先週の為替市場では、1ドル160円台から一時155円台まで、突然急速な円高が進みました。市場では日銀の利上げ観測など様々な材料が論じられていますが、いずれも以前から唱えられていたものばかりで、新たな円高材料は見当たりません。では、この急激な円高の正体は何だったのでしょうか。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』)
※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2026年9月6日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。市場急変時には号外の配信もあります。
過ぎし花~先週(8/31~9/4)の世界経済・市場を振り返って
先週の大きな動きとしては、為替市場において、突然急速な円高が生じました。円高を引き起こした材料はいろいろと論じられていますが、いずれも以前から唱えられていたようなもので、先週になって新たに加わったような円高材料はありません。おそらく、投機的に円売りを仕掛け続けてきた短期筋の一部が、たまたま円売りポジションを手仕舞ったところ、それがさらなる手仕舞いの円買いを雪崩のように引き起こした、という展開だったと解釈します。
株式市場においては、引き続き気迷い気分が強い状況が続きました。投資家は、株式市況全般が上がるのか下がるのか、物色動向がどうなっていくのかについて、方向感を見失っているように推察されます。
そうしたなか、このところの連銀高官の諸発言を受けて、米金利の先行きについて株式市場が神経質になっていたことから、週末の米雇用統計の堅調さは、景気の底堅さを好感するより、金利先高観の巻き返しを懸念する、という株価の展開となりました。
理由なき急激な円高、その正体
先週の世界市場で目を引いたのは、円相場が突然急速に円高に向かったことでした。米ドル円相場で見ると、日本時間で9/2(水)の正午頃までは、1ドル160円を若干超える水準(円のザラ場安値は160.39円)にありましたが、そこから雪崩式に円高へ向かい始め、9/4(金)朝には一時155.29円のザラ場高値に達しました。
こうした円高の材料としては、「ベッセント米財務長官が(日銀の利上げによる)円高が望ましいと考えているようだ」「9月に日銀が利上げするのではないか」といった思惑を指摘する報道がとても多いです。ただ、そうした観測は少し前からずっと市場で取りざたされていたものであって、先週半ばからいきなり円高が始まった材料ではありえません。
日本時間9/2(水)午前9時頃に、レートチェック(レートチェックについては、後の「理解の種」もご覧ください)が入った、との観測もあるようですが、円高に向かい始めたのはその数時間後なので、レートチェックを大幅な円高の理由にするのも当たっていないと考えます。
結局は、円売りで儲かりそうだと目論んでいた短期投機筋が、何となくこれ以上円安が進みにくそうだと(特に理由もなく)思ったためかどうかわかりませんが、理由はともあれたまたま円の買い戻しを入れたことがきっかけでしょう。
その円買いが、これもたまたま市況をずるずると円高方向に動かし始めたので、何が起こっているかよくわからないが円売りポジションを抱えたままだとまずい、と感じた他の投機筋がさらに円を買い戻す、という事態が雪崩のように広がった、ということが実態ではなかったかと推察します。その推察を支持する確固たる根拠はまったくありません。
円キャリートレード(日米金利差に着目し、日本円を借りて円売り米ドル買いして米ドルに換え、米ドル資産で運用する、といった取引)の巻き戻しが起こった、との説も唱えられています。
もしその説が正しかったとしても、先週日本や米国の金利が大幅に動いたわけではないので、金利差の変化が円キャリートレード解消の要因だったということはないでしょう。単に(理由はともあれ)円高方向に相場が動いたため、損失回避のためのキャリートレードの手仕舞いが起こっただけでしょう。
(では、今後また円キャリートレードが積み上がるかというと、米ドル円相場の変動率が高まっている(日米金利差で儲けられても、為替相場の変動で損をするかもしれない事態になっている)ことから、積極的に円キャリートレードを推し進める動きはしばらくはないと考えます。)
結局、先週の円高には何も理由はなく、偶然に円高方向への動きが投機の手仕舞いで増幅されただけ、だと考えています。別の言い方をすると、多くの識者が「高市政権の財政拡張政策が日本の財政への不安を強め、(日本の国債売りと)日本円の売りを引き起こしている」と騒いでいますが、つい最近までの円安は投機の売りが主導していたもので、ちょっと投機家が手仕舞えば脆くも円高方向に走るようなものであった、と言えるでしょう。
日本国債を巡る2種類の海外投資家
海外投資家の日本の債券や日本円についての見解を探ると、2種類の投資家がいるようです。
1つは、年金などの長期投資家で、日本の財政が破綻に急速に向かっている、などとはまったく考えておらず、日本の国債や日本円を押し目で買ってよい、と考えている向きです。日本の長期金利はある程度は上がってはいますが、日本の現在の(特に物価を含めた名目ベースで)経済成長率を踏まえれば、10年国債利回りが3%や4%に上がっても不思議はない(経済の実力に沿った自然な長期金利上昇だ)、と判断する投資家も多いです。
もう1つは、やはり日本の財政が破綻に急速に向かっている、などとはまったく考えていないが、「日本の財政は破綻するぞ、危ないぞ~」と叫びつつ日本国債や日本円を売ると、うろたえた別の投資家たちが売りに回るため、売り込まれたところで「ごっつあんです」と買い戻して儲けよう、という投機筋です。
筆者も、日本の財政懸念などにより円安に向かうとは見込んでおらず、いったんは円高に向かうと予想します(極端な円高になるとは考えていませんが、自主開催セミナーでは、1ドル150円割れはありうるだろう、との予想値を示しています)。
ただし米国の政治や経済の体たらく(合わせて米国株式や米国債券が売り込まれる可能性)から、円高というより米ドル安が大きく進んでしまうリスクは、あると懸念します。
ただし短期的な円相場としては、週末にかけて円高がいったん止まったことから、短期筋のポジションの巻き戻しは一巡した可能性があると判断します。そのため当面は、米ドル円相場は膠着状況に陥り、その先の焦点は米国発の米ドル安にいつ移行するか、ということになるでしょう。
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方向感を失う内外株式市場
内外株式市況に話を移すと、多くの投資家が投資環境の不透明感から、全体相場についても個別業種の物色について、方向感を失っている感があり、売買金額も総じて盛り上がらず、株価も落ち着きなく上下動したように思います。
市場の注目は、米国の金利動向にもっぱら向かっているようです。このところ、米連銀高官の諸発言が、タカ派方向とハト派方向で入り乱れたため、市場が金利の先行きに関心を奪われてしまった感があります。このため週末(9/4、金)発表の8月分の米雇用統計が堅調な内容でしたが、市場は米景気の底堅さを好感したというより、金利先高観の持ち直しを悲観したようでした。
この点は、後の「盛りの花」で詳述します。
騰落率ランキングに見る欧州悲観論
ここで、先週の市況動向を、騰落率ランキングで押さえましょう。
先週の世界の主要な株価指数の騰落率ランキング(現地通貨ベース)で、ベスト10は、
ブラジル
アルゼンチン
フィリピン
エジプト
インドネシア
シンガポール
ルクセンブルグ
スリランカ
ポーランド
ニュージーランド
でした。
一方、ワースト10は、
トルコ
イスラエル
日経平均
ドイツ
ハンガリー
韓国
フランス
スウェーデン
パキスタン
南アフリカ
でした。
日本株は、週途中まではAI・半導体関連銘柄中心に株価が軟化して、日経平均が下落(一方、TOPIXは堅調に推移)した、という地合いでした。週末には日経平均が巻き戻して上昇したものの、週を通じて見れば日経平均の下落率が高めになりました。
先週の外貨相場(対円)の騰落率ランキングをみると、先週対円で上昇した(円安になった)通貨は一つもなく、完全な円高商状でした。
一方、騰落率ランキングワースト10は、
イスラエルシェケル
ニュージーランドドル
フィリピンペソ
チリペソ
マレーシアリンギット
英ポンド
トルコリラ
スイスフラン
チェココルナ
アイスランドクローナ
でした。
欧州では、株価指数について独仏の下落率が高めであったうえ、通貨相場でも欧州通貨で下落率が高めなものが多かった(ユーロもワースト14位)状況でした。景気の状況などから、欧州悲観論が力を得つつあるのかもしれません。
※本記事は有料メルマガ『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』2026年9月6日号の一部抜粋です。毎週いち早く馬渕氏の解説をご覧いただくには、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した項目もすぐ読めます。
『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2026年9月6日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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