■業界環境
1. 業界を取り巻く環境
アーバネットコーポレーションの中核事業である都内の都市型賃貸マンションは、入居者及び投資家双方の需要に支えられて堅調に推移している。東京都総務局「東京都の人口(推計)」によると、同社が供給エリアとしている東京23区の人口は、東京都への転入超過等を背景に増え続けている。特に、若年層の流入や、晩婚化・離婚率の上昇に伴う単身世帯の増加が、都市型賃貸マンションの賃貸需要を支えている。2020年はコロナ禍で都心への転入超過が一時的に止まったものの、2022年には前年比プラスに転じており、一過性との見方ができる。
一方、投資家からの需要も活発になっている。将来の年金受給や老後の生活不安を抱えた20~30代の個人投資家からの需要の増加に加え、比較的安定したキャッシュ・フローが期待できる投資対象として賃貸収益物件が再評価されている。最近では都心・駅近の好立地物件は販売価格が上昇し、利回りは低下傾向にあり、さらに長期金利の上昇による影響も懸念されるものの、インフレに強い不動産※への需要の高まりを背景として、富裕層や長期資産形成を目指す若年層等による購入意欲は堅調である。
※ 不動産がインフレに強い理由として、一般的には、1) 実物資産として価格が上昇する、2) 物価上昇に連動して家賃も上昇する、3) 借入金の実質的な負担が軽減する、などが挙げられる。
さらに、円安を背景とした海外からの資金流入等を含め、潤沢な資金を集めたファンドやリートが、安定稼働を期待できる収益物件に投資を拡大していることも、都市型賃貸マンションの品薄感を強める要因となっている。
(株)不動産経済研究所によると、首都圏における投資用マンションの供給戸数は2007年の9,210戸をピークに減少傾向をたどった。リーマンショックによる金融の引き締め、事業者の倒産・撤退、自治体のワンルームマンション建築規制(最低面積の規定、付帯設備の設置等)の強化などが背景にある。しかし、2010年に底を打ち、その後は金融機関の融資姿勢の変化や根強い需要に支えられて好調に推移してきた。2024年以降は、都心における用地取得が困難なため、供給戸数の減少や品薄感による販売価格の上昇傾向も見られる。また、横浜市や川崎市等における供給戸数が高いシェアを占めるようになってきた。
2. 業界における課題
開発環境については、都心人気エリアの駅近物件は、引き続き厳しい仕入環境が続くと見られる。また、土地価格や工事原価の上昇による利益率の低下、働き方改革並びに労働力不足に伴う建設工期の長期化、建設資材の供給不安といった問題もある。加えて、金利上昇や景気減速に伴い、金融機関による不動産融資厳格化の動きにも注意する必要がある。しかし、これらの厳しい状況は、業界の淘汰を促し、実績のある同社にとっては残存者利益を享受できる好機となり得る。
販売環境に目を向けると、外国人投資家による不動産投資は円安の影響も手伝って年々拡大傾向にある。特に、同社の事業領域であるマンションやホテルへの投資金額も高水準が続いており、安定的な収益が期待できる都心の優良物件への人気が高い。そのため、年金支給開始年齢の引き上げや支給額の減額などへの不安を抱える個人、相続税対策を目的とする富裕層に加えて、外国人投資家やファンド投資家の存在感がより高まっている。また、都心部では、単身者数の増加、インバウンドの増加、高齢者数の増加により、空間開発ニーズが多様化しており、様々なニーズに対応した価値ある空間の提供が求められている。
■業績動向
堅調な販売環境の継続を背景に高い業績水準を維持
1. 過去の業績推移
過去の業績推移を振り返ると、同社の業績は主力である都市型賃貸マンションの販売戸数拡大がけん引してきた。2008年のリーマンショックによる金融引き締めを背景に、2011年6月期に底を打ったものの、金融緩和の動きとともに開発物件が増加し、業績は回復した。以降は拡大基調をたどり、2020年6月期は2期連続で過去最高業績を更新した。2021年6月期以降は業績の伸びがやや鈍化したものの、成長路線を打ち出した2024年6月期以降はケーナイン連結化やシナジーもあり、高い伸び率を実現している。再び過去最高業績を連続更新中である。
利益面も売上高に連動して成長してきた。しかし、現状では建設資材や人件費の高騰を背景とする工事原価の上昇により、これまで10%前後で推移してきた経常利益率は低下傾向にある。一方、資本収益性を示すROEは11%を超える水準を維持している。
財務面では、開発物件の積み上げなどに伴い有利子負債残高も増加傾向にある。特に2025年6月期以降、棚卸資産(販売用不動産と仕掛販売用不動産の合計)の拡大により、有利子負債残高も大きく増加した。しかし、内部留保の蓄積に加え、2015年6月や2019年12月の公募増資(それぞれ約13億円、約20億円)、2023年9月に発行した新株予約権の行使※に伴う資本増強(合計約25億円)により、2026年6月期末の自己資本比率は約25%を確保している。
※ 2023年9月11日付で発行した新株予約権(合計62,000個)のうち残りの20,000個(約9億円の資金調達)が行使され、2025年9月9日をもってすべての行使が完了した。資金調達の総額は約25億円となり、当初予定どおり、事業用地の取得費用や工事代金、M&A資金などに充当された。
また、2014年6月期以降の固定資産も拡大傾向にある。安定収益源の確保や融資担保となる賃貸収益物件の取得、研究開発として開始したホテル事業によるものだ。また、近年は用地取得の困難な状況が続くものの、物件厳選の方針による棚卸資産の積み上げや固定資産の増加により資産残高も拡大傾向で推移している。2024年6月期はケーナイン連結化が棚卸資産及び固定資産の増加に寄与すると、2025年6月期以降は積極的な用地取得により棚卸資産が大きく拡大した。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)