■事業概要
3. 同社の強み
STIフードホールディングスの強みは、製造技術力、一貫生産体制、フードロスの削減にあり、コロナ禍や原材料高を乗り越える原動力にもなった。祖業が商社のため、海外を含め同社自ら検品や買付を実施していることから、調達面での強みも持っている。また、小売最大手であるセブン-イレブンとの間で構築してきた関係も強みといえる。水産食材・食品は、行楽需要やイベント需要、世界の漁獲高などにより、需給が大きく変動する。こうした需給変動があっても全国の店舗で欠品が生じないよう、小売最大手のセブン-イレブンが収集するデータや知見を利用しつつ、日々需給をチェックし適正在庫の確保に努めている。また、同社では、マーケティングに強いセブン-イレブンの協力によって市場変化に合わせた商品開発が可能となる一方、セブン-イレブンにとっても、同社と取引することで健康志向や少子高齢化に向けた品揃えを強化することができる。特に本格的な水産系食品・食材を大量生産できる水産系ベンダーが同社以外にないことから、ファミリーマートやローソンといったコンビニエンスストア他社との差別化要因にもなっている。結果として、同社の業容拡大とセブン-イレブンの品揃え強化というWin-Winの関係が成立するため、関係は将来に向けて続いていくものと考えられる。
(1) 製造技術力・特許の強み
水産資源は鮮度が命と言われ、塩や砂糖、味噌、醤油、酒といった基礎調味料だけで、素材のおいしさを十分に引き出せるとも言われている。しかし、近年の工業化によって、鮮度やうま味の維持のため殺菌剤や鮮度保持剤など基礎調味料以外の補助材料を使うようになった。こうしたなか、同社には鮮度の微差さえ見逃さない機械以上に精密な鼻と目を持ったプロがいるため、補助材料を安易に採用せずに新しい技術・製法を開発することができ、結果として高い参入障壁を築いてきた。現在でも、常時20~30の新技術を開発しテストマーケティングを実施しており、以下のような大きな技術革新も3年に1回程度実現している。さらに、特許の取得も積極的に行っており、水産業界でもトップクラスの取得特許数になっている。
1997年8月に生鮮イクラの静菌管理技術を開発したことで本物のサーモン卵のおいしさを引き出すことに成功し、同社はコンビニエンスストア向けおにぎり用味付イクラのパイオニアとなった。静菌管理技術は現在の成長につながる基盤技術といえる。2014年5月には三段階焼成・ガス置換パック技術を開発した。なかでもガス置換パック技術は密封した包装から99.7%空気を除去して窒素を充填することによって、家庭での焼きたてのおいしさをパックに封じ込める技術で、保存料を使わずに消費期限を従来の約3日間から約10日間へと延長することが可能となった。2018年1月にはホットパック技術を開発した。サーモンフレーク(特許取得済み)は一般家庭で焼いて手でほぐしたフレークとほぼ変わらない食感と形状で、焼きタラコ(特許出願中)はオーブントースターやグリルなどで焼成した焼きタラコと変わらない食感、うま味、風味をもっており、同社食材の全国展開に弾みがつく商品となった。2021年4月にはカップサラダ・ガス置換技術を開発し、商品のパッキングにガス置換の技術を利用することで、薬品を使わずに鮮度を保持できるようになり、塩や酒の浸透力だけで素材の「うま味」を生かす「パウチ惣菜」の開発につながった。こうした技術を利用した「さばの塩焼き」や「たことブロッコリーバジルサラダ」は、セブン-イレブンの人気定番商品となっている。同社は現在も、賞味期限のさらなる延長など様々な新技術の開発に取り組んでいる。足もと大きな新技術の投入間隔がやや空いたが、2026年12月期下期に特許を取得した新技術による新製品を市場投入する予定である。
(2) 一貫生産体制によるおいしさの品質向上
同社は、一貫生産と徹底した温度管理により冷凍・解凍の回数を1回に削減する(産地で冷凍した素材を工場で解凍し一気に製品化する)ことで、おいしさの品質向上を図っている。分業を前提とする大手メーカーの生産体制では、分業に比例して冷凍・解凍の回数が増えてしまい、うま味成分が漏出するなどおいしさに重大な影響を与えている。一貫生産と分業生産という考え方の違いが根本にあるため、差別化以前の参入障壁ともいえる。また、一貫生産によって、素材の鮮度、素材の大きさ、肉づきなどの基準を明瞭化し、鮮魚の裁断や切り身づくりの工程を工業部品のように標準化することで、旬や漁場、船、流通、調理によって1つ1つが異なる自然の水産素材を、品質の安定性や量産化、効率化を図りながら生産することができる。なお、20年近くにわたるプロの鼻と目による分析の蓄積により、おいしさの根拠となるアミノ酸や脂肪分、水分、油分、塩分、Brix、pH、色味、硬さ、粘度、歯ごたえなど舌や歯で感じる「味」すべてを数値化・標準化し、目利きの伝承を実現した。また、コンビニエンスストア向けの惣菜製造は一般的に労働集約的と言われるが、同社は待遇や労働条件などの面からも高いスキルを維持する体制を構築している。
(3) フードロスとコスト削減の両立
一貫生産は、素材を使い切ることによって徹底したフードロス対策にもなっている。例えば、大型サイズに限定して集荷し頭部をカットしたのちに冷凍して日本に運ばれてきた銀鮭などの素材は、同社工場搬入後は唯一の解凍工程を経たのち徹底した温度管理のもとで調理されるため、すべて無駄なく使うことができる。現在では、切り身(背側・ハラミ)を焼魚やおにぎり具材に、中骨を缶詰に、カマ・ハラス・ヒレ・端材も焼魚(カマ・切り身)に商品化され、廃棄は1%に満たず、ほぼ全身が商品化されている。他の魚種でもこうした全身の商品化を進めているが、フードロスを削減することが原材料コストの削減にもつながっている。
ところで、同社はSDGsへの取り組みも進めている。魚食の世界的拡大により各社とも調達リスクが増しているが、しかしリスクはそれだけにとどまらず、地球温暖化による海面水温の上昇によって漁場が変わるなど、漁業自体の持続可能性が危機にさらされている。同社は現状、販売力から商社や水産会社の協力が十分得られているようで懸念点はないが、同社製品の原材料が魚であることを考えると、同社のSDGsへの取り組みは切実といえる。このため同社は、水産系食品メーカーの使命として、上記のようなフードロス・食品廃棄物の削減や持続可能性を考慮した原材料の調達を実践している。持続可能性の点では、鮭の認証原材料の使用や陸上養殖事業への出資だけでなく、自ら養殖事業に本格的に参入することも検討している。このほか、地球に優しい事業活動の観点から温室効果ガスの排出削減を目指しており、電気式フリーザーから窒素凍結機に入れ替えることで、CO2の排出量を削減する方針である。また、STIミヤギでは、地元の石巻市にある宮城県水産高等学校の高校生を支援、東日本大震災からの復興や後継者不足など深刻な問題を持つ水産業復興を支援している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)