◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「共産主義者を追い出す(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
※この論考は9月30日の<Casting out the communists>(※2)の翻訳です。
米国に対中政策はあるのか?
そもそも国賓訪問で一方が大きな利益を得ることは珍しく、中国側はイラン問題で米国を支援すると公の場で約束したことは一度もない。だから今回の国賓訪問や、共産主義の脅威を煽るトランプの政治広告はいったん脇に置いておこう。その上で、共産主義者に強硬な姿勢を取ることと中国に強硬な姿勢を取ることはまったく別の話だ。米国には果たして対中政策と呼べるものがあるのだろうか。中国問題は議会で超党派の支持を得られる唯一の課題だろうが、上下両院の多くの議員が中国に厳しい姿勢を取りたくとも具体的な計画は一切ない。確かに中国には高率の関税が課されているが、昨年発表された数字からは大幅に引き下げられている。半導体の輸出制限もあるが、特に大手半導体メーカーの賛同は得られていない。そして中国による経済的威圧へのいかなる対抗措置も、米国とその歴史的同盟国の協調なくして効果はない。トランプが同盟関係を破壊し、ロシアや中国に対するよりもはるかに激しくカナダや欧州を威圧する中、特にEVやクリーンエネルギーの分野でカナダと欧州が中国からの輸出品を今なお受け入れているのは驚くことではない。カナダ、欧州、韓国、日本はいずれも米国という問題を抱えているが、中国がその解決策でないことは明らかだ。パックス・アメリカーナは終わり、従来の同盟諸国が以前と同じ水準で米国を信頼することは決してないだろう。だが経済だけを見ても中国が米国に取って代わることは不可能だ。
第一に、習は世界秩序において米国に取って代わろうなどと思っていない。習は確かに中国が覇権を握ることを夢見ているが、現在の世界秩序で米国に代わろうとしているわけではない。彼が考える中国の役割はまったく別である。覇権国でありながら世界の警察官とはならず、世界情勢に積極的に関与しない受け身の大国だ。第二次世界大戦後に世界の主流となった国際規範の維持や紛争の仲裁には積極的に関与しない。中国とロシアは親密とはいえ対等なパートナーというわけではない。しかし、両国の世界観と目的は共通している。国際社会での米国の指導的役割を弱め、あらゆる制裁や協調的措置から自国を守ることだ。その点で、両国はトランプが大統領であることを大いに歓迎している。トランプは日々、世界での米国の地位を弱めている。中東での「終わりなき戦い」から抜け出せないだけでなく、米国をこれほどまでの超大国に押し上げた同盟体制をも著しく弱体化させている。
習の訪問は米国にとって何の成果もなかったが、米国が対中政策をほとんど前進させられなかったという点で、中国側に有利な結果となった。習には懸念すべき課題が多い。中国の国内経済は控えめに言っても低迷したままだ。中国の債務状況は米国より深刻で、各地の地方政府は基本的なサービスや賃金の確保に苦慮している。指導部は他国と同様にAIについて懸念を抱いており、それは検閲の観点からだけではない。習の最大の関心事は党の権力維持にあり、AIを制御できなければ支配の根幹が揺らぐかもしれないからだ。中国はグリーンエネルギーの分野を主導しているが、気候変動から受ける影響が大きい。習としては、米国が国内問題に翻弄され、従来の同盟国と協力できないでいる現状こそ願ってもない状況だ。トランプは「中国を再び偉大に」しているわけではないが、中国に実質的な圧力をかけているわけでもない。過去を変えることはできないが、米中関係が今のようでなかったらと想像してみよう。米国の大統領がトランプ1期目やバイデン政権下の関税政策や対中規制を引き継いでいたら、先進国と発展途上国からなる広範な協調体制を築き、中国による低価格消費財やハイテクEVのダンピング、レアアースの供給ボトルネックといった中国の経済的威圧に対処できたかもしれない。だが、現実に中国と対峙するのは共通の懸念を抱く国々の同盟ではなく、ポスト・アメリカ時代に生き残りを賭けて経済政策を模索する国々だ。
香港の今
共産主義者が追放されていない場所の一つが香港だ。多くの観測筋にとって香港の現状は捉えにくい。香港の資本市場は停滞期を経て活況を呈している。今年に入ってすでに1兆人民元を超える点心債やパンダ債が発行され、ファストファッション小売大手シーイン――同社株はIPO以降大幅に下落したとはいえ――のような著名企業を引き寄せている。こうした資本主義的なビジネスの活況の中、香港政府は初めて五カ年計画を発表し、中国本土と歩調を合わせる姿勢を示した。何十年にもわたりヘリテージ財団に「世界で最も自由な経済」と呼ばれていたこの地が、いまや五カ年計画を発表するようになったのだ。
香港はもはや世界の国際金融センターとは言えず、中国のための国際金融センターとなった。中国の国内経済と共産党を守る資本規制の壁を維持し、管理された形で国際金融市場とつながる窓口となっている。
一方、港の対岸の西九龍では、毎年6月4日に天安門事件で亡くなった犠牲者の追悼集会を主催していた鄒幸彤(チョウ・ハン・トン)、李卓人(リー・チャクヤン)、何俊仁(アルバート・ホー)の3人が、国家政権転覆を扇動した罪で5年から7年3か月の刑を言い渡された。判決の中で、同団体が暴力や暴力による脅しに関与しておらず、中国本土での一党支配を終わらせるための具体的な計画もなかったと裁判所が認めているにもかかわらず、である。香港が何であれ、「香港は平常に戻った」という単純な見方は誤りだ。
皮肉なことに、2019年に香港でデモが起こった際、多くのデモ参加者は米国とトランプが香港・中国の両政府に対抗する助けになってくれると期待し、米国は実際いくつかの支援措置を講じた。だがそれもはるか昔のことのように思える。共産主義者にとって、トランプはいまや最高の大統領だろう。
中国・習主席が訪米 国立公文書館を訪問(写真:AP/アフロ)
(※1)https://grici.or.jp/
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