本日お伝えしたいこと
松岡哲博氏(以下、松岡):みなさま、こんにちは。株式会社マツオカコーポレーション取締役上席執行役員経営企画部長の松岡です。本日は、当社グループの個人投資家向けIRセミナーをご覧いただき、誠にありがとうございます。
本日初めて当社グループを知る方にも、当社グループがどのような会社なのかをわかりやすくお話しします。どうぞ最後までお付き合いください。よろしくお願いします。
本日は3つの点をお伝えします。1つ目は、マツオカがどのような会社なのかという点です。当社グループはアパレルメーカーから服の生産をお任せいただき、世界各地の工場でものづくりを行うアパレルOEMメーカーです。
2つ目は、なぜ当社グループがアパレルメーカーから選ばれるのかという点です。当社グループの強みは、単に海外に工場を持っていることだけではありません。生産地を見極め、工場を立ち上げ、そこで働く人や技術を育成する力にあります。
3つ目は、成長の成果をどのように株主のみなさまへお届けするかという点です。足元の業績、中期経営計画、成長投資、株主還元についてお話しします。
会社概要
松岡:まず、マツオカコーポレーションの概要についてご説明します。当社グループは、アパレルメーカーに代わり服づくりを行うアパレルOEMメーカーです。
お客さまが企画・販売する商品について、素材の調達から縫製、品質管理、物流、納品までを担っています。
当社グループの事業は大きく2つに分かれます。主力である縫製事業は、売上高の8割以上を占めています。もう1つは、ラミネーションフィルム事業です。
現在、生産拠点は中国、ミャンマー、バングラデシュ、ベトナム、インドネシアの5ヶ国に14工場あります。グループ従業員数は2万2,106人です。このグローバルな生産体制を基盤とし、世界の服づくりを支えています。
沿革
松岡:次に、当社グループの歩みをご説明します。当社グループは広島県で呉服店として創業し、1956年に会社を設立しました。その後、洋服の量産を担うアパレルOEMメーカーへと事業を拡大しました。
大きな転機となったのは、海外生産への移行です。1982年に海外での生産を開始し、1990年代には中国に生産基盤を構築しました。1998年には国内工場を閉鎖し、海外生産に軸足を移しました。
2000年代以降は、ミャンマー、バングラデシュ、ベトナムへと進出しています。他社に先駆けて新たな生産地を開拓し、現地で工場を育ててきました。
2017年には、国内縫製メーカーとして初めて、当時の東京証券取引所市場第一部に上場しました。上場で調達した資金は生産能力の拡大と品質向上に活用しました。翌年にはインドネシアへ進出し、現在の5ヶ国体制となっています。
前中期経営計画では約100億円の工場投資を行い、ベトナムに2工場、バングラデシュに1工場を新設しました。その結果、中国以外への生産シフトが進み、ASEAN諸国などでの生産比率は70パーセントを超えています。
このように、新たな生産地を開拓し、そこで工場を育ててきた歴史が、現在のグローバルな生産体制へとつながっています。
今年度からは、新たな中期経営計画に基づき、さらなる生産能力の拡大を進めています。
事業概要
松岡:続いて、当社グループの事業と生産体制についてご説明します。主力である縫製事業では、国内外のアパレルメーカーからの依頼を受け、カジュアルウェア、ワーキングウェア、インナーウェア・カットソーなど、幅広い衣料品を生産しています。
完成した商品は、アパレルメーカーを通じて世界中の消費者のみなさまに届けられます。
当社グループは5ヶ国で14工場を展開しており、そのうち12工場が縫製工場です。各国の人財、コスト、技術、立地条件などを踏まえ、それぞれの工場の特性を活かし、グループ全体で生産を支えています。
2026年6月末時点のグループ従業員数は2万2,106人です。縫製事業においては、従業員数と一人ひとりの技術力が生産能力を支える重要な要素です。
もう1つの事業として、ラミネーションフィルム事業があります。これは、生地に機能性フィルムを張り合わせ、主にアウトドアウェアなどに使用される透湿防水素材を製造しています。
透湿防水とは、外部からの水を防ぎながら、衣類内部の蒸気を外部に逃がす機能です。中国とベトナムの工場で、フィルムの研究開発からラミネート加工までを一貫して行っています。
縫製事業 生産工程
松岡:ここからは、当社グループの主力である縫製事業について、「服ができるまで」の工程をご説明します。
当社グループは自社工場を保有していますが、本社では生地の調達や生産計画、物流の手配なども行っています。
つまり、工場を運営するメーカー機能と、サプライチェーン全体を管理する商社機能の両方を持っていることが、1つの大きな特徴です。
お客さまであるアパレルメーカーからご依頼をいただくと、本社が生地の調達や生産計画を行い、工場での生産に入ります。
工場では、生地の確認、裁断、縫製、洗い、仕上げ、品質検査を経て製品となり、完成した商品はお客さまのもとへ出荷されます。
「縫製」と聞くと、ただミシンで縫う仕事をイメージされるかもしれませんが、実際にはそれだけにとどまりません。工場によっては、編み、染色、デニム加工、プリーツ加工など、高付加価値な加工技術にも対応しています。
こうした技術を各工場の特性に応じて備えることで、幅広い商品やお客さまの要望に対応しています。
また、自社工場を保有していることから、お客さまと工場間の連携がしやすく、品質や納期の管理をスムーズに行える点も当社グループの特徴です。
当社グループは、それぞれの工場の特性を見極めながら、人財の育成や技術指導を行い、お客さまの要望に応える工場へと成長させてきました。この工場作りと工場を育てる力こそが、当社グループの事業の特徴です。
以上が、事業の概要です。
続いて、実際のものづくりの様子を動画でご覧いただきます。ご覧いただくのは、ベトナムのバクザン工場です。それではご覧ください。
荒井沙織氏(以下、荒井):以前のセミナーで拝見した別の工場もそうでしたが、こちらの工場も広々としており、とてもきれいですね。
松岡:ありがとうございます。実はグループの中でも古いほうの工場になります。
荒井:そうなのですね。古くてこのような状態なのですね。
松岡:長く運営している分、非常に熟練した方もたくさんいらっしゃり、高付加価値の商品が多くあります。
坂本慎太郎氏(以下、坂本):プリーツ加工のようなものですね。
松岡:そうですね。
荒井:見ていて楽しかったです。
坂本:あのように製造されるのですね。おもしろいです。
荒井:また別の動画も、別の機会にご紹介いただければと思います。貴重な動画をありがとうございました。
競争優位性は、グローバル生産ネットワークを構築・進化させる力
松岡:続いて、当社グループの強みについてご説明します。当社グループの競争優位性は、グローバル生産ネットワークそのものではなく、そのネットワークを構築し、進化させてきた力にあると考えています。
具体的には、新たな生産地を見極め、工場を立ち上げ、そして工場を育てる力です。まず、お客さまのニーズはもちろん、人財の確保、コスト、物流、地政学リスクなどを総合的に判断し、新たな生産地を選定します。
その後、工場を建設し、設備を導入します。
しかし、ここまでは他社でも可能です。当社グループが最も重視しているのは、その次の「工場を育てる」段階です。
現地で人財を採用し、縫製技術や生産管理のノウハウを伝えながら、生産性と品質を高めていきます。また、生産量を増やすだけでなく、より難易度の高い商品にも対応できる工場へと成長させていきます。
このような取り組みを積み重ねることで、品質、納期、監査、サステナビリティなど、お客さまが求める水準に応えられる工場を実現しています。
その結果として、継続的な受注や増産、さらには難易度の高い商品の生産にもつながります。
当社グループは30年以上にわたり海外での工場運営を続けてきました。その中で培ったノウハウや、各国で育った人財が次の工場作りを支える仕組みは、簡単に真似できるものではないと考えています。
現在の5ヶ国14工場の生産体制は、こうした工場育成を積み重ねてきた結果です。そして私たちは、一つひとつの工場を、お客さまから継続して選んでいただける「選ばれる工場」へ進化させていきたいと考えています。
坂本:質問を挟みながら進めていきたいと思います。御社は「選ばれる工場」になるということを目標に掲げられています。世界には御社のような縫製工場がたくさんあり、ライバル企業も多いと思います。
その中で、世界的なトップブランドが御社に発注を依頼している一番の決め手が何なのかを教えてください。
松岡:確かに、世界には多くの優れた工場があります。それは事実ですが、あえて決め手を挙げるとするならば、私たちがただ縫うだけの会社ではなく、「工場を育てる会社」であるという点だと思います。
具体的には、自社で経営し、自ら工場を運営しているところが非常に大きな決め手になっていると考えています。
さらに申し上げると、毎日の改善活動が現場で実施されており、その一つひとつの積み重ねが私たちのノウハウとなっています。このような取り組みを把握し、お客さまに根拠を持って提示できることが、非常に大きな信頼につながっているのではないかと考えています。
坂本:同じところから何度も発注が来る中で、そこで生じる問題を自社内で共有し、積み上げていくことが次のリピートの強みとなり、全体のクオリティ向上につながっているということですね。
松岡:そのとおりです。
なぜ今「選ばれる工場」が必要なのか
松岡:ここでは、「選ばれる工場」という考え方と、それを当社グループが目指している理由についてご説明します。
当社グループは中期経営計画「BEYOND 2028」において、「選ばれる工場」になるということを目指す姿として掲げています。
その背景には、アパレル業界を取り巻く環境が大きく変化していることが挙げられます。近年、地政学リスクの高まりやサプライチェーンの不安定化、新興国での人件費上昇、人財確保の難しさなど、生産を取り巻く環境には多くの変化が見られます。
さらに、消費者の価値観も変化しており、品質や価格だけでなく、人権や環境への配慮も求められるようになっています。
その中で、世界では今後も服づくりの需要拡大が見込まれています。つまり、服を作る需要が増加する一方で、アパレルメーカーの要求に応えられる工場が限られてきているのが現状です。
実際に、アパレルメーカーの課題も「どこでつくるか」から「どこなら安心して任せられるのか」へと変わりつつあります。今、求められているのは単に縫製ができる工場ではありません。
それは、品質を維持できること、必要な時に供給できること、コスト競争力があること、生産地の変更に対応できること、さらには人権や環境への対応も説明できることです。
こうした要求を継続的に満たせる工場こそが、これからの時代に選ばれる工場だと考えています。
当社グループは単に工場を保有する会社ではありません。新たな生産地を開拓し、人財と技術を育成することで、お客さまが安心して任せられる工場を増やしてきました。そのため、「選ばれる工場」を増やしていくことが今後の成長につながると考えています。
2027年3月期 第1四半期|増収、将来成長に向けた先行投資局面
松岡:ここからは、足元の業績についてです。2027年3月期第1四半期の売上高は189億5,800万円となり、前年同期比11.8パーセントの増収となりました。第1四半期としては、過去最高の売上高です。
主力の縫製事業では、カジュアルウェアやワーキングウェアを中心に受注が増加しています。その需要に対応するため、生産ラインの増設や人員の拡充、技術指導の強化を進めており、生産能力の拡大が売上成長に寄与しています。
一方、利益面では、先行投資の影響が表れています。当社グループでは、本業の収益力をより明確に示すため、「為替差損益調整後営業利益」を重要な指標として開示しています。
第1四半期の為替差損益調整後営業利益は8億5,000万円となり、前年同期比で21.7パーセントの減益となりました。
この減益は受注減少によるものではありません。受注拡大への対応として人員を採用したことや、新たな生産ラインの立ち上げに伴う生産コストの増加が要因です。
また、新設したラインについては、従業員が技術を習得し、生産性が安定するまでに一定の時間を要します。そのため、現在は売上の成長に先行して投資を進めている局面とご理解いただければと思います。
経常利益は11億1,300万円で、前年同期比45.5パーセントの増益となりました。これは主に、第1四半期末の円安に伴い、ドル建て資産の評価益を計上したことによるものです。
また、親会社株主に帰属する四半期純利益は5億4,900万円で、前年同期比63.1パーセントの増益となりました。
まとめると、受注は拡大しており、売上高は過去最高を記録しています。その一方で、将来の成長に向けた生産能力の拡大のための投資を進めている段階にあります。
2027年3月期 連結業績見通し|修正なし
松岡:続いて、2027年3月期の通期業績見通しについてお伝えします。通期業績予想は、期初に公表した計画から変更はありません。現在、受注環境は縫製事業を中心に堅調に推移しており、通期計画の達成に向けて順調に進捗していると考えています。
今後は、生産能力の拡大に加えて、新たに立ち上げたラインの習熟度向上や生産性向上を進めることで、収益力の向上を図っていきます。引き続き、通期計画の達成に向けて取り組んでいきます。
株主還元
松岡:続いて、株主還元についてです。当社グループは、事業の成長に必要な投資を行う一方で、安定的かつ継続的に株主のみなさまへ利益を還元することを重視しています。
1株当たり配当額は、2024年3月期より段階的に引き上げてきました。2027年3月期からは、配当性向35パーセントを目安とする還元方針としており、1株当たり115円の配当を予定しています。
また、資金や株価の状況に応じて柔軟に還元強化を検討していきます。
中期経営計画の基本方針
松岡:ここからは、今期よりスタートした中期経営計画「BEYOND 2028」の進捗についてご説明します。昨年11月に発表した基本方針および内容については、当初の計画どおりで、特段変更はありません。
現中期経営計画「BEYOND 2028」では、最終年度である2029年3月期において、売上高900億円、経常利益60億円、親会社株主に帰属する当期純利益40億円、ROE9.0パーセントを目標としています。
基本方針は4つあります。1つ目は、工場稼働の最大化と生産の拡大です。これまでに構築してきた生産能力を最大限に活用し、増加する受注を確実に取り込んでいきます。
2つ目は、拡大を支える基盤への重点投資です。スマートファクトリー化や製造管理の高度化を通じて、品質と生産性の向上を目指します。
3つ目は、「資本コストや株価を意識した経営」への転換です。利益成長だけでなく、資本効率も重視し、企業価値の向上につなげます。
4つ目は、グローバル・ガバナンスの強化です。5ヶ国14工場をグループ全体の工場群として管理・運営する基盤を強化します。
この中期経営計画を通じて、アパレルメーカーの要望に応え続ける「選ばれる工場」へ進化し、その先ではROE10パーセントを目指します。
詳しい戦略は、過去のログミーFinanceの記事や動画でご説明していますので、あわせてご確認いただけると幸いです。
BEYOND2028の進捗
松岡:中期経営計画の半年間の進捗についてお伝えします。インドネシアの新工場は、現在あるインドネシア工場と同じジャワ島に建設を予定しています。
現在は工場建設に向けて、盛り土や水路工事など用地整備を進めています。今期中の着工を予定しており、2028年1月頃のテスト生産開始を目指しています。
坂本:用地整備が進行中のインドネシアの新工場は、今期中に着工し、2028年1月のテスト生産開始を目指しており、また、300万枚の増産を担う計画とのことですが、この新工場の建設に伴う投資の規模感を教えていただけますでしょうか?
稼働初期にはある程度の固定費が先行するというお話でしたが、利益にどのくらい影響するのでしょうか?
松岡:新工場単体での投資額は開示していません。中期経営計画で計画している工場拡大投資が71億5,000万円あり、この中に含まれているとご理解いただければと思います。
また、立ち上げ初期は固定費がどうしても先行するため、既存工場と同様、稼働率を高めながら収益化を目指していきます。経常利益60億円の目標も、このような立ち上げ費用を織り込んだかたちで設定しています。
坂本:資料にも「工場育成」と記載があるように、御社は工場を育成することが強みかと思いますが、未経験の現地の方を採用して教育される部分もあると思います。
大手のSPA(製造小売業)などは、品質の要求が非常に厳しいと思いますが、それに応えられるレベルに引き上げるには、御社がこれまで培ってきたノウハウがあると思います。技術指導の面でどのようなステップを踏んでノウハウを共有し、顧客の要求を満たして満足していただけるクオリティまで高めていくのか、その仕組みを教えていただけたらと思います。
松岡:おっしゃるとおり、私たちが採用するのはほとんどが未経験の方です。農業をされていた方も多く、実際に「昨日まで手にくわを持っていました」という方もいらっしゃいます。まずは、基礎教育から始め、決められた品質、決められた手順をしっかり覚えていただく土台を作ります。
土台ができた後は、実際の量産へと移行します。この際、数、品質、納期を同時に守る意識を徹底的に根づかせる必要があります。これをデスクワークだけで習得するのは難しいため、現場で実際のオーダーを流しながら学んでいきます。
ただし、一人ですべてを習得することは困難なため、成熟した旗艦工場から技術者を派遣します。派遣されるのは教育が可能なレベルに達した技術者で、現地で直接指導を行います。このプロセスを、私たちは「技術移管」と呼んでいます。このようにして、現地で指導を行っています。
坂本:他の工場から熟練者が派遣されて立ち上げを支援し、そのノウハウを活かして次につなげていくということですね。
松岡:技術者は、ジャケット、パンツ、スカートといったすべてのアイテムを一人で製作できるわけではありません。パンツを生産する工場にはパンツの職人が、ブルゾンを生産する工場にはブルゾンの職人が派遣されます。それぞれのアイテムに応じて適切な技術者が選ばれるのです。
坂本:そのように立ち上げられているのですね。御社は、昔は中国にあった工場を東南アジアへ移すなど、多くの工場を立ち上げた経験があるため、このあたりのノウハウは相当蓄積されているのだろうと思います。
荒井:働く方の負担も少ないようですね。「これのプロになればいい」ということですね。
松岡:そうですね。あまり多くを求めると、本当に習熟度が上がりません。
荒井:パンクしてしまいますよね。
松岡:そのとおりです。パンクしてしまいますので、集中できるように、できるだけ内容を絞って教えています。
インドネシア新工場(2026年8月時点)|用地整備が進行中
松岡:スライドの画像は新工場の建設予定地での工事の様子です。インドネシアは豊富な労働力を有しており、将来的な生産体制の強化に適した国の1つです。
ご覧いただいているのは盛り土の写真で、整地をしているところです。少し広さがわかりにくいのですが、約6万8,000平方メートルで、東京ドーム1.45個分に相当する規模です。
中期経営計画の最終年度である2029年3月期には本格稼働を予定しており、中期経営計画の目標達成に貢献する工場となるよう運営を進めていきます。
BEYOND2028の進捗
松岡:スマートファクトリー化プロジェクトについてです。現在、2つの工場をパイロット工場として導入を進めており、いずれの工場でも機械設備の設置が完了し、試験運用を開始しています。計画発表当初の予定からは一部遅れていますが、個々に確認しながら確実に進めている段階です。
スマートファクトリー化でマツオカがどうなるのか|試験運用中
松岡:あらためてスマートファクトリー化についてご説明します。スマートファクトリー化の目的は、単に機械を導入して人に置き換えることではない点にあります。
生産状況を正確に把握し、工程を可視化することで、品質、生産性、納期対応力を高めることが目的です。現在、生産、品質、在庫といった情報が工場ごとに分散しているため、状況の把握や集計に時間がかかり、問題が発生してから確認して対応するかたちになりがちです。また、判断も現場の経験に依存する部分が残っています。
ここにMES(製造実行システム)やERP(統合基幹業務システム)といった共通基盤を導入し、データを統合することで、世界各地の工場の状況を横断的に把握できるようになります。
将来的には、グループ一体での工場運営に移行し、問題や変化に事前に備えることで、工場間で生産や納期を迅速に調整し、共通の基準に基づく判断と改善が可能な体制を目指します。
例えば、ある縫製ラインで生産が予定より遅延している場合、従来は管理者がその現場に赴かなければ状況を把握しづらいことがありました。しかし、スマートファクトリーが導入されると、このような遅延を早期段階でデータ上で検知できるようになります。
その結果、即座に人員配置を見直したり、他のラインで一部を補ったりといった判断が行いやすくなり、生産の遅延を最小限に抑えることで納期や品質を守ることにつながります。
なお、スマートファクトリー化によって機械が人に取って代わるわけではないため、従業員数が減少することはありません。一人ひとりの作業を仕組み化し、生産ラインの流れを止めない工夫と、管理者の判断スピードを向上させる取り組みです。
坂本:現在、パイロット工場の2工場でMESとERPの試験運用が進められているということですが、縫製現場は精密な手作業を多く伴う環境であると認識しています。そのような環境下において、デジタルシステムを従業員の方々やライン管理者に定着させるのは非常に難しいのではないかと思います。一番のハードルについて教えていただけますでしょうか?
松岡:一番のハードルは、実は操作を覚えることではありません。デジタルを導入しつつも、現場がシステムに依存しないことです。
坂本:やはり技術や手作業が根本にあるということですね。
松岡:単にシステムの不具合が原因で生産が止まるようでは、本末転倒で意味がありません。標準化された現場運営がまずあって、その上でデジタルを活用するという考えです。パイロット工場では現在、その確認手順をチェックしながら導入を進めているとご理解いただければと思います。
坂本:これが浸透すれば、他の工場でも活用して生産効率をさらに向上させることができるということですね。
BEYOND2028の進捗
松岡:連結従業員数についてです。縫製事業では、従業員数が生産能力に直結するため、重要なKPIとして開示しています。2026年6月末時点で2万2,106人となり、そのうちバングラデシュでは1万人を突破しました。
連結従業員数推移
松岡:スライドのグラフは連結従業員数の推移です。中期経営計画では、2029年3月末に2万4,000人を目標としています。採用した人財に技術指導を行い、技術を身につけていただくことで、初めて生産能力として機能します。
人員の拡大と育成を両輪で進めることで、事業拡大につなげていきます。
キャピタルアロケーション方針 (27/3期~29/3期累計)
松岡:最後に、キャピタルアロケーションの方針についてご説明します。原資となるのは、2027年3月期から2029年3月期までの営業キャッシュ・フローに、有利子負債などの追加調達資金を加えた配分可能資金です。
この3年間で150億円から200億円を配分する計画です。配分先は大きく3つあり、1つ目は成長・事業基盤への投資で、全体の55パーセントから65パーセントを充てます。
具体的には、生産能力を拡大するための工場投資、既存工場の安定稼働と安定供給を維持するための投資、そしてスマートファクトリーへの投資です。
成長・事業基盤への投資は3年間の累計でおよそ100億円を見込んでおり、そのうち今年度は80億円を計画しています。現在は投資の山場にある時期だとご理解いただければと思います。
2つ目は株主還元です。配当性向35パーセントを目安とし、業績に応じて還元を強化していきます。
3つ目は機動的に使う資金です。新規事業やM&Aへの投資、財務基盤の強化、またリスクへの備えとして確保しておくものです。
あわせて、資本構成においては自己資本比率を45パーセントから55パーセントの範囲で維持し、健全な水準を保つ方針です。つまり、財務の健全性を保ちながら投資と還元の両輪を強化し、投資によって生まれたキャッシュ・フローを次の成長と還元につなげていく考えです。
本日お伝えしたこと
松岡:最後に振り返ります。1点目は、マツオカが世界の服づくりを支えるアパレルOEMメーカーであるということです。
2点目は、マツオカの競争優位性が「工場を育てる力」であるということです。人を育て、品質と生産性を高め、安定供給できる体制を築いてきたことが、お客さまとの長期的な信頼につながっていると考えています。
3点目は、成長の成果を還元することです。「選ばれる工場」への進化を通じて収益力を高め、ROE10パーセントを目指していきます。
今後とも積極的にIR活動に取り組んでいきます。本日はありがとうございました。
質疑応答:売上高900億円達成に向けた取り組みと課題について
荒井:「今後の市場需要と生産体制を踏まえ、売上高900億円達成後のさらなる成長余地や懸念点はどこでしょうか?」というご質問です。
松岡:売上高900億円は通過点と捉えています。既存工場のさらなる成長に加え、高付加価値商材に取り組むことで、1枚当たりの単価を上げていく余地もまだ残っています。そのような取り組みを強化していきたいと考えています。
課題は、規模を大きく拡大しながら、人財育成と工場運営のレベルを維持できるかどうかです。ここが非常に重要な点であり、私たちは強く意識して注視しています。この課題に取り組みつつ、持続的成長を実現していきたいと考えています。
質疑応答:縫製業におけるAI活用と自動化の可能性について
荒井:「フィジカルAIや高性能な作業ロボットなどが昨今メディアなどで話題ですが、御社のAI活用実態はどれほど進展しているでしょうか? 工場の現場やバックオフィス業務など、今後どのようにAIを利用していく見込みがあるのか、現状を教えていただければと思います」というご質問です。
松岡:「フィジカルAI」というのは、ロボットのようなものですね。
坂本:ロボットが縫製を行うイメージですね。
松岡:縫製で実際に効いてくるのは、工程を切り出した自動機というものです。いくつかの工程を自動機が担うかたちになりますが、縫製業は依然として人が中心であり、「人を減らす」という発想ではありません。
むしろ、人がより適切な判断をするために、AIが情報を提供し、先を予測できるようになるのが望ましいと考えています。生産管理や品質管理の分野においても、活用を進めていけると考えています。
坂本:よくある例として、検品時に針がないか確認する作業もありますよね。
松岡:そうですね。最近ではレンズ技術の進化が非常に進み、AIセンサー系の「見る」機能が優れていると聞いています。私たちもAI検反機のような機械は認識しています。
坂本:ニットなどについては、自動化には至らないものの、切断や貼り付け、縫製作業は少ないように感じますが、そのあたりの導入状況はいかがでしょうか?
松岡:ニットをはじめとする生地には落ち感といいますか、たるみが生じるため、機械でセットする際にもその柔らかさに応じた調整が必要です。その調整は依然として人の手によるものです。
坂本:非常に細かい技術が求められるお仕事なのですね。
松岡:そのとおりです。
荒井:AIやフィジカルAIが、その技術の段階に到達するには、まだ時間がかかりそうですね。
坂本:本当にシンプルなものは可能かもしれませんが、デザインが複雑で要求水準も高いため、なかなか難しいですよね。
松岡:とにかく、生地はどれを取っても同じものはありません。
坂本:仮に自動化できたとしても、細かい設定が必要になるということですね。
松岡:おっしゃるとおりです。
質疑応答:中東情勢の不安定化によるコスト増の影響について
坂本:「中東情勢の不安定化や物価の上昇によるコスト増の影響はあるのでしょうか? 製品を卸す価格に転嫁できるかたちになっているのでしょうか?」というご質問です。
松岡:製品の価格をすぐにお客さまに転嫁することはできません。まずは当社グループとして生産性の向上に努めていきたいと考えています。
また、先ほどからお伝えしているスマートファクトリー化では、ボトルネックがリアルタイムで早期に把握できます。そのため、タイムロスをなくし、あらゆるロスを削減するという発想のもとで、進めていきたいと考えています。
坂本:人件費が安い地域に進出されているとは思いますが、そこも物価上昇と世界的なインフレの影響で、少しずつ上昇してきているのでしょうか?
松岡:そうですね。これは今に始まった話ではありませんが、新興国では最低賃金が毎年7パーセントから10パーセント程度上昇しています。そのような変化を吸収しなければならない状況は、常にあります。
坂本:そのあたりは、すでに20年、30年と続けてこられた取り組みなのですね。
質疑応答:新工場建設が地域社会に与える影響について
荒井:以前のセミナーで、新しく工場を建設する場所が、本当になにもない畑ばかりのところだというお話がありました。また、昨日までくわを持っていた方々が縫製工場で働くことで、街を作るような役割も果たしているというお話もあったかと思います。
御社には、「工場を育てるプロ」という強みがありますが、現在運営されている工場の周辺もにぎわいを見せているのでしょうか? 働く方々が安定して賃金を得られることによって、周辺の街の様子も安定していく、そのような傾向をご覧になっていますか?
松岡:工業団地や先ほどのような村にぽつんと進出するのですが、周辺には当然にぎわいが生まれます。何千人もの方が出勤されるため、その周辺には人の活気が生まれています。
荒井:坂本さん、街を作っていくという活動は、日本の企業として、日本人としても誇らしく感じますよね。
坂本:そうですね。農業をされていた方が御社の工場に勤めることで、少なくとも給料は高いと思います。そのため、地域貢献にもつながると思いますし、定着する1つの要因になっているのではないかと考えます。
質疑応答:為替変動が会社の利益に与える影響について
坂本:よく聞かれる質問かと思いますが、為替について、御社の場合は円安に振れたほうが利益が増えるのか、円高に振れたほうが増えるのか、どちらでしょうか?
松岡:一概には言えませんが、円安の方向が当社グループとしては利益面でアドバンテージになります。
坂本:急激に動くとやはり問題が出てきますよね。ここ数年はそれが多くの企業のネックな点だったと思います。そのあたりは、緩やかな動きであればということですね。
松岡:おっしゃるとおりです。
松岡氏からのご挨拶
松岡:長い時間お聞きいただき、ありがとうございます。当社グループは今年で設立70周年を迎えます。この70年の間に、多くの衣料品を世に提供してきましたが、実際には消費者の方が当社グループを知る機会はほとんどありません。おそらく服の裏側のネームタグには、「メイド・イン・生産国」と記載されているという、そのような状況だと思います。
しかし、昨今の時代には、ものづくりの透明性や姿勢をしっかりと見せていくことも必要だと考えています。このような場を借りて、また、ホームページなどを通じて情報を公開していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします。ありがとうございました。