期によって需要に波が生じるため、シクリカルな側面を併せ持つ。そのため今後の事業展開においては、選挙サイクルに左右されない収益体質を目指し、選挙システム機材に次ぐ新たな収益の柱として「防災・減災ソリューション」に注力する方針である。各事業セグメントにおける具体的な注力製品やサービス、多角化戦略は以下のとおりである。
1. 官公庁・大学向け「デジタルアーカイブ」及び新BPOセンターの展開
今後、民間・官公庁を問わず公共情報インフラを次世代へつなぐことが重要となり、同社では信頼を蓄積する「次世代アーカイブ」への転換を図る。具体的な導入事例としては、自治体が保有する貴重資料を体系的に公開して歴史・文化発信に活用する「自治体デジタルアーカイブ」や、大学の所蔵資料を年表形式で閲覧・検索可能にして利用を促進する「大学デジタルアーカイブ」、災害記録を時系列で閲覧可能にして地域復興に役立てる「災害記録デジタルアーカイブ」などがあり、今後はこれらをさらに拡大する方針である。
同社では、これらの事業を促進するため新しいBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)センター「MUSASHI DigiArk Center」(ムサシ・デジアークセンター)を開設した。
2. 富士フイルム製「ミクロフィルター」の半導体・エレクトロニクス分野への拡大
同社は、富士フイルム(株)の業務用ろ過フィルター「ミクロフィルター」の販売代理店事業を展開している。富士フイルムの「ミクロフィルター」は、この市場では後発(先発は主に外資系企業)であるものの、独自の非対称膜構造による優れたろ過機能やロングライフ(長寿命)を強みに、売上を伸ばしている。同社における当該事業は2018年1月に開始されたが、売上高は2021年3月期の539百万円から2026年3月期には775百万円と順調に拡大している。当初は食品・飲料向け中心であったが、近年では半導体向けなどのエレクトロニクス業界向けへの展開も進んでいる。
3. インフラ安全を支える工業用検査機材及び新商品「プレスケール」の投入
工業用検査機材には、非破壊検査により航空機や船舶の整備に利用される機材、微細な欠陥を検出して下水道などのインフラの安全維持に寄与するシステム、X線撮影からデータ管理までをデジタル化したデジタルX線システムなどがある。
また、2025年10月に新たに発売した圧力測定フィルム「高温用プレスケール100/200」の取り扱いを開始した。この特殊フィルムを対象部位に挿入し圧力をかけることで、色見本や検量線を用いて圧力を視覚的に確認できる。活用事例としては、半導体製造におけるウェハボンディング装置や、基板製造における熱プレス・ラミネート装置などが挙げられる。今後、成長分野への積極的な展開を推進する。
4. 金融機関「集中処理センター」向けシステムとBPOサービスの強化
金融機関向けのセキュリティ機器の拡販においては、通帳証書管理機「テラックPB7」や、現物精査の効率化を実現する「精査格納ボックス」の展開を強化している。
また、同分野の基盤となる「集中処理センター」向けの管理システム開発にも注力する。主なシステムとしては、口座振替依頼書などのイメージ入力を事務センターで実施し、営業店クライアントでの一括検索を可能にする「口座振替管理システム」を展開。さらに、営業店で受け付けた手形・小切手・伝票・各種申込書など多様な書類のスキャニングデータを集中処理センターで集約連携する「イメージファイリングシステム」や、ICタグによって書類の現物を管理し、ポータブルリーダーで棚卸作業時間を大幅に短縮可能にする「債権書類管理システム」などを開発・提供している。
5. 選挙システムにおける「総務省標準化対応」及びストック収益化
今後の重要な取り組みとして、国が推進する「選挙用業務管理ソフト」の総務省標準化対応が挙げられる。総務省やデジタル庁は自治体が使う情報システムを全国で共通化する取り組みを進めており、選挙人名簿の管理もその対象に含まれている。同社は、この標準化に対応したシステムを提供することで、自治体の選挙事務の効率化を支援する。これら標準化対応に準拠することで、選挙のない時期でも保守料や利用料が継続的に発生するため、同社にとって収益の安定化や事業の平準化(ストックビジネス化)に大きく寄与する見込みである。
こうした新機軸を打ち出せる背景には、同社が業界トップの総合サプライヤーとして築いてきた強みがある。同社の最大の特色は、各種機器から用品・用具、業務ソフト、さらには投票率アップの啓蒙に至るまで、選挙業務をトータルでサポートできる点にある。具体的には、投票用紙自動交付機、投票用紙自動揃え機、投票用紙読取分類機、投票用紙計数機などの高機能機器に加え、自然に開く投票用紙、資源再利用の投票箱、投開票集計システムなど、幅広いラインナップを提供している。
6. 次世代の成長領域「テラック避難者情報把握システム」による収益基盤の確立
近年、同社が特に注力しているのが、災害時の避難者情報を一元管理する「テラック避難者情報把握システム」の展開である。これは地震や津波、台風、火災などの災害時において、避難所ごとの在籍者や安否情報を容易に把握・管理できるシステムである。
本システムは、住民基本台帳データベースとの連携による迅速な受付対応や、期日前投票システムと同様の操作画面(インターフェース)の採用、ネットワークに依存しないオフライン運用の実現、マイナンバーカードやQRコードを用いた受付対応、さらには避難者情報の容易な集計などを主な特色としている。
特に、期日前投票システムの応用として開発された経緯から、同様のインターフェースを採用している点は、運用を担う自治体側にとって実用上のメリットが非常に大きい。そのため、既に沿岸地域の自治体を中心に引き合いが増加している。また同社にとっても、既存の住民基本台帳データベースを活用できるため、開発に伴う追加コストを最小限に抑えられる強みがある。収益面においては、選挙用業務管理ソフトと同様に安定的な保守料や利用料を得られるビジネスモデルであるため、今後の収益基盤の安定化、選挙システム機材に次ぐ次世代の成長領域として期待される。
■株主還元
2026年3月期は年間76.0円配当を実施
同社は株主還元を配当によって行う方針を掲げており、「将来の事業展開のための内部留保の充実」と「業績の成果に応じた利益還元」の2点を基本方針としている。具体的には、株主還元のベースとなる普通配当に、業績に応じた特別配当を組み合わせる方式を採用している。
同社は、ベース配当(普通配当)を「年間36.0円」とし、これに業績に応じた金額を特別配当として上乗せする仕組みをとっている。2026年3月期は業績が堅調に推移したため、年間76.0円(普通36.0円、特別40.0円)の配当を実施した。2027年3月期は、現時点ではベース配当である年間36.0円を予定しているものの、今後の業績動向に応じて配当額が変動する余地を残している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)