■要約
戸田工業は、磁器の絵付け、歴史的建造物の彩色などに欠かせない顔料である弁柄の製造業として1823(文政6)年に創業、2023年11月に創業200周年を迎えた老舗化学素材メーカーである。酸化鉄で培った独自の技術と情熱で微粒子の可能性を深化させ、光学レンズ研磨剤用高純度酸化鉄、一世を風靡したオーディオ・ビデオテープなどで使われる磁性酸化鉄、複写機・プリンター向けのトナー用材料、自動車や家電などで使用されるモーターやセンサー用磁石材料、スマートフォンで多用される積層セラミックコンデンサー(MLCC)※1向け誘電体材料、電気自動車(EV)向けリチウムイオン電池(LIB)※2用材料などで事業を拡大してきた。現在、電子素材事業(磁石材料、誘電体材料、軟磁性材料、LIB用材料、ハイドロタルサイト)と機能性顔料事業(着色顔料・トナー用材料、触媒など、環境関連材料)の2つのセグメントで事業展開している。
※1 スマートフォン、自動車、パソコン、サーバーなどあらゆる電子機器に搭載される電子部品であり、電流の安定化やノイズ除去などを担う。MLCCはMulti Layer Ceramic Capacitorの略。
※2 EV、スマートフォン、ノートパソコンなどに広く使用される充電式電池。LIBはLithium Ion Batteryの略。
1. 2026年3月期の業績概要
2026年3月期の業績は、売上高が前期比11.4%減の28,041百万円となったものの、営業利益は862百万円(前期は648百万円の損失)となり黒字転換を達成した。不採算事業の整理を含む事業ポートフォリオ改革に加え、価格是正活動、原価低減、諸経費及び販管費削減などの施策による収益構造改革が奏功した。事業別では、誘電体材料が生成AI普及に伴うAIサーバー向けMLCCの需要拡大を背景に過去最高売上高を更新したほか、磁石材料も原価低減や歩留まり改善により収益性が向上した。また、AI関連データ量増加を背景にLTOバックアップテープ※向け記録材料需要も拡大した。一方で、EV市場の成長鈍化を背景としたBASF戸田バッテリーマテリアルズ(同)(BTBM)の業績低迷に伴う持分法投資損失に加え、BTBMの出資持分譲渡決定に伴う譲渡損失引当金3,016百万円を特別損失として計上したことから、親会社株主に帰属する当期純損失は3,455百万円となった。ただし、営業キャッシュ・フローは2期連続で30億円超の黒字を確保しており、本業の収益力改善は着実に進展している。
※ 大量データを長期間保存するための磁気テープ型記録媒体。LTOはLinear Tape-Openの略。
2. 2027年3月期の業績見通し
2027年3月期の業績は、売上高29,000百万円(前期比3.4%増)、営業利益1,000百万円(同16.0%増)、経常利益1,100百万円(前期は77百万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純利益500百万円(前期は3,455百万円の損失)を見込んでいる。収益構造の改革断行後初の通期となり、最終利益段階までの黒字化を計画している。成長ドライバーは誘電体材料であり、AIサーバーやスマートフォンの高性能化を背景としたMLCCの需要拡大により、売上高は過去最高を更新する見通しである。磁石材料も車載モーターやウォーターポンプ向け需要の拡大により堅調な推移が期待される。また、前期に苦戦した軟磁性材料については、中国市場の競争環境改善や新規材料の立ち上がりにより収益改善を見込む。一方、LIB関連事業は縮小均衡を進め、経営資源を成長分野へ集中する。営業利益率は3.4%と依然として中期経営計画の経営目標数値(KPI)を下回るものの、収益構造改善は着実に進展している。
3. 中期経営計画
同社は中期経営計画「Vision2026」において、事業ポートフォリオマネジメントの強化を成長戦略の中核に据えている。最大の成果は、不採算事業であった戸田アドバンストマテリアルズInc.(TAM)の解散・清算やBTBMの持分譲渡を決断し、成長分野へ経営資源を再配分したことである。今後は誘電体材料、磁石材料、記録材料を中心に成長を目指す。特に誘電体材料は、生成AIの普及に伴うAIサーバー向けMLCC需要拡大の恩恵を直接受ける分野として期待が大きい。また、磁石材料ではEV向け熱マネジメント用途やグローバル供給体制を強みに安定成長を図る。さらに、足元で苦戦している軟磁性材料については、AIサーバー向け低損失材料や車載向け用途の拡大を通じた復権を目指す。加えて、LTOバックアップテープ向け記録材料やCCUS※(CO2回収・利用・貯留)関連の環境材料も中長期的な成長テーマとして育成していく方針であり、収益性と資本効率の向上を通じて企業価値向上を目指している。
※ 工場や発電所などから排出されるCO2を回収(Capture)し、有効利用(Utilization)または貯留(Storage)する技術。CCUSはCarbon Capture, Utilization and Storageの略。
■Key Points
・創業200周年を誇る老舗の化学素材メーカー
・事業ポートフォリオの構造改革を断行し営業黒字を達成、営業キャッシュ・フローは2期連続30億円超
・AIサーバー等の増加に伴うMLCC需要やLTOバックアップテープ需要により、同社の商機拡大
・2027年3月期は全段階で黒字達成を見込む
(執筆:フィスコ客員アナリスト 中西 哲)