■業績見通し
エムアップホールディングスは、期初時点で2027年3月期の業績予想について公表見送りとしている※。その理由として、さらなる成長加速に向けた事業構造の最適化に伴う組織再編の継続推進に加え、グローバル展開や生成AI等の先端技術への戦略投資など、将来の収益基盤強化に向けた重要な施策を並行して実施する予定であることから、これらが業績に与える影響を現時点で適正かつ合理的に算出することが困難であることをあげている。合理的な予測が可能となった時点で速やかに公表する方針だ。ただ、業績のトレンドはこれまでと同様程度の増収増益率を想定しているようだ。
※ 同社は、2026年6月26日付けで2027年3月期の業績予想を公表した。グループにおける経営資源の「選択と集中」の観点から、一部のノンコア事業について売却を含めた再編を行う方針を決定したことに伴い、コア事業への注力による収益モデルの明確化、及びグローバル展開等を含む各施策の連結業績への影響度について、一定の合理的な算出が可能となったことが公表に至った理由である。2027年3月期の売上高を前期比13.5%増の36,000百万円、営業利益を同15.9%増の5,800百万円、経常利益を同10.5%増の6,000百万円、親会社株主に帰属する当期純利益を同17.9%増の3,500百万円と増収増益を見込んでいる。また、同日付けで、経済産業省が推進する「コンテンツ産業成長投資支援事業(IP360)」に同社グループの「ファンクラブ事業モデルの海外展開」が採択され、補助金の交付が決定したことも公表した。
■今後の方向性
グローバル展開の本格化、次世代ファンビジネスの創出等により成長加速を目指す
1. 今後の成長イメージ
同社のこれまでの基本戦略の軸は、ファンクラブサイトを起点としてロイヤリティの高い会員基盤の拡大を図るとともに、「EC事業」「電子チケット事業」とのシナジー効果を高めるところにあった。今後も、強力IPの獲得や会員基盤の拡大により、既存事業の安定的かつ継続的な成長を見込むとともに、グローバル展開の本格化、「電子チケット事業」の拡充、次世代ファンビジネスの創出、M&Aを含む新規事業の育成を新たな収益ドライバーとして、グループ全体で成長を加速する戦略に変更はない。とりわけ中核となるファンクラブについては「仕組み」から「体験」へ進化させる方向性を明確に打ち出しており、会員管理・コンテンツ、チケット、EC、Web3.0といった多様な接点を有機的に連携させ、シームレスなファン体験を生み出す統合型のプラットフォームへ進化させるため、戦略的投資に積極的に取り組む方針だ。
2. 戦略的投資の主な内訳とねらい
(1) UXアップデート
ファンクラブ、電子チケットを横断したUX(利便性、使いやすさ)の強化により、入会・購買・来場・継続利用まで一気通貫したファン体験を高度化する。また、メタバースのさらなる進化、AIを活用したコンテンツなど、新たなファン体験開発の投資と実用化を通じて価値領域を拡張する。
(2) プラットフォーム進化
ID・外貨決済・データ基盤をグローバル基準で再整備し、ファンダム成長に最適なUXを実現する。また、データに基づくインサイトを生かした戦略・提案力を強化し、グローバルでの競争優位性の確立を目指す。
(3) グローバル展開
現地法人による現地マーケティングにより海外展開を加速するとともに、海外パートナーへの投資を通じて開発リソースを確保する※。事業拡大と開発力強化の両面から持続的な成長基盤の構築を図る。
※ 2025年に米国法人を設立。2026年には韓国法人を設立予定であるほか、ベトナム大手IT企業と資本業務提携し、オフショア開発センターを設立する計画である。
3. 弊社による中長期的な注目点
弊社では、まだまだ伸びしろが期待できる既存事業の深化に加え、ポテンシャルの大きなグローバル展開や各領域で幅広いニーズを取り込む「電子チケット事業」の拡充が、同社の中長期的な成長をけん引する可能性が高いと評価している。特にグローバル展開の本格化は、海外でも人気が高まっている日本のアーティストの活動支援を通じて、会員基盤のさらなる拡大に向けた可能性を広げるものであり、同社の持続的成長を支えるポジティブな材料と捉えることができるだろう。また、ファン体験を生み出す独自の事業モデル(統合型プラットフォーム)は海外でもユニークな存在であることから、実績や知名度が高まってくれば、海外でのアーティスト獲得にも十分に期待がもてる。今回、組織再編を含め、戦略的投資の方向性を打ち出したのは、独自のファン体験を生み出す統合型プラットフォームが具現化しつつあり、そこに確信や勝ち筋が見えてきたことが背景にあると見ている。「仕組み」だけの提供であれば、AIなどの技術に置き換わるリスクがあるものの、同社が提供する「ファン体験」はリアルな没入感や共感や感情といったAIやデジタルの世界では味わえないところに本質的な価値があるため、さらに多様な機能やサービスを付加することで、進化を続けるポテンシャルを秘めていると考えられる。シームレスなファン体験を生み出す統合型プラットフォームに向けて、今後どのような道筋をたどるのか、組織再編や戦略的投資の動きとともに注目していきたい。
■株主還元
配当性向を引き上げ、大幅増配を実施。機動的な自己株式取得にも取り組む
同社は、配当性向の目安を従来の30%から、「40%~50%」へと引き上げた。それに伴って、2026年3月期の1株当たり配当金は前期比11.0円増配となる1株当たり20.0円と大幅増配を実施した(配当性向47.8%)。2027年3月期も今後の業績動向を踏まえ、同4.0円増配の1株当たり24.0円を予定している。弊社では、強固な財務基盤や設備投資等が不要な事業特性に加えて、いくつもの収益の軸が立ち上がってきていることから、今後も利益成長に伴う増配の余地は十分にあるものと見ている。
また、株主還元の充実及び資本効率の向上を目的として、機動的な自己株式の取得にも取り組んでおり、2025年3月期は約3億円、2026年3月期は約10億円の自己株式の取得を実施した。今後もグローバル展開を含む、戦略的投資やM&Aの状況も考慮しながら、引き続き自己株式取得による株主還元を検討する方針である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)