■澁澤倉庫の業績動向
1. 2026年3月期の業績動向
2026年3月期の業績は、営業収益が79,740百万円(前期比1.4%増)、営業利益が4,097百万円(同12.2%減)、経常利益が4,858百万円(同13.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益が6,333百万円(同29.0%増)と増収減益だった。親会社株主に帰属する当期純利益のみ増益となったのは、政策保有株式の縮減に伴う投資有価証券売却益を計上したためである。なお、期初予想と比較すると、営業収益で740百万円過達、営業利益で103百万円の未達となった。
日本経済は、雇用・所得環境の改善や各種政策の効果を背景に緩やかに回復し、世界経済も主要国の利下げ転換に伴って底堅く推移した。一方、エネルギー価格の高止まりや物価上昇、深刻化する労働力不足の影響でコストが上昇を続けており、国内消費や企業収益への波及が懸念されている。さらに、地政学リスクの高まりや米国の通商政策の変化が景気の下押し圧力となっており、こうした国際情勢の不確実性によるサプライチェーンへの影響を注視する必要があるなど、先行きは依然として不透明な状況にある。
こうした環境下、同社は、好調な陸上運送業務、堅調な国際輸送業務に加え、倉庫・輸配送業務での適正な料金改定、飲料や多品種小ロット物流などの3PL事業拡充、新規案件の獲得などもあって増収を確保した。料金改定については、一部において収受と支払のタイムラグはあるものの、2024年問題などを契機に顧客からの理解が得られるようになっており、原価率の高い陸上運送を中心に改定が進んでいる。コストが引き続き上昇していることもあり、今後も継続的に価格交渉をしていく方針である。また、従来未収受だった付帯作業の価格への転嫁も、顧客側の理解が着実に進みつつある。新設拠点は、2025年4月に栃木の危険物倉庫が稼働、2026年3月には旧拠点から約1.4倍に移転増床した飲料特化型の習志野倉庫が稼働した。海外では、香港で内需の取り込みを狙い、2025年10月に倉庫拠点を拡充した。
一方、定温・定湿機能を備えた環境配慮型次世代拠点である本牧営業所など、前々期に竣工した新設拠点の稼働率が期末にかけて改善したものの、上半期に一時的に低迷した。また、新設拠点の立ち上げに伴う減価償却費や賃借料など初期費用が先行し、トラックドライバーの処遇改善や最低賃金改定に伴う庫内作業員の賃金上昇など人件費全般が上昇した。このため、営業利益は減益となった。なお、経営判断の一体化と効率化を図り、経営環境の変化にグループとして迅速に対応することを目的に、子会社の大宮通運と平和みらい(株)を100%子会社化した。
物流事業全般は堅調も、コストプッシュの影響が大きかった
2. セグメントの状況
セグメント別の業績は、物流事業が営業収益73,968百万円(前期比1.8%増)、セグメント利益3,663百万円(同5.7%減)、不動産事業が営業収益6,146百万円(同4.0%減)、セグメント利益3,134百万円(同6.5%減)となった。物流事業の陸上運送業務と国際輸送業務以外は減収だった。なお、セグメント利益は営業利益ベースである。
物流事業の事業環境は、国内においては、荷動き全体として一進一退の推移となるなか、輸送能力の確保に向けた運賃是正の動きが浸透する一方、人件費やエネルギーコストの構造的な上昇が収益を抑制する要因となった。また、ドライバーや倉庫現場での深刻な労働力不足を受け、省力化投資や抜本的な処遇改善による人材確保、輸送・荷役体制の環境整備が喫緊の課題となった。国際物流においては、内需に支えられた消費材や生産拠点の国内回帰を背景とした生産材の輸入貨物が底堅く推移した。一方で輸出貨物は、米国の通商政策や中国経済低迷の影響に加え、地政学リスクに伴うサプライチェーンの混乱や運賃市況の変動もあり、製造業関連を中心に荷動きが鈍化した。こうした環境下、同社は「澁澤倉庫グループ中期経営計画2026」で掲げた事業戦略に基づき、拠点ネットワークの拡充やテクノロジー活用によるオペレーションの高度化、物流を越えた業域の拡大を積極的に推進した。
業務別の状況については、倉庫業務は、飲料や食品関連の荷動きが好調に推移し、新規受託した一般医療機器の取り扱いも寄与した。一方で、一部顧客の内製化や拠点再編に伴う受託終了があったほか、上半期における新規拠点への移管遅延(期末に向けて概ね正常な水準へ回復)の影響を受け、全体の取り扱いが減少し減収となった。利益面では、新設拠点の稼働開始に伴い、減価償却費や賃借料などの初期費用が増加した。陸上運送業務は、飲料や食品関連の安定した荷動きに加え、化粧品の取り扱いが堅調に推移した。また、諸コストの上昇を反映した運賃水準の適正化を継続的に推進したことで増収となった。港湾運送業務は、船内荷役や個人消費の伸び悩みによる輸入家電製品の荷捌業務が低調に推移し、減収となった。国際輸送業務は、輸入家電製品の荷動きは低迷したものの、半導体関連の北米向け輸出入航空貨物の取り扱いが伸長したことで、増収を維持した。なお、上海は中国全体の景気低迷の影響により取り扱いが減少したが、ベトナムは自動車工場向けの巡回集荷が堅調に推移した。
不動産事業の事業環境は、オフィスビル賃貸市場がコロナ禍後の出社回帰に伴う需要回復を背景に空室率が改善傾向を辿り、賃料水準も底堅く推移した。一方で、建設資材価格の上昇や建設業界の労働力不足により建築コストは依然として高止まりとなった。また、本格的な金利上昇局面への移行を背景に、資産の新規取得や開発事業の推進にあたっては、多角的なリスク検証とより慎重な収益性判断が求められる状況となっている。こうした環境下、前期のビル工事請負の大型案件が完了し、新規案件の引き合いが落ち着きを見せたことから、全体の取り扱いが減少し減収減益となった。その一方で、保有資産のバリューアップを通じた賃貸収益の強化を図るとともに、資本効率を重視したポートフォリオの最適化と収益基盤の多角化に向け、私募ファンドへの出資を通じた不動産証券化事業への参画や、物流事業とのシナジーを最大限化に発揮すべく高付加価値な物流不動産のクロスセル提案を推進するなど、不動産事業の成長性向上のための取り組みを強化した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田 仁光)