◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「習近平の訪米:日本と台湾は米中交渉のどこに注目すべきか(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
※この論考は9月15日の< Xi Jinping’s US Visit: What Japan and Taiwan Should Watch in US-China Bargaining>(※2)の翻訳です。
管理された競争関係は日本に大きな影響を及ぼす
日本は、安全保障上の主たる同盟国と最大の貿易相手国との間で手に負えない対立が生じることを望んでいない。米中関係がより予測可能になれば、突発的な地域情勢悪化のリスクが低下し、貿易・投資環境の安定性が増すだろう。
日本政府が特に懸念しているのは、その安定がどのような条件で得られるかだ。東シナ海で中国軍が活動を活発化させ、地域安全保障環境が厳しさを増す中、日本は日米同盟の信頼性に大きく依存している。台湾海峡を巡る情勢も、日本の防衛計画や地域リスク評価において重要性が高まっている。
米中接近によって抑止力が弱まったり、米国による安全保障上のコミットメントが揺らいだりしない限りは、米中関係の緊張緩和は日本の国益に資するはずだ。日本政府は、東シナ海や台湾海峡など、米国による安全保障と対中関係の広範なバランスに影響を与えるあらゆる変化を注視する必要がある。
経済安全保障には別の懸念が生じる。日本は半導体サプライチェーンのレジリエンス強化、重要鉱物の調達先多様化、中国への過度な依存を軽減する取り組みに多額の投資をしているが、日本の産業界は依然として中国の市場、加工能力、戦略的投入資源と深く結びついている。米中間で選択的な経済合意があれば、貿易や景況感への圧力は和らぐが、日本が経済安全保障政策の再構築を進めてきた規制環境も変化するだろう。
したがって、米国のテクノロジー規制や重要鉱物の取り決め、投資規制の変更には、二国間関係にとどまらない重要な意味がある。日本政府としては、米国政府が主な対中政策について同盟各国と連携する姿勢を維持するのかどうかも注視したいところだ。
日本にとっては米国の政策がどこへ向かうか分からないことも、中国の出方が分からないのと同じくらい重要な問題だ。
台湾が直面するもう一つの境界線の問題
台湾も同じような状況にあるが、その戦略的立場はさらに脆弱だ。台湾政府の懸念は、首脳会談の共同声明に台湾への言及があるかどうか、台湾問題が直接協議されるかどうかにとどまらない。より重要な問題は、米国政府が対中政策のさまざまな分野でどの程度柔軟性を示すかにある。
首脳会談に臨む中国政府は、中間選挙を前にトランプが経済的成果を強く求めていることを認識している。したがって、農産物の大量購入、投資の約束、市場アクセスに関する譲歩は、その経済的重要性以上に政治的価値をもたらす可能性がある。台湾政府は米国政府がどのような対応を適切と判断するかを注視することになるだろう。
関税や通商規制については、首脳同士での調整の余地が十分にある。一部のテクノロジー規制についても多少の調整が可能だ。それに対し、安全保障政策は制度的な制約が大きい。米国の台湾政策は、議会、国防機関、官僚機構に加え、中国に対する広範な戦略的評価で決まるからだ。
こうした制約があるため劇的な変化が起こるまでには至らないだろうが、取引型外交に効果がないわけではない。政策は言葉遣いや実施順序、優先順位の変更を通じても変化しうる。中国政府との広範な合意を優先して、決定の先送りや規制の修正、あるいは対立の大きい問題を一時的に棚上げするといった対応も考えられる。
つまり現実的な懸念は突然の劇的変化ではなく、政策が少しずつ調整されていくことだ。首脳外交の本当の影響力は、従来の取り決めを正式に覆すことはないまま、どの政策を優先するかを変えられることにある。
台湾は、大統領の裁量で動く部分と、米国の制度によって守られている部分を区別して考える必要がある。
問われるのは友好ムードではなく交渉の境界線
9月の首脳会談は、表向きの演出よりも実質的な交渉内容から多くのものが見えるだろう。米中関係が過去数十年のように広範に交流する状態に戻る可能性は低いが、あらゆる問題で対立が長期化すれば、両政府にとって痛手だ。そのため、長期にわたる戦略的競争関係を維持したまま選択的な取引を行う可能性が高い。
トランプにとってそのような取引は、中間選挙を前に外交政策のディール(取引)を国内政治向けのアピール材料に変える機会になる。習にとっては、米国の政策の方向性がより明確になり、経済・テクノロジーの両面で同時に圧力を受けるリスクが低下する。
この新たな秩序に対して、日本と台湾の立場は異なる。日本は、米中の関係改善が、同盟の信頼性や経済安全保障上の政策協調と両立するかどうかを判断しなければならない。台湾は、米国の政策のうち簡単には変わらない部分と、中国政府との交渉次第で修正されうる部分を見極めなければならない。
首脳会談が成功すれば、緊張が緩和され、この地域に実質的な経済的利益がもたらされる可能性がある。問題はその交渉が及ぶ範囲だ。日本と台湾にとって地域の安定が持続するかどうかは、トランプと習の友好ムードでは決まらない。中国政府と個別の取引が行われたとしても、それが米国による長期的な安全保障上の約束を損なわない範囲にとどまるかどうかにかかっている。
5月、北京を訪問して米中首脳会談を行なったトランプ大統領と習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://grici.or.jp/7563