エブリーは、国内最大級の食生活プラットフォーム「デリッシュキッチン」を運営し、メーカー・小売向けのMarketing Solutionビジネスと、ユーザー向けのConsumerビジネス(プレミアム会員サービス等)を展開している。管理栄養士等の専門家が監修したプロコンテンツのレシピ動画を強みに、アプリ・ウェブ合算のMAUは3,100万超、SNSフォロワー数は1,300万超、プロコンテンツ数は57,000本超に達する。加えて、伊藤忠食品、加藤産業、旭食品といった食品卸との協業により、全国のスーパーマーケット店頭に11,300台超のデジタルサイネージを設置し、オンラインの食メディアとオフラインの購買接点を一体で押さえたリテールメディアを構築している点が最大の特色となる。サイネージ端末は卸が購入・設置し、同社が広告収入の一部をレベニューシェアする資本効率の良いスキームで、展開は購買データが蓄積する食品スーパー業態に絞り込む規律を保っている。
同社の強みは、第一に、購買データに基づく広告効果の実証力である。サイネージにはビーコンやAIカメラが搭載され視聴データを取得できるほか、小売からID-POSデータを取得し、スマートフォンの広告IDと突合することで「ユーザーがいつ何を検索し、何を作り、何を買ったか」を一気通貫で可視化できる。このデータアセットは唯一無二であり、実際に約8割の案件で広告接触者の売上リフト(平均121%)を実証している。第二に、競合と直接ぶつからないポジショニングである。ユーザー投稿型・静止画のクックパッドはデータが蓄積されない構造でマーケティング支援領域では競合せず、クラシルはドラッグストア等を主な顧客とするリワードメディアの運営へ軸足を移すなかにおいて、食品・飲料に特化しプロコンテンツで品質を担保する同社の主戦場では優位性が際立つ。第三に、ロイヤル顧客への深耕モデルである。年間取引1千万円以上のロイヤル顧客は80社(前期比29.0%増)に拡大しており、タイアップ広告、運用型広告、ユーザーマッチング等の複数ソリューションをブランド横断で提供することで単価を引き上げている。顧客は大手食品・飲料メーカーの比重が高く、ロイヤル顧客の平均単価は4,000万円規模に達する。
2026年6月期は売上高5,025百万円(前期比18.2%増)、営業利益324百万円(前期は24百万円の損失)と黒字転換を果たした。ロイヤル顧客の増加に伴う顧客単価の向上によりMarketing Solutionビジネスの売上高が4,032百万円(同28.2%増)と全社を牽引する一方、販管費の増加を同1.9%に抑えるコストコントロールが効いた。Consumerビジネスにおいても、有料課金ユーザー数の増加等により前期比10.0%増と着実に成長した。売上総利益率は運用型広告等の構成比上昇により60.8%(前期62.5%)へ低下したが、今後も売上ミックスが大きく変わる想定はないようだ。続く2027年6月期は、売上高5,854百万円(前期比16.5%増)、営業利益530百万円(同63.3%増)を見込む。Marketing Solutionで5,305百万円(同31.6%増)と高成長を引き続き見込み、KDDIグループ向け受託等のその他ビジネスの縮小を吸収して経営資源を主力事業へ集中させる。季節性としてはメーカーの出稿が増える年末の第2四半期に売上・利益が偏重する傾向が続くようだ。
市場環境では、インターネット広告費は10年で約4倍に拡大するなか、2025年は総広告費の50%以上がインターネット広告費となっている。ソーシャルメディアマーケティング及びリテールメディア広告の市場拡大が今後も継続する見通しとなっており、中でも同社は食品・飲料業界の広告宣伝および販売促進市場を主要な事業領域と位置づけ、シェアの拡大に注力していく。具体的には、広告宣伝費市場(約0.7兆)と販売促進費市場(約1.5兆円)の合計約2.2兆円に対して、食品・飲料業界 有力企業100社の広告宣伝費・販売促進費におけるデジタル化の規模のシェア率20%となる約1,000億円をターゲットとしている。
将来戦略では、提供価値の高度化によるソリューションの拡張や取引ブランドの横展開、継続出稿の獲得に伴う単価の拡大により、引き続き顧客のロイヤル化を図る。また、小売DXの「retail HUB」が新たな柱に育ちつつある。2026年9月には北海道・東北地盤の大手スーパー、アークスグループへの導入が決定した。小売アプリ経由の人流・購買データは広告効果検証の精度向上にも寄与する好循環が期待される。Consumerビジネスでは2026年2月開始のファミリープラン(月額720円)や冷凍宅配弁当「Meals」で収益獲得の裾野を広げ、レシピ提案AI「デリッシュAI」による会員サービス強化と、料理を決める前のインサイトデータを広告商品化する構想も進む。生活者インサイト調査「デリッシュリサーチ」では、9月に公表した食品の消費税減税に関する1,000人調査で5人に1人が自宅料理を増やすと回答しており、内食需要の拡大はメーカーの販促意欲を通じて同社への追い風となり得る。中期的には売上ミックスを大きく変えずに販管費を緩やかな増加にとどめ、営業利益率15~20%を目指す考えで、切り上げ余地は大きい。
株主還元は、現在は無配であり、安定的な利益創出が定着したタイミングでの配当開始を基本方針とする。黒字化を果たした今期以降の利益積み上げが還元開始への試金石となろう。
総じて、エブリーは、「デリッシュキッチン」の圧倒的なユーザー基盤と、食品卸との協業による店頭サイネージ網というオンライン・オフライン両面の資産を、購買データで接続した独自のリテールメディア企業である。黒字化を経て、今期は営業利益63%増と収益化が本格化する局面にあり、ロイヤル顧客の積み上げとretail HUBの横展開が中期の成長ドライバーとなる。「デリッシュキッチンの会社」というイメージを超えて、食のマーケティングDX企業としての成長戦略が市場に浸透すれば、評価余地は広がろう。利益率15~20%という中期像の実現に向けた進捗に注目していきたい。